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星は語りかける…(ショートショート作品)

 その少女が星空観察会に参加したのは、今年で3回目だ。そして、おそらく今年で最後にしようと思っていた。少女は今年から中学生になり、真冬の空の下、おもちを食べながら星を見るなんてイベントにはもうだいぶ飽きていたのだ。小学生の頃には一緒に参加していた友達も「寒いから」「勉強があるから」「見たいテレビがあるから」という理由をつけて、来なくなっていた。
―今年で最後にしよう
 彼女はあらためてそう思い、夕方の6時に、すでに真っ暗になった夜道を歩き、この山の上にある集会所まで来たのだった。

「おーい、こっちの望遠鏡がいいぞ」
 人だかりのなか、すでに来ていた父親は彼女を見つけると早速声をかけてきた。父親は根っからの天体ファンで、少女は小さなときから星の話をせがんでは聞いていた。
「あれが、アルタイルで、冬の大三角形だな。はっきり見えるぞ」
 少女は父が覗いていたとても高価そうで、大きな望遠鏡を覗いた。
 真っ白な球体が見え、星を囲むわっかも見える。
 少女は思うのだった。
―この光は一万年前の光、ある意味では、この星は地球を一万年間見てきたのかも、きっと様々なことを知っているだ。
 少女は神妙な気持ちになり、普段あまり意識していないことを自然に考えている自分に気づいた。「どうして私は生きているのか」「人はなぜ死ぬのか」「そして私はどんな大人になるのか」
 昔、父親が読んでくれた絵本に「星は語りかける」というタイトルのものがあったのを憶えている。星は数万年単位で生きているため、様々なことを知りたくさんの知恵を持っているという、本気なんだか、子供だましなんだか分からないことが書いてあった。
 少女はため息をつき、そんなはずないと思いながらも星に語りかけてみた。
―10年後の私はどうなっているの
 周囲が真っ暗闇だから、本心を言えたのかもしれない。
 それは少女が、今、心の奥深くに隠していた悩みにつながっていた。
 自分がどんな大人になるのか。そのイメージがまったく出来ずにいた。少女の周りにいる友達や先輩、先生、父親でさえも彼女のモデルには全くと言っていいほどならなかった。
「おい、長い間見すぎだぞ」
 父親が言った。
 少女は星から目を離さずに、
「もうちょっと待って」と言った。
 少女は星から何らかのメッセージを待っているのだ。
 冬らしい風が吹き、おもちの匂いがする。少女はその白く凍りついたような星をなおも眺め続けた。

 星は何も語りかけてはくれなかった。
 でもその代わり、星を眺め続ける彼女の耳にこんな声が聞こえてきた。

「そうぞうを続けることが大事なんだ。続けていればきっといつかは叶うのだから」

 ふっと顔を上げて見たが、誰の声か分からなかった。少女の周りには複数の大人が星空談義をしていたから。でも少女はそれを自分へのメッセージとすることにした。
―想像を続けることが大事。
 ぽっかりと宇宙に浮かんだ小さな星の中で、彼女はどこまでも自分で未来を想像しようと思った。

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