今西 遼平

作家、ルポライターの今西 遼平(いまにしりょうへい)です。 元警視庁捜査一課の巡査部長…

今西 遼平

作家、ルポライターの今西 遼平(いまにしりょうへい)です。 元警視庁捜査一課の巡査部長「今西栄太郎」の次男として、 映画「砂の器」でよく知られた「国鉄蒲田操車場殺人事件」の犯人「和賀英良」のその後を追っています。

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映画 「砂の器」その後はどうなった? 後日譚として、続編を書く。

【連載】 「和賀英良」獄中からの手紙 がスタートしました。 2024年、つまり映画「砂の器」公開から50年の節目。 ようやくその事件の全貌がここに明らかになる。 有罪判決を受け収監された犯人「和賀英良」は獄中で死亡。 当時捜査に当たった今西刑事も昨年ガンでこの世を去った。 若手だった吉村刑事は警察を退職。後に事件で知り合った「田所佐知子」と結婚、政界に進出して華々しく活躍、そして引退。 ところが、和賀英良が獄中より今西刑事に送った手紙が、昨年末に今西宅の屋根裏から発

    • 「和賀英良」獄中からの手紙(33)  不安と焦燥 New!  

      ―アンビバレントな芸術家― 和賀は自宅リビングのソファーに寝転がって煙草を吸いながら考え込んでいた。そして自分を取り巻いている人間の心の動きを整理しようと、必死に頭を巡らせていた。 佐知子はいつものようにリボンを着けた子猫と遊んでいる。 愛人である理恵子の存在を佐知子は知っている。つまり父親の田所も知っているに違いない。田所は一人娘の佐知子からそれを聞いて、娘の敵である愛人の存在さえも消そうとしたのではないか。 和賀は疑心暗鬼になっていた。 理恵子は和賀の車で移

      • 「和賀英良」獄中からの手紙(32)   二人の攻防

        ―猫にリボン― 大蔵大臣である田所重喜の娘、佐知子は和賀に遠回しに結婚を迫るが、いつもはぐらかされていた。 佐和子は和賀が飼っている子猫の首に青色のリボンを付けた。 和賀はそんな佐和子の抑圧された心情をなにも理解していなかった。 佐和子は、キジトラの子猫を胸元に抱きながら言った。 「ねえ、英良さん、パパは早く結婚しろって、もう週刊誌のゴシップ記事はイヤ!」 「私はあなたとなら幸せになれると思うわ」 和賀はそんな話をまったく聞いていないかのように、こう言った。 「

        • 「和賀英良」獄中からの手紙(31)  佐知子の危惧    

          ―「ごんぎつね」撃たれて当然― 佐知子は等々力の自宅の部屋でベッドに寝ころがりながら、和賀との関係をぼんやりと考えていた。 それは親密な関係でありたいと思う反面「深入りしてはいけない」とささやく小さな声が自分を押しとどめていた。 和賀はまさに時代の寵児で、前衛的な作品を書かせたら右に出る者はいない作曲家。しかしながら、その表面的な輝かしい業績の裏に、なにか隠された暗黒の闇を感じる時がある。 そして不安の種をわざとばらまくような言動はなぜなのか。和賀の前で将来のこと、そ

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          「和賀英良」獄中からの手紙(30)  田所大臣の暗躍 

          その日の夜、田所重喜は珍しく自宅の書斎に居た。 今日も国会での審議や党の役員会、新聞記者との懇談があったが、夜の九時過ぎに自宅に戻り秘書も帰宅し、久しぶりにゆったりとした一人の時間を過ごしていた。 田所は自分の秘書がいつも怯えていることに少し腹を立てていた。 今日も帰り際に「失礼いたします」と緊張の面持ちで歩き出そうとしたところ、段差がないのにもかかわらず、つまづいて転びそうになっていた。 なぜそれほどまでに私に対して萎縮するのか。 真面目なのは良いが、無意味に自分

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          「和賀英良」獄中からの手紙(29)    キスの言い訳 

          烏丸教授のマンションは藝大にほど近い根津にあり、坂に沿った低層の建物は周囲の森と調和してモダンなたたずまいを見せていた。 近くには菓子舗の「うさぎや」や、藝大生の好きな台湾デザートのお店「愛玉子(オーギョーチー)」大正期の昔からある「カヤバ珈琲」など、下町の情緒があふれる、江戸の風情を感じさせる場所であった。 和賀はその洒落たマンションにたびたび足を運び、教授の手作りの料理を食べながら、二人の時間をゆったりと過ごしていた。 ある夏の夜、烏丸がキッチンでブロッコリー切りな

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          「和賀英良」獄中からの手紙(28)  祓えのミッション

          「あーとのーと」での告白 烏丸教授と和賀はいつもの東上野のゲイバー「あーとのーと」にいた。 そして初めて出会った時と同じカウンターで並んでワインを飲んでいた。 今日の店内は客が少なく閑散としていた。音楽もいつものようなモダンジャズではなく、ロバート・ジョンソンの重苦しい不吉な予感が漂うカントリーブルースが流れている。そのためか、いつもより店の照明が暗く感じる。 二人が飲むワインはいつも決まっていた。ブドウの品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンで作られたフランスのボルドー産

          「和賀英良」獄中からの手紙(28)  祓えのミッション

          「和賀英良」獄中からの手紙(27)   草むらで光る球体

          烏丸先生からベッドで聞いた不思議な話がまだまだあります。 思い出しましたので、お手紙に書いてみたいと存じます。 ---------------------------------------------------------- 「お大師さまが……」 大学時代は金管楽器のチューバ専攻で、卒業後は北海道の高校で音楽教師をしている長山達彦さんの話です。 達彦さんの実家は東京の足立区西新井で、そのあたりは西新井大師という真言宗の密教寺院があり都内のちょっとしたミニ観光地です

          「和賀英良」獄中からの手紙(27)   草むらで光る球体

          「和賀英良」獄中からの手紙(26)  烏丸教授の告白

          ―留学中の訪問者― 烏丸先生があるときベッドの中でこう言いました。 「ねえ英良、これは誰にも言っちゃだめだよ」 自分が首を縦に振ると、先生が東京藝大を卒業してフルブライト留学生としてアメリカに渡り、ニューイングランド音楽院に留学した時の話を始めました。 その内容は、要約すると次のようになります。 ---------------------------------------------------- 私は大学時代、世田谷区等々力にある田所家に下宿していました。

          「和賀英良」獄中からの手紙(26)  烏丸教授の告白

          「和賀英良」獄中からの手紙(25)   動き回る10円玉

          ―講習会に行け― 烏丸先生から聞いた不思議な話がまだございます。 その方は先生が藝大の4年の時に江古田の居酒屋の隣席で偶然知り合った、西武池袋線沿線にある総合大学芸術学部の女性です。 彼女の実家が元々は九州の鹿児島ということで、先生とは同郷であり、すぐに意気投合。その後もよく一緒にお酒を飲むようになったという「先生にとっては珍しい異性の友人」といえるでしょう。 以下の話はその酒席で「なんで音大に行ったのか」という話題が出た時に、彼女がマジメに語った内容です。 ---

          「和賀英良」獄中からの手紙(25)   動き回る10円玉

          「和賀英良」獄中からの手紙(24)  ある音の記憶

          ―バイオリニスト奇談― 芸大時代に先生が作曲したバイオリン曲を、期末試験の演奏で弾いてもらったのが縁で友人になったというバイオリン専攻の学生の話です。 彼は、仮にA君としておきましょう。子供のころよりバイオリンの英才教育を受け、現役で東京藝術大学に進んだ音楽エリートでした。 クラシックはもとよりジャズやロックミュージックも大好きで、父親は地方に住む一般の会社員で特に音楽一家ではなかったようです。 このA君には人には言えない幼少期の体験があったのです。そのトラウマとも言

          「和賀英良」獄中からの手紙(24)  ある音の記憶

          「和賀英良」獄中からの手紙(23)  不思議なピロートーク

          ―烏丸先生から聞いた話― 漢同士の交わりのあと、ベッドでのまどろみのなかで、烏丸先生が耳元で優しくささやきます。 「昔むかしね、こんな不思議な話を聞いたんだよ……」 先生がユニークなのは毎回かならず 「ねえ英良、聞いてみたい?」 と甘えるように尋ねることです。 私が「はい、ぜひお願いします!」 と元気よく答えると、とても嬉しそうな顔をして、 「よし、じゃお話を始めるよ!」 と、小さな子供にするように話し始めるのです。 先生にはご自身にお子さんがいらっしゃらないか

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          「和賀英良」獄中からの手紙(22)  偶然を装った必然

          ―烏丸教授、藝大への道のり― 以前にも書いたように思いますが、私と烏丸教授は衆道であり「義兄弟」ともいえる男色の深い関係でした。つまりホモセクシュアルな間柄であり、私自身はバイセクシャルな傾向もございます。 先生からはベッドの中で音楽の話はもちろん、自分の生い立ちやアメリカ留学時代のお話しをよくしていただきました。 音楽の道を進む人はなにか宿命的なものを感じている人も多いとのことです。もちろん先生も私も例外ではありません。 以下は先生がなぜ東京藝術大学に進んだのか、を

          「和賀英良」獄中からの手紙(22)  偶然を装った必然

          「和賀英良」獄中からの手紙(21)  飛ばないクマゼミ

          ―池上本門寺、お会式の夜― 和賀と佐知子は丸山教授の退官パーティーで出会ってから急速に親しくなった。そのあとすぐに大浦食堂で偶然に出会ったこともあり、佐知子が積極的に電話をかけてくるようになった。 電話番号を誰から聞いたのか尋ねると、「それは秘密なのよ」といって明るく笑っていたが、烏丸教授から聞き出したのは間違いないだろう。 近頃は和賀が参加している作曲家グループや映画監督の勅使河原隆弘氏によって設立された「草月アートセンター」での活動に佐知子も同行している。 彼女は

          「和賀英良」獄中からの手紙(21)  飛ばないクマゼミ

          「和賀英良」獄中からの手紙(20)  音楽家への道

          ―作曲は天からの「ご神託」― 自分は前衛音楽の作曲家であってクラッシック音楽の基礎はほとんどありません。 この前衛音楽というのは俗にいう「ドレミ」の楽譜を使用しないことも多く、先端的な演奏では「図形楽譜」と呼ばれるモダンアートのような抽象的な譜面を使って、その譜面に示された形状からインスパイヤーされた音を演奏家が奏でていく、そんなことが演奏会でおこなわれていました。 私が放浪していた時、ある神社で「大祓使徒」のご神託を受けたことは、以前書いたような気がいたしますが、それ

          「和賀英良」獄中からの手紙(20)  音楽家への道

          「和賀英良」獄中からの手紙(19)  創造と破壊

          ―コントラプンクトとはなにか― 烏丸先生にはあまり基本的な作曲技法は教わったことがなく、もちろんピアノもろくに弾けません。内弟子になってからも、どうやって音楽の勉強しようかと常に思っておりました。 先生曰く「とにかくベートーベンはエモーションとリズムの基本だよ、ケルト音楽の影響が凄くあるね、交響曲の七番なんかはリズムというよりもケルティックダンスビートだね」とか 「ポップスとか今流行りのロック音楽はけっこうバロック音楽に通じるものがあるので、バッハとフーガ、それとコント

          「和賀英良」獄中からの手紙(19)  創造と破壊