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意思決定の裏に、いつも馬がいた(長谷川リョー)【#2:今月のテーマは「偏愛」】

「コミュニティ」をテーマに掲げた先月の初回共同マガジンはお楽しみいただけたでしょうか?

オバラくんは「サウナ」と「ぬるま湯」を例に、コミュニティの類型について考えてくれました。原くんは大学時代のサークル活動を振り返りながら今後の行く末を、なっちゃんは人事としての社会経験と親しんできた本から得た知見を有機的に結びつけながら、自分のコミュニティ観を共有してくれています。

さて、第二回となる今回のテーマはメンバーの属人的な嗜好性が明らかになるであろう「偏愛」にしようと思います。

よりメンバー間でパーソナリティや大事にしているものを共有したいことはもちろん、「ないものがない」現代において自分が好むもの、熱狂するものを表明・宣言できることはとても重要だと思うからです。(参考:なぜ現代は「好き嫌い」が大きな意味を持つのか

僕自身、以前『SENSORS』でドミニク・チェンさんに取材をさせていただいて以来、「欲望をどうデザインするか」を命題として持つようにしています。(参考:「欲望をどうデザインする?」ドミニク・チェンが育む編愛コミュニティ"シンクル"

「煙草を吸う、酒を飲む、女を抱く」ーー。ゲンズブールが描いた正三角形が真っ先に頭に浮かぶのはさておき、僕の場合小学生の頃から一度もぶれることなく抱き続けてきた、「馬」それも「サラブレッド」への憧憬をこのnoteではしたためたいと思います。

「馬になりたい」いちばん最初に抱いた夢

「将来の夢は馬主になること」

これまで幾度となく、あらゆる場所で語ってきました。
おそらく小学生時分から言い続けてきたので、軽く10年以上は抱き続けきた夢と言えるでしょう。

「なぜ」

それを突き詰めると、「瞳」に行き着くわけですが...それはさておき。
最初の衝撃は、幼き頃におばあちゃんに連れて行ってもらった競馬場でみたサラブレッドの隆起した筋肉とそれを駆動しながら飛翔するかのような走り。閃光が走ったその瞬間、僕は

「馬になりたい」

そう感じました。

人間に生まれたからには、他の動物になることはできない。それくらいのことは当たり前に理解できる年齢には達していたにも関わらず、そう直観したのでした。

「競馬」という一大産業

競馬というスポーツ/ギャンブルの成り立ちや仕組みを理解していくなかで、僕がかっこいいと思ったのは「騎手」でも「調教師」でもなく「馬主」という存在でした。

週末のJRA場外馬券場では、馬券を握りしめながら叫ぶシニアな方々が大挙しており、さながらリアル『カイジ』かのような場末感を呈しています。
中央競馬レースの最高峰であるG1レースには平均5万人前後が訪れ、10万人を超えることも珍しくありません。テレビ画面の向こう側ではそれを遥かに超える数のファンが観戦していることは言うまでもないでしょう。

昨年、海外レースの馬券購入が解禁となりましたが、世界最高峰のレース「凱旋門賞」は1レースのみながら国内で約41億円を売り上げました。

これほど莫大なお金が絡む産業ですので、ステークホルダーは数多く存在します。
そもそも日本中央競馬会は農林水産省の外郭団体ですし、携わる関係者は馬主から調教師、騎手やバレット(※競馬開催中に馬具の用意、鞍づくりなど騎手をサポートをする職業)など列挙するときりがありません。

ディープインパクトは生涯で800億円稼ぎ出す?馬主にとって最大のリターンとは

捉え方はさまざまですが、一連のバリューチェーン、エコシステムのなかで一際「フィクサー」のような良い意味での怪しさ、かっこよさを感じたのが「馬主」という存在でした。

そもそも競走馬を所有する馬主になるには、JRAが規定する以下の審査基準をクリアしている必要があります。

1. 年間所得額が2年連続1700万円以上
2. 資産額が7500万円以上

さらに競走馬の育成には相当な資金が必要となります。競走馬そのものの価格は血統の良し悪しによりピンからキリまで(安くて数10万円、高くて2億円ほど)ありますが、厩舎預託料や餌代、保険などを諸々含めると、一頭あたり年間700万円前後の維持費がかかってくるのです。
(この辺り、詳しくは僕が今年のはじめに北海道へ取材に行って書いたこちらの記事を参照ください:種付けからかよ!? おまえらが力を合わせ馬主で成功する『リアルダビスタ』遂に始動。繁殖牝馬のセリを現地北海道で密着レポート!

レースの賞金の約80%が馬主に、約10%が調教師に、そして残りの約5%がそれぞれ騎手と厩務員に分配されます。前述した最高峰レースG1で1〜3億円程度の賞金が支払われます。

それでも誤解されやすいのが、「馬主にとって最大のリターンとは何か」ということです。

一般の方ではご存知ないかもしれませんが、馬主にとって最大の収益源となるのが「種付け料」に他なりません。
たとえば近代日本競馬の最高傑作であるディープインパクトの昨年の種付け料は3,000万円、261頭と交配しているので、69億円を稼ぎ出している計算になります。

一般的に馬の平均寿命は20〜30年と言われ、ディープインパクトはすでに種牡馬としては10年目の15歳。仮にあと10年生きるとすれば、700〜800億円を生涯で稼ぎ出す計算です。ディープインパクトが競走馬として稼ぎ出したレース賞金の総額である14億円と比較しても、種牡馬ビジネスの大きさがうかがえるのではないでしょうか。

とはいえ、馬主が投じる資本がリスクマネーであることに変わりはありません。最近ではサトノダイヤモンドの活躍で知られる馬主の里見治氏は去年11月発売の『東洋経済』で「これまでに競馬だけで85億円は損をしている」と語っています。

ただ、競馬は馬主抜きで成り立ちません。
世界中の経済界を引っ張り、競馬文化を支えているのが、「馬主」という存在なのです。

最短距離で馬主になるために、カードを引く

競馬に明るくない人にも読んでもらえるよう、競馬・馬主の前提知識について少々長くなってしまったので、そろそろこのnoteの論旨について。

表題にもなっている、「意思決定の裏に、いつも馬がいた」。

事実、リクルートを退職した日に書いたnoteでもその旨に触れています。

キャリア論ではよく、「山登り型」か「川下り型」という分類を耳にします。典型的な前者で、馬主志望の僕には上記の三要素からなるフレームがピタッとハマりました。自らも一つのスタートアップとして捉え、ビジョンの実現にまい進していきたいです。

人生の早いうちに明確なゴールを置けたことで、これまで進路選択やキャリア形成で悩むことはほとんどありませんでした。

目の前に配られたカードのAとBどちらを手に取るのか。意思決定の基準になるのは「馬主になる」ゴール。そこから逆算して、より最短距離のカードを引き続ける。

大好きな漫画『バガボンド』で、 宝蔵院・胤栄がつぶやくこんなセリフがあります。

目的のない稽古に
人は耐えられん

日々の生きる活力も、生き方の意思決定も、確固たる軸さえあればそうそうブレません。

「馬になりたい」から始まり、「馬主になる!」にたどり着き、目指している。
解像度高く"欲望のデザイン"に向き合い続けていきたいものです。

結局、固めの内容になってしまいましたが、後に続く人たちは自分が偏愛するモノ・コトについて愛溢れる語りで書いていただければと!

次回の更新は11月8日、書き手はオバラミツフミです。お楽しみに!

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ケニアで無職、ギリギリの生活をしているので、頂いたサポートで本を買わせていただきます。もっとnote書きます。