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リアリストによる組織支配論「組織サバイバルの教科書韓非子」守屋淳

 理念や夢は熱狂的に。実行は冷酷無比に。


 韓非子の主張は一言で言えば「合理的な組織作り」です。

 人は弱い存在という前提の支配論


 韓非子の生きた当時は論語で有名な孔氏による「徳による統治」の思想が世を席巻する時代でした。これはいわば、支配者が人として良い行いをしていれば世の中は良くなるという考え方です。もちろんこの思想は世の中全体を良くするためには欠かせないものではありますが、かといってこれだけでは上手くいくとは限りません。


  韓非子は逆に徹底して現実的に組織、国を統治する方法を考えた人だと言えます。中国思想においてはこの徳による統治と法による統治の対立は大事なポイントになります。



 そんな韓非子の主張の前提にあるのが、人は置かれた状況しだいでどんな行動でもしてしまう弱い存在という考えです。これは孔氏の、人は教育により弱さを乗り越え良い存在になれるという考えとは対照的ですが、孔氏の頃よりも過酷な時代に生きた韓非子ならではの思想でした。韓非子の思想は人は信用できないという考えが背景にあると言えます。


賞罰と権力と部下の使い方で組織は運営される



 そして韓非子の主張は法・賞罰の規定と、権力の使い方、家臣(部下)の操縦方法という3つの柱で構成されています。



 先ほど人は状況しだいで行動する存在という韓非子の考えを紹介しましたが、ならば良いことと悪いこと(賞と罰)の価値観をこちらで定めてしまえば人をコントロールできるというのが最初の法・賞罰の規定に当たります。罰によって目指す価値観から外れる行動を失くして組織をまとめ、賞によって組織から成果を引き出すという考え方です。ちなみに信賞必罰という言葉にもあるように、韓非子は賞罰をどんな事情があろうとも必ず行うことが法を人々に浸透させるために欠かせないことと考えていました。



 権力とは人を従わせる力ですが、これには利益と害、プラスとマイナスのベクトルがあります。従うと良いこと、悪いことをするよということです。ただし権力にはもとになるもの、例えば人事権や情報などがあり、これは常に奪われる可能性があるとしています。



 家臣の操縦方法についてはこちらの意図を隠しつつ部下の意図を見抜くことを解説しています。



 そして終章では韓非子の思想の限界も述べています。韓非子の主張においては人を信用しないという考えが前提でしたが、組織の後継者を選ぶときだけはどうしても信用を持ち出さざるを得なくなります。この面では誰が信頼できる人かを見極める能力を重視しない韓非子の思想の弱点が露出します。



 また、賞罰制度の賞については、何か与えるものをトップが持っていることが重要になります。逆に言えば配るだけのパイ(金や土地)が無くなったときに打つ手が失くなるということです。筆者はこのようなケースでは見返りがなくとも上に仕える姿勢を美しいものとする価値観を作り上げて解決されていたことを示しています。

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