映画「眉村ちあきのすべて(仮)」プロデュース記3 ~ロケハン・キャスティング編~
映画「眉村ちあきのすべて(仮)」プロデューサーの上野遼平です。色々とバタバタしていて少し空いてしまいました。すみません。そして松浦監督、胸打つコラムありがとうございました。
今回は、ロケハン・キャスティング編と題して、キャスティング(出演者の選考・オファー)とロケハン(ロケ地探し・下見)を中心とした撮影準備の事を振り返ります。
ロケハンを振り返る
映画の出来上がりを左右する最も重要な要素のひとつがロケ地です。視覚情報の大部分を占めるため、映画の出来を大きく左右します。
早速松浦監督とイメージを共有しながらロケ地の候補を調べていくのですが、基本的にこの映画では、架空の施設が沢山登場するため、本来ならば、美術セットを作ったりCGで作ったりしなければなりません。しかし勿論そんな予算はどこを探してもありませんから、それっぽい所を探す事になります。しかし、巨大な近未来的な研究所や、射撃場(本編には登場しません)などはどのようにすればいいのか…。
しかもこの辺になってきて、僕はある事をわかり始めます。
松浦監督は、めちゃくちゃこだわる!!!
「この場所はいかにもって感じ過ぎる」「こういうのはダサい」など、結構ひとつひとつうるさいので、なかなか話が前に進みません。いい場所だなと思ったら使用料が高かったり…。「敢えてチープな感じでいい」って言ったじゃんかー!(※詳しくは前回の記事を読んで!)めんどくせー!という気持ちと同時に、こういうこだわりがひとつひとつある監督とは良い映画が作れるな、「ダメなチープ映画」にはならないな、と確信を持てました。
映画監督には「こういうのは恥ずかしくて出来ない」みたいな美学というか、基準みたいなものが無いと、ダメだと僕は思っています。どんなに予算や時間が無くても、役者の演技が思い通りに行かなくても、その軸が明確であれば踏み外す事はありません。
めんどくさくても、お金がかからない事であれば、やれるところまでやりましょう!というのが、今回の僕のプロデューサーとしてのポリシーになりました。
監督の中で明確な軸がある事がわかった今、そのこだわりを最大限に発揮してもらう為には、お金と時間が許す限りそれに付き合いますよ、という他にありません。お金と時間が許さない時はプロデューサーとしてストップをかけますが、最初から僕が用意した枠組みにはめ込むやり方は今回は違うなと思いました。(後者のやり方に出る事もあります。というか低予算で作るならそうしなければいけない事が多い)
ある種の放任主義的発想ですが、これがなかなか勇気のいる事なのです。出力MAXのロデオマシーンに乗るようなもので、それでもって落っこちそうな時は、必ずどうにかしてそれを阻止しなければいけない!どういう手が使えるか全く見当もつかないけどね!!!みたいな感じです。
そんなこんなで、射撃場はバッティングセンターを改造してみましょうとか、研究所の中はとあるコワーキングスペースが近未来的だとか、渋谷の再開発されたところのあそこ近未来的だよねとか、知恵を振り絞ってロケ地のあたりをつけました。
ここで松浦監督の良かったところは、こだわりは強いけど柔軟だった事です。プロデューサー(及び助監督的立場)として「ここは使用料高いですよ」とか「スケジュール的に成立しませんよ」とかいう現実を突き付けなければならない事が多々あります。そして実現可能な方法をディスカッションします。すると監督は、「じゃあこのロケ地のあそこの部分であのシーンも撮っちゃいましょう」と言ってくれます。それによって脚本も変化していきます。
ここで映画監督を目指す少年少女に向けて(多分読んでないけど)、大事な事を言います。
こうじゃなきゃいけない!というビジョンを変えられない事はこだわりではありません。引き出しが少ないだけです。こだわりを持ち、それが何かを自覚しているからこそ、不利な状況下でも最善を導き出せるのです!
この【マツウラ・アイ】が見据える【マツウラ・確固たるビジョン】は、その後も様々な局面で【マツウラ・ミラクル】を起こします。それはまた次回以降の記事で!
キャスティングを振り返る
次はロケ地と同じく最重要事項のキャスティングについて語ります。
主演が眉村ちあきさんである事は当然既に決まっていましたが、他の役者さんは決まっていませんでした。
キャスティングのイメージを監督に聞くと、それぞれの役のイメージを教えて下さりました。そして「なんか豪華な感じがいいですねぇ…」とも。豪華なキャストなんて呼べねえよ!!!
出ました【マツウラ・ムチャブリ】!予算も無いし、そもそも眉村さんをただひたすら引き立てる為の映画の、ただひたすら引き立てる為の役を引き受けてくれるかよ!!!と、言いつつ「やれるところまでやる」ポリシーを思い出す。そうしてキャスティングに動き出すのでした。
まず、研究者という役柄の小保方・・・いや、小方役です。監督のイメージを聞いていくと、徳永えりさんが良いのではないかという話になりました。けどそれはあくまでイメージキャストの話。徳永さんといえば数々の映画やドラマにご出演なさっていて、その頃で言えばテレビ東京ドラマ「恋のツキ」、映画「疑惑とダンス」、映画「月極オトコトモダチ」など主演作が相次ぐ売れっ子女優さん。実際に出てくれるはずが・・・。しかしもう、こちらも覚悟を決めた身です。一か八かだ!
出てくれた!!!!!!!!
数多の有名女優が所属する事務所・フラームの担当マネージャーT氏は、とにかく先見の明と頭のおかしさを兼ね備えている方で、この企画を面白がって下さりました。
僕がその前年にプロデューサーを務めた「アストラル・アブノーマル鈴木さん」の主演が松本穂香さんなのも、T氏の珍妙な提案から始まった作品で、松本さんがめちゃくちゃエキセントリックなYouteber役を演じています。
なんやねんこのアホみたいな眼帯!
色々と「あれはダメ、これはダメ」というマネージャーさんも多い中、T氏はとにかく作品の面白さを大切に考えて下さるマネージャーさんです。「月極オトコトモダチ」「アストラル・アブノーマル鈴木さん」の企画・配給の直井さんと僕が関わっている作品という事もあって快諾して下さったはずなのですが、本作の撮影前に浅草のホッピー通りでの飲み会での帰り道で「上野さん、『眉村ちあきのすべて(仮)』の脚本、マジで狂ってますねー。なんで出演OKしちゃったんだろー。」と冗談でT氏が仰っていて、僕は心の中で「なんでさっきまで酒飲んでたのに今が一番シラフなんだよ・・・」と思ったのでした。
次に、意識高い系経営者風の研究所の所長・前田役ですが、こちらは僕から品田誠さんを提案致しました。品田さんは「the face」という池袋の映画館の特集上映の第一弾として「品田誠特集」が組まれるほど、インディーズ映画を中心に数々の作品で主演をしたり、監督もされる、これまた超注目の俳優さんです。自分で提案しておきながら、凄く硬派で真面目な映画に出たり、監督されているし、こんなアホみたいな映画絶対に出てくれないだろ・・・と思いながらオファーしたら、
出てくれた!!!!!!
初対面、衣装合わせの時「(脚本を読んで)ハリウッド映画のオファーが来たのかと思いましたよ!」とニッコリ。映画に出てる時はシリアスな顔とかしてんのに、この人もバカじゃん!!!でも、【ココロザシウッド】(=志だけはハリウッド)の我々スタッフ陣の気持ちを感じ取って下さる俳優さんに出会えて本当に良かった!
次に、この映画のナビゲートを務めるナビゲーター役ですが、これが一番難しい。監督は本人役として出てくれる女優さんを探していました。そこで白羽の矢が立ったのが、小川紗良さん。本作は当初MOOSIC LABという映画祭に出す事を目標としていて、小川さんはこれまでのMOOSIC LABで「聖なるもの」のヒロイン役や「BEATOPIA」の監督などで観客に強い印象を遺していました。MOOSIC LABのミューズ的存在であり、この映画で本人役として出演して頂くにはぴったり(内輪ネタ感満載の動機ですが)!しかも声も綺麗で、日曜日のお昼のドキュメンタリー番組みたいな感じだし!しかし朝ドラをはじめ様々なドラマや映画に出ていて、今や世間が注目する女優・映画監督(最近では「文學界」にコラムも載ってた!)。イメージが大事な時期だろうしなぁ・・・大丈夫かなぁ・・・。
出てくれた!!!!!
本読み(脚本の読み合わせ)の時「これどんな感情で読めばいいのでしょうか?」と問う小川さんに、「ナビゲートする感じで」と答える松浦監督。小川さん、どういう気持ちなんだったんだろう・・・。そんな小川さんも、撮影初日のメイクルームを覗くと、Youtubeで眉村さんの曲を再生していて、メイクさんや眉村さんと楽しそうに話していてどうやら気に入っている様子。そういえば小川さん、ドルヲタだった!
セキュリティ部隊のリーダー、乾役には月登さん。56歳の強面ベテラン俳優さん。さすがにもうこの脚本、理解してもらえないんじゃないかと思いながら恐る恐る所属事務所に台本を送ってみると・・・
出てくれた!!!!!
「こういう作品は初体験ですが・・・頑張ります!」と仰って下さりましたが、そりゃそうだろうよ!
そんな訳で、【ココロザシウッド】のアベンジャーズ結成!!!
しかし喜んでばかりもいられません。出演料、どうするんだ!?そこで僕が監督に課したのは、役者さんが出演するシーンは5日以内に撮影する事。そして上手くスケジュール調整し、各出演者の稼働日数は3日以内に収めました。更にはスタッフが少ない事が功を奏した部分としては、出演者を期間で押さえず、可能な限り、それぞれの空きスケジュールに合わせて撮影日を決定し、負担を減らしました。ここは【ウエノ・ミラクル】です。
しかし、まだまだ難関がありました。大量に登場する研究員・セキュリティー役と、これまた大量の眉村ちあきボディダブル(替え玉のこと)。本当に大量に必要なので、募集する必要がありました。
そこでSNSで、研究員・セキュリティー役は「ガタイ良さげな男性」をボディダブルは「眉村さんっぽい背格好と髪型の人」を募集しました。さすが眉村さん、マユムラー(ファン)が沢山いるからめっちゃ応募きた!すげえ!
ここで出ます!【マツウラ・ミラクル】!ある時、ガタイの良さげな男性でやってきたマユムラーの中である人に目をつけます。彼の名は岡山誠さん。岡山さんは劇団に所属する俳優さんである事を知っていた監督は、まだキャストが決まっていなかった、セリフが必要な研究員役に抜擢したのです!しかも、なぜか実名で名前のテロップまで出る。自由!!
撮影が進んできたある時、カフェで打ち合わせしていると、監督はこれまた奇想天外な事を口にします。「本物の生物学者を出演させたい」と。はいはい、【マツウラ・ムチャブリ】すね。そんなシーンは脚本に無いのに、何を言い出すのかと思いましたが、当時通っていた大学の冨田勝教授を口説き、出演してもらいました。そうして生命科学的な視点から眉村ちあきを語るシーンが追加されました。
しかしここまできて、あるトラブルが発生!眉村さんのボディダブルに名乗りを挙げて下さった方々に、演技とダンスのレッスンとして集まってもらったのですが「眉村さんっぽい背格好と髪型の人」を募集したはずが、みんなマチマチなのです。そら、そんな都合よく同じ背格好と髪型なわけが無いわな〜と当たり前の現実に直面します。とりあえず、髪型はウィッグで対応しましたが背格好だけはどうにもならず・・・。さあ、どうする!?
次回!!背格好問題、【マツウラ・ミラクル】で乗り切る事は出来るのか!!!!乞うご期待!
映画「眉村ちあきのすべて(仮)」渋谷ホワイトシネクイントでの上映は7/30まで。お見逃しなく!
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