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「和賀英良」獄中からの手紙(2)   今西栄太郎の残したもの

吉村 弘様

拝啓
突然のお便り誠に失礼いたします。

私は以前に警視庁捜査一課におりました今西栄太郎の次男で今西遼平と申します。父、栄太郎でございますが二年ほど前に胃ガンと診断され、手術後は入院のまま加療を続けておりましたが、転移などありまして昨年の年末に逝去いたしました。

吉村様とは蒲田操車場殺人事件では一緒に働いたとお聞きしておりました。生前には大変お世話になり誠にありがとうございました。改めまして厚く御礼を申し上げます。

さて今年に入りまして父の遺品を整理したところ、捜査メモなどと共に桐箱に入った多数の手紙がございました。その中に服役中であった和賀英良からの手紙が複数ございます。内容を少し読んだところ、事件の詳細について言及している部分があり、これらは当時の捜査内容を超えたところにあると感じた次第です。

手紙は封筒が残っているもの、本文だけのもの、もう少し後半があるかと思われる文面の前半のみ、メモ、走り書きや暗号のようなもの、ファンからの手紙など様々です。

これらが実際に刑務所から投函され父が受け取ったものか、あるいは父が和賀氏の遺品を引き取ったものなのか、刑務所内の検閲があり投函されず、いわゆる「領地」と呼ばれている受刑者専用の保管箱に残されていたような手紙なのか、すべてが定かではありません。

また消印も不明瞭で、その手紙がどのような時系列なのか、残念ながら今となっては確認のしようがございません。その中に父が和賀に宛てて書いた手紙も一通だけございます。それは未投函のまま残されたもので、下書きかと推察されます。

父栄太郎は入院の際に「戻ったらやらなくてはいけないことがある」と申しておりました。それはこれらの手紙をすべて処分することであったかと思われます。しかしながら自宅に帰ることは叶いませんでした。

当時、捜査の中心におりました栄太郎ですが、その後は事件に対するコメントは全くせず、マスコミの取材に対しても口を閉ざし、事件の細部については家族も推測できないような状況でございました。

退職後の父はごく普通に引退生活をしておりましたが、病に伏す直前から急に仏教や神道の本をたくさん買い込み、キリスト教の聖書なども読むようになりました。そして私に向かって「死とはなにか、人は死ぬとこうなる」などスピリチュアルな話をするようになりました。今考えれば自分の肉体を維持するのに、あまり時間がないことを察知したのかもしれません。

また和賀が残した手紙ですが、よく考えてみますと父は私や家族にこれらの手紙の処分を依頼することもできたように思われるのですが、入院中でもそうした指示はございませんでした。父はこの手紙や資料を意図的に自宅に残して、後に発見されるように仕組んだのかもしれません。

父がこれらの手紙に返信したかどうか、検閲で問題があるとはねられ「領地」に入れられたか、あるいはこれらの内容が真実かどうか、すべてが偽物で他人の創作であるかまったくわかりません。

ましてや捜査のやり直しや再審などが検討されることはないと思われますが、すでに獄死している和賀英良による記述として内容を改めて検証する必要があるだろうと感じております。まずは和賀英良からの手紙をご一読いただき、ご意見をいただければと存じます。

以上、何卒よろしくお願い申し上げます。

敬具

今西遼平

『今西栄太郎』(C)1974・2005 松竹株式会社/橋本プロダクション

第3話: https://note.com/ryohei_imanishi/n/n1c27ca473ca3

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