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中学国語科の教員です。本と映画が好き!

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中学国語科の教員です。本と映画が好き!

最近の記事

『ひだまりの詩』を口ずさんで

君は知らぬ間に歌を口ずさんでいた。 “会えなくなって どれくらい 経つのでしょう 出した手紙も 今朝ポストに 舞い戻った“ それが数年前に流行った曲であることを意識しながら、15歳の君はさっきから同じ道を行ったり来たりしていた。 君は今朝、家を出た。8時15分の始業にはじまるように7時40分には家を出る。いつもは8時5分には学校に着く。でも今日はもう8時を過ぎているのに、まだ自宅近くの通学路の道を歩いていた。 学校に行きたくないのだ。 中学2年生までの君は、勉強で学年1

    • おすすめ本『橋ものがたり』藤沢周平

      時代小説って古くさい、おじさんが読むものってイメージありませんか。今日はそんな方にこそおすすめしたい一冊を紹介します。 藤沢周平『橋ものがたり』(新潮社)。 江戸時代に生きる市井の人々(下は十才の少年から上は初老の男性まで)を主人公にした短編小説集。タイトルにある橋は江戸時代の人々にとって町と町を区切る境を表し、人々はそこで出会い、別れます。 僕が個人的に好きな作品は『約束』『小ぬか雨』『殺すな』の三編。それぞれ簡単にあらすじを紹介します。 『約束』 錺職人見習いの若い

      • ”七つの椅子”            絵本『ハリス・バーディックの謎』から

        その椅子に座れば、どんな発想も湧いてきた。仕事で疲れていても、眠いときも、落ち込んでいるときでさえ。 彼女は詩人と名乗っている。もちろん、生計を立てるのはそれでは足りないので、他に仕事を持っている。でも基本的には自分のアイディンティは詩人であると認識していた。 詩はいつも明け方の4時から6時に生まれる。その後は朝食を食べ、仕事に行かなくてはならない。彼女にとってその2時間はいつも至福のときだった。 椅子は、木で出来ており、座る場所と、少しかしいだ背もたれには、本革が貼って

        • ”別の場所で、別の時に”       絵本『ハリス・バーディックの謎』から

          第二次世界大戦が6年続き、ぼくたちユダヤ人は、世界に分散していった。 ぼくたち家族は故郷であるフランスの土地を捨て、あてのない旅に出た。父と母、弟のマルセルにぼく、ジタン。四人でとにかくあちこちを旅した。 ヨーロッパ中、戦火は激しかったから常に移動をしていた。当然学校なんか行けない。 ある日、ぼくたちはユダヤ人が身を潜められる城が、デンマーク北部の街スカーゲンにあると知った。そこでは、子どもは教育を受けることができ、大人は近くにある工場や農場、商業施設などで働くことができ

        『ひだまりの詩』を口ずさんで

        • おすすめ本『橋ものがたり』藤沢周平

        • ”七つの椅子”            絵本『ハリス・バーディックの謎』から

        • ”別の場所で、別の時に”       絵本『ハリス・バーディックの謎』から

          過ぎ去りし時間(五行歌 四首) 

          大学生の頃 電車の窓に映った自分を見て驚いた かつてのレールから外れた少年は そこにはいない でも、何か忘れているような気もして 青葉の森の公園で スーツ姿で食事を摂る 学生たちがダンスの練習をしている 去年までは何の憂いもない自分 ルールが変わったことを知る 初夏 「いい日旅立ち」という 移動書店があった 家を出る日 そこで本を買った 自らを励ますように この都会の夜空は 明日への期待をはらむグレー あの海辺の街の夜空は すべてを包む毛布

          過ぎ去りし時間(五行歌 四首) 

          生徒との時間(五行歌 四首)

          人は、今が幸せでないと 過去を懐かしくできないのかもしれない 以前働いていた学校の文化祭で 会った生徒の あきらめたような表情 生徒を育てるには 努力や待つことだけでなく 祈りさえも必要だと 『カラマーゾフの兄弟』を読んで ふと思った 「先生、理科の資料集なくしちゃいました。」 「先生、連絡帳配り忘れてますよ。」 いつでも笑顔のこの子 きっと すべては家庭なんだろうな 15歳の頃 独りで見ていた映画を いま生徒と共に見る あの頃、遭難してい

          生徒との時間(五行歌 四首)

          独りの時間(五行歌 四首)

          最近 夜の散歩をしている 住宅街で車通りもあるので 登山用のライトを持って まるで20年ぶりに犬を連れているように 森の中で はるかな梢を見上げる ちらちらと陽が差し、風がきまぐれな妖精のように枝をゆらす 神さまを感じるとしたら こういうとき 初めてその部屋に泊まったとき 白い壁が少しずつ迫ってくる 夢を見た この壁を自分で広げること それが僕の使命 学校なんか行かなくていいよ と合唱する大人のそばで 自分と向きあい(向き合えずに)苦しむ

          独りの時間(五行歌 四首)

          あの頃、夜の街で

          台風のあと、雲が圧倒的な速さで空を駆け抜けるのを見たことがあるだろうか。 僕はある。あれは19歳の頃で、初めてのアルバイトとして新聞配達をしていたときだった。 なぜ、新聞配達か?それは、①人に会わずに出来る仕事②一人で黙々とできる仕事、であるからだ。 中学の教員をしている今とは大違いだ。だけど、その頃は違った。僕は3年間の引きこもりと、1年間の病気療養期間の後だった。 毎日が生まれ変わった気分だった。表情は日に日に明るくなり、体力もどれだけ動いても疲れを感じなかった。18

          あの頃、夜の街で

          自分の楽器を奏でるには

          当時住んでいた家から海は徒歩3分くらいの場所にあった。家の外に出ると、いつも波のかすかなさざめきと潮の匂いがした。 よく一人で海岸沿いの道を歩いた。海のせいで空気はもやっと生暖かいが、潮風が吹いているので不快ではない。隣に目を向けるとそこにはアメリカまで通じている太平洋がある。 僕にとってその広大な太平洋の海は、開放的な場所ではなく、僕を閉じ込め、この先行き止まりを示しているように見えた。ちょうど僕の人生がこれ以上は先に進めないと感じているように。 その海辺の町で4年間、

          自分の楽器を奏でるには

          美味しい授業をつくりたい

          最近、パン屋がパンを作る動画をよく見ている。 パン屋の多くは深夜から作業を始め、朝(ときにはお昼)までかかってパンを焼く。 大きくて鈍重な生き物のようなパン生地をこねたり、成形したり、惣菜をパンに混ぜたり。それが焼かれておいしそうな姿に変わっていく様子を見るのが楽しいのだ。 たぶん、これは、僕がもともと職人的な作業に憧れを抱いているからだろう。 思えば、幼稚園のころなりたかった職業は大工だし、両親からも一人で黙々とする仕事が向いていると、子供のころから言われていた。

          美味しい授業をつくりたい

          Old Friend

          8年ぶりに友人と会う、僕はその事実に緊張していた。電車で上野駅に向かいながら、僕は彼とのいくつかのささやかな(でも大事な)出来事を思い出していた。 彼と初めて出会ったのは、予備校だった。予備校といっても、それは不登校や高校を中退した生徒が行く予備校で、僕は18歳のときにその予備校に入学した。 3年間、引きこもり生活をしたうえでの入学だったので、入学してからの数ヶ月は友達が一人も出来なかった。 そんなある日、一人で自習をしている彼を見つけて、勇気を振り絞って話しかけたのだった

          Old Friend

          星は語りかける…(ショートショート作品)

           その少女が星空観察会に参加したのは、今年で3回目だ。そして、おそらく今年で最後にしようと思っていた。少女は今年から中学生になり、真冬の空の下、おもちを食べながら星を見るなんてイベントにはもうだいぶ飽きていたのだ。小学生の頃には一緒に参加していた友達も「寒いから」「勉強があるから」「見たいテレビがあるから」という理由をつけて、来なくなっていた。 ―今年で最後にしよう  彼女はあらためてそう思い、夕方の6時に、すでに真っ暗になった夜道を歩き、この山の上にある集会所まで来たのだっ

          星は語りかける…(ショートショート作品)

          その映画には14歳の頃の僕がいた。(『リリイ・シュシュのすべて』を観て)

          今まで観た映画のなかで一番好きな作品は『リリイ・シュシュのすべて』(2001、日本)だと思う。 知らない方に簡単に内容を紹介する。 主人公の蓮見は14歳の中学生。かつての親友である星野にいじめを受けながらも、窒息しそうな毎日を送っている。救いはカリスマ的人気を誇る歌手のリリイ・シュシュだけ。ある日、蓮見は星野に命じられて、同級生の女子、津田の売春の監視役をすることになるが・・・。 あらすじを聞く限り、多くの方に受ける映画とは言いがたい。 僕はちょうど映画に出てくる市原隼人

          その映画には14歳の頃の僕がいた。(『リリイ・シュシュのすべて』を観て)

          授業で中学生と観たい映画7本+おまけ2本

          映画好きが高じて、中学の授業(国語科)で映画を見せていました。管理職や他の教員に意図を聞かれたら、優れた芸術作品に触れそれを批評する練習、と言っていました(笑) 今回は僕が今までに授業で生徒に見せてきた映画7本を紹介します。 おまけとして、まだ授業では見せたことはないけど、今後見せたい映画、中学生が観る価値のありそうな映画を2本紹介します。 映画はそれぞれ3つの観点に分け、★1~3で評価しています。★3が最高点です。観点は以下の通り。 分かりやすさ→生徒にとって物語が分か

          授業で中学生と観たい映画7本+おまけ2本

          クリント・イーストウッド監督 私的映画ランキングベスト5

          好きな映画監督は?と聞かれたら、クリント・イーストウッドの名を挙げます。その魅力はずばりエンタメ性と芸術性の絶妙なバランスです。 つい最近U-NEXTで、『クリント・イーストウッド:シネマティック・レガシー』(2021)というイーストウッドの功績をたたえるドキュメンタリー映画を観たこともあり、私的ベスト5を考えてみました。ちなみに、イーストウッド監督作はおそらく8割は観ています。ただし、彼の映画の一つの柱である西部劇は個人的にあまり得意ではないので、今回のランキングには入って

          クリント・イーストウッド監督 私的映画ランキングベスト5

          なぜアクティブラーニングは必要なのか②

          以前、 https://note.com/ryo1985/n/n896db1711c15という記事を書いたが、今回はその第二弾。 なぜ、アクティブラーニングは必要なのか? 今回は学習者目線で考えてみた。 一言でいうと生徒の個性を生かすことができるからだと思う。 いつもいつも同じ型の授業だと、生徒の活躍の機会が狭まる。生徒の認知能力や学び方は人それぞれ、静かに話を聞いてるのが向いてる生徒もいれば、表現したり、話し合ったりして学ぶのが向いてる生徒もいる。 つまり、生徒の認

          なぜアクティブラーニングは必要なのか②