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芸術と平穏な人生は均衡しない、悲しみの先。ミステリー小説 『パリのアパルトマン』

芸術は火事のようなもので、燃えるものから生まれるのだ。

ギヨーム・ミュッソ『パリのアパルトマン』

芸術家は激動の人生の中で、もがき、渇望しながら、
人々の心を揺ぶる作品を生み出す。

裏を返せば、平穏な生活からは、
それに触れただけで人々の涙を誘うような作品は、生み出せない。

というのは、何となくステレオタイプな芸術家へのイメージにも思うのですが、
一方で、事実でもあるのでしょうか。

フランス人作家ギヨーム・ミュッソの『パリのアパルトマン』は、天才画家の作品に隠された秘密を解き明かしながら、その身を襲った悲劇を描いたミステリー小説です。

なぜ、このタイトル『パリのアパルトマン』なのか。

舞台は、パリ。それぞれ理由があり、たまたまパリを訪れた見知らぬ男女。人気劇作家のガスパール、元刑事のマデリン。

この二人がネットで予約したアパルトマンが、手違いでダブルブッキングになっていました。そのアパルトマンこそが、急死した天才画家ショーン・ローレンツの元アトリエだった、という設定です。

メグ・ライアンとトム・ハンクスが登場する恋愛コメディ映画を懐かしく思い出すような、ワクワクする設定。でありながら、二人がその作品の虜になる画家、ショーン・ローレンツの人生は、深い悲しみと絶望に覆われています。

そして、彼らはその画家の未発見の遺作の行方を探し始めます。

画家の遺作を探し求めることが、とりもなおさず彼ら自身の一部を追い求めることにほかならない

ギヨーム・ミュッソ『パリのアパルトマン』

画家の遺作の行方を追う二人ですが、それは、単なる宝探しのような展開を辿りません。画家を襲った悲劇が明らかになるにつれ、二人は自分の過去との対峙を余儀なくされるわけです。もちろん、その過去も胸が張り裂けそうなストーリーなのですが。

物語の背後にある、登場人物たちの悲しい過去。子供を失う悲しみや幼児虐待の末路。そして、自らの父性、母性の回復。様々な真実が次々と明らかになっていく展開に、最後まで夢中で読んでしまいました。

そして、この小説に登場する画家、ショーン・ローレンツ。
圧倒されるほど精緻で、かつダイナミックな作品の描写に、実在の画家なのかと思うほどでした。もちろん、創造上の画家の作品なわけで、その絵は私たち読者の頭の中に自由に存在するものです。

彼の素晴らしい絵画を鑑賞するように読んでみるのも、この小説の楽しみ方の一つだと思います。


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