「和賀英良」獄中からの手紙(29) キスの言い訳
烏丸教授のマンションは藝大にほど近い根津にあり、坂に沿った低層の建物は周囲の森と調和してモダンなたたずまいを見せていた。
近くには菓子舗の「うさぎや」や、藝大生の好きな台湾デザートのお店「愛玉子(オーギョーチー)」大正期の昔からある「カヤバ珈琲」など、下町の情緒があふれる、江戸の風情を感じさせる場所であった。
和賀はその洒落たマンションにたびたび足を運び、教授の手作りの料理を食べながら、二人の時間をゆったりと過ごしていた。
ある夏の夜、烏丸がキッチンでブロッコリー切りな