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「思考」と名のつく本 15選

「考えるを考える」という連載をやっているくらいには、考えることや、抽象化、思考と実践の関係性に興味をいただいてきました。

振り返ってみれば、「思考」「思考術」「思考法」と冠された本もことのほかよく読んできたなと。鉄板級からちょいマイナー目まで、ここで紹介できばと思います!

「考え方」の考え方

いわゆる自己啓発書に区分される本著ですが、「この一冊だけで自己啓発は十分なのでは」と考えているくらい影響を受けました。

思考・言語・行動が相互連関を織り成し、人生を司っているのだと気づかせてくれる一冊。こうした関係性を理解することで、貪るように読書をし、言葉を手に入れ、アクションに落としていく癖が身につきました。

あなたの「脳力」は、効果的に使えさえすれば、事業においては金銭よりはるかに大きな価値を生み出せるものなのだ。なぜなら「脳力」は、不景気の影響も受けず、言い換えれば不況期を通じて恒常的に減価しえない資本の一形態であり、この資本は盗まれたり、使えばなくなってしまう心配もないからである。(同書、218頁)

こちらも鉄板ですが、思考=習慣=癖みたいな関係性で捉えたときに、行動規範/原理を見直すための決定版。

悪い習慣を変えるためには、行動自体よりも、それを引き起こすトリガーに着目すべきだということになる。トリガーを見つけて、別の有益な行動と結びつけてやればいいのだ。
会社帰りのケーキ屋がお菓子を買うトリガーになっているなら、その店を見た瞬間に向かいの惣菜屋でサラダを買うようにすればいい。目覚ましの音がメールチェックのトリガーになっているなら、目覚ましが鳴った瞬間に本を手に取って読み始めるといい。
最初はかなり抵抗があると思う。それでも新しい行動をやり続けていれば、トリガーと行動の新しい結びつきがだんだん脳に定着していく。やがて新しい行動が習慣化し、無意識のうちに新しい行動が引き起こされるようになるはずだ。

「考え方」を支える言葉を手にする

中山元さんと言えば、哲学・思想分野において在野研究者として数多くの著作を刊行され、ぼくも数多くの新書に慣れ親しんできました。

一見、難解な概念や理論が多いこの分野ですが、ウィトゲンシュタインが「言葉の限界が思考の限界」というように、思考道具としては間違いなく考える幅と深さを与えてくれます。

「考え方」の整理・ダイエット

言わずと知れた思考本のベストセラー。東大で売れ続けているらしい。ぼく自身、大学一年生の頃に読んで以来、後輩におすすめしてきた一冊。文庫でボリュームも多くないので、さくっと読むことができる。のにもかかわらず、得るものが多い。

たとえば、知識の得方にしても「グライダー能力:受動的に知識を得る」と
飛行機能力:自分で物事を発明、発見する」と外山さんならではのアナロジーで明朗に解説してくれます。外山さんの本は、読書法をはじめとして、知的生産の技術を向上させるのに欠かせない。

『思考の整理学』と併せて読みたいのが本著。思考する、とは「視点を持つ」ことでもあることを教えてくれます。

「複眼思考」とは、

①ものごとの多面性をとらえるための「関係論的なものの見かた」
②意外性を見つけるための「パラドクスの発見」
③ものごとの前提を疑うための「メタを問うものの見かた」
(同書、269頁)

知的生産において、情報収集そのものに時間をかけようとすると、キリがないのは当たり前です。締め切りのない仕事はないので。

よりよい情報を求めて暗闇の中を彷徨い続けるよりも、自分なりの仮説を打ち立て、その正しさや確度の高さ検証していく方が結果としてのアウトプットスピード、ひいては試行回数に基づいたクオリティさえも上がる。そう教えてくれるのが本著。(この文脈で、下記の二冊もオススメ)

文脈に当てはめる(文脈化)というのは、新しい情報を受け取るどんなケースにも応用できるゴールデン・ルールだ。
『情報を捨てるセンス 選ぶ技術』ノリーナ・ハーツ、204頁)
「大局観」とは「終わりの局面」をイメージする。最終的に「こうなるのではないか」という仮定を作り、そこに「論理を合わせていく」ということである。簡単に言えば勝負なら「勝ち」を想像する。
(『大局観 自分と闘って負けない心』羽生善治、123頁)

内容としては、『イシューからはじめよ』と通底する部分が少なくありませんが、より読み物としてサクッと読めます。

「考え方」のフレームワークを増やす

先日発売されたばかりの、すどけんさんの最初の著書となる『ハック思考』。

世界のルール:
時間×お金=成果

HOW?:
①人と違う規則性や法則を見つけて、
②その規則性や法則を構成するシステムのスキマに介入する

必要になる4つの察する力:観察、考察、推察、洞察

アイデア集というよりは、経営書(とくにスタートアップ向けの)といった気がしました。巻末のケーススタディは光本さんの『実験思考』と通じるところがありますね。「勇気」の章なんかを読むと、もっと長くリクルートいればよかったかな・・・と少し思わされます(笑)。

タイトルが表すようにWHATとHOWを絶えず行き来する構成、気持ちのよい筆致。妄想→知覚→組替→表現のフレームワークで、ビジョンを実現・具体化する方法論が詳述されている。さっそく取り入れたい思考法が満載です。

世界の見方を変える道具として「考え方」

1日に1度は必ず耳にする「テクノロジー 」という言葉。現在進行形で起こる米中テック冷戦やGDPRをめぐる欧州 VS GAFAといった今日的地政学のホットイシューなど、いかに「テクノロジー 」が現代世界を規程しているのか。

個別事象を解説するのではなく、包括的・鳥瞰的にテクノロジーの本質に迫り、道具として使えるまでの「思考」に昇華した一冊。

「テクノロジー思考」と併読したいのが本著。下図のような先端テクノロジーの進化によって、いかに私たちの生活や社会が変容していくのか。

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全体像が事例とともに概略されていると同時に、後半の章では具体的な思考の手引きが多く紹介されています。

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【エクスポネンシャルなスピードがビジネスに及ぼすインパクトが通過するポイント】(by ピーター・ディアスマン)
①Digitalization(デジタル化)②Deception(潜行)③Disruption(破壊)④Demonetization(非収益化)⑤Dematerialization(非物質化)⑥Democratization(大衆化)

アインシュタイン「人類最大の発明は複利の考え方である」(111頁)

上記の2冊とは違った趣・角度からテクノロジーが進化・浸透した未来の社会像を予感させてくれる一冊。

Netflixで(少なくとも僕は)現時点で最高傑作シリーズの一つとして愛好する『ブラック・ミラー』は、言うなれば「テクノロジー版・世にも奇妙な物語」といったテイストで、本著に冠されている「あたたかい」の対義語である「つめたい」テクノロジー社会像を表象している。

対して本著は、著者の小川和也さんの身体性に根づいた、すぐそこまで迫ったテクノロジーと共生する未来と地続きのいまをあたたかく記述。

「人工感動」「想像メディア」「やさしさ調味料」...スルスルと読めてしまう寓話たちは、読者自身の想像力をくすぐり、創発してくれます。

苦手意識を持っている人も多いであろうファイナンスの本ですが、初学者でもとっつきやすいトピックとフレームで整理されているため、自分ごととしてスイスイ読み進められる良書。

なぜ日本からGAFAのような、超スケール型の企業が生まれないのか。PL脳が根付く日本の経済史を丹念に辿りつつ、事例も豊富でとても分かりやすい。前著『論語と算盤と私』と同様、朝倉さんならではの教養に裏打ちされた文体が気持ちいい。

『NewsPicks』前編集長・佐々木紀彦さんの編集思考は、編集を「セレクト(選ぶ)」「コネクト(つなげる)」「プロモート(届ける)」「エンゲージ(深める)」と4つのステップに整理。

本著の構成のコアとして、2章分を割き、実際の事例として企業群を編集思考で分析していきます。(Netflix、ディズニー、WeWork)

編集思考を磨く6つの思考として、以下が挙げられています。

①古典を読み込む
②歴史を血肉とする
③二分法を超克する
④アウェーに遠征する
⑤聞く力を磨く
⑥毒と冷淡さを持つ

文化人類学的想像力に裏づけされた“思考道具”の数々が丁寧に整理されている一冊。「世界のとらえ方」「価値と秩序が生まれるとき」「あらたな共同性へ」三部構成で、13の文化人類学的視角が並べられています。

本著の主題にもなっている「逆説」。スタートアップは大企業に比して、限られたリソース(ヒト・モノ・カネ)で市場で戦い、勝ち抜かなくてはならない。そうした前提の元、いかなる思考(限りなく戦略に近い)で勝負に打って出るのか。

本著ではいくつもの実践的具体例が紹介されるのが、たとえば「バーベル戦略」。

「バーベル戦略」というリスクの取り方:この戦略は「極端に保守的な投資と、極端に投機性の高い投資を組み合わせ、中ぐらいのリスクは一切取らない」というものです。(同書、211頁)

自分が編集協力として携わった高宮慎一さんの著書『起業の戦略論』の影響もありますが、スタートアップの戦略論を知れば知るほど、スタートアップと個人の生き方がアナロジーとして一致することに驚かされます。スタートアップそのものが反直観的存在であるように、人間の生き方も反直観的な方が得られるリターンも大きい。

まとめ

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「私の言語の限界が私の世界の限界を意味する」
 「思考しえぬことをわれわれは思考することはできない」

ウィトゲンシュタイン先生の有名なテーゼを思い出す。

すると、思考にまつわる読書体験が与えてくれるのは、世界の見方(抽象・構造・物語)を拡張してくれるということ。新しい思考体系を一つインストールすると、過去・現在・未来にある(もしくはあり得たかもしれない)無数の世界像が自らのうちに屹立してくる。

フィクションとはまた違った、知的刺激を与えてくれるのが醍醐味であるかなと、思います。

もし好評だったら、たまにこうしたテーマ軸での選書/書評まとめやっていきます。

ケニアで無職、ギリギリの生活をしているので、頂いたサポートで本を買わせていただきます。もっとnote書きます。