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Le jardin de l’écriture :#3 悲しみよ、さようなら

〜このシリーズについて(全10回)〜
本シリーズはフランス文学をフランス語で読み、作品にちなんだ課題についてフランス語で書くことを通してフランス語の表現を楽しむというものです。オリジナル記事は全てフランス語のため、今回邦訳をつけて再編集しました。
再掲載に際しては、収録する作品を再度見直し、未公開分の2作品を加えて、全10話としました。
本編は、拙作の仏作文のみ掲載しています。拙いフランス語ではありますが、フランス語学習中の方々の一助、あるいは励みになれば嬉しいです。


さて、第3回の読解の課題は、日系カナダ人Aki Simazaki の作品、『Tsubaki』である。アキ・シマザキは岐阜県出身で、1981年にカナダへ移住、1991年からモントリオールに在住する女流作家である。フランス語を学び始めたのは1995年で、1999年に最初の小説となる本作を発表した。

ストーリーは、主人公が自分宛に遺した母の手紙を見つけたことに始まる。そこには、母の隠された過去が書かれていた。戦時下の長崎で、一体家族に何があったのか。母の告白により、過去の秘密が少しずつ明らかになっていく。本作は、五部からなる『Le poids des secrets(秘密の重み)』シリーズの第一作にあたるのだが、邦訳はおそらく絶版である。

アキ・シマザキの文章は、平易なフランス語で書かれているため、初心者でも比較的読みやすい。難解な単語もほとんどなく、簡潔で美しい。

残りの四作は、同じ出来事を四人の登場人物がそれぞれ視点から見た事実を語ることで、過去の秘密が立体的に明かされていくという構成になっている。本作だけでも十分楽しめるが、全作品を読むことで全体が完結する仕組みである。ストーリーも構成も面白いものの、同じ表現やモチーフが繰り返し使われる手法がややくどい印象がある。


* * *

Le jardin de l’écriture

〜エクリチュールの庭〜


<第3回>Writing 作文
アキ・シマザキの『Tsubaki』を読んで、子供の頃の思い出を書いてみよう。

Adieu, tristesse


Chiro était très intelligent. Colo, qui était sa mère, n’était pas si intelligente, mais elle était très gentille. Colo mit bas à six chiots. Mais, seulement Chiro était resté chez moi. Je ne sais pas où les autres étaient allés. Parce que je ne le demandai pas à mes parents. Je ne voulais pas, peut-être, savoir ce qui s’était passé. J’étais huit ans.

Un jour, j’allai leur apporter le repas avec ma mère. Je le donnai, d’abord, à Colo, parce qu’elle était la mère de Chiro et je le respectais. Mais, quand je portais le repas devant Colo, elle a commencé à le pousser vers Chiro avec son museau. Cela nous a très étonnées. Oui, enfin Colo était la mère de Chiro. Elle avait le grand amour maternel. Nous regardâmes cette scène en étant émues.

Quelque mois après ce jour-là, quelqu’un que je ne connaissais pas prit Colo en charge. Colo aboya avec tristesse quand il la fit monter dans sa voiture, et Chiro aussi jappa. Je ne fis que regarder sans rien dire.

Chiro avait l’oreille fine. Alors, il me remarqua tout de suite, même si je l’approcha à pas de loup. Mais à la fin, je réussi seulement une fois, à l’approcher sans bruit. Chiro sauta sur moi et me regarda avec peur. Mais quand il se rendit compte que c’était moi qui l’a étonné, il m’approcha avec joie. Je regrettai vraiment mon acte. Ce fut la dernière fois que je le taquinai.

Après un an, Chiro entra à l’hôpital pendant cinq jours pour cause de filarioses. Le jour où il sortit d’hôpital, il me chercha à l’arrêt d’autobus avec ma mère. Nous étions très heureuses de le revoir.

Le lendemain, je dis bonjour à Chiro avant d’aller au collège. Mais Chiro ne bougea plus. Il faisait très froid, en décembre. J’étais treize ans.


悲しみよ、さようなら

 チロはとても賢かった。コロはチロの母親で、それほど賢いわけではなかったが、とても心根が優しかった。コロは仔犬を6匹産み、そのうちチロだけがわが家に残った。他の仔犬たちがどうなったのか、私は知らない。両親に尋ねなかったからである。仔犬たちがどうなったのか、おそらく私は知りたくなかったのだと思う。
その時、私は8歳だった。

 ある日、母と一緒にご飯を持って行った時のことである。私はまずコロにご飯をあげた。コロはチロの母親だから、敬意を払うべきだと思ったのだ。ところが、私がコロの目の前にご飯を置くと、コロはそれを鼻先でチロの方へ押しやろうとしたのだ。それは、慈愛に満ちたコロの母性本能だった。母と私は、その姿を感動の面持ちで眺めた。

  その数ヶ月後のこと、知らない人がコロを引き取りにやって来た。車に乗せられるとコロは悲しい声で叫び、チロもまた泣き叫んだ。私はそれをただ黙って見つめていた。

 チロの耳は、とても良い。だから、どんなに忍び足で近づいても目ざとく(耳ざとく?)見つけられてしまう。しかし、たった一度きりのことだったが、とうとう忍び足で近づくことに成功したのである。チロは私に気づくと、怖がって飛び上がった。ところが、驚かせたのが私だとわかると、喜んで近寄って来てくれた。私はその様子を見てとても反省し、このとき以来、チロを揶揄うのはやめたのだった。

 一年後、チロがフィラリアで5日ほど入院した。退院の日、チロは母とともに私をバス停まで迎えに来てくれた。私たちは再会できたことを互いに喜んだ。

 その翌日、私は学校へ行く前にチロのところへ挨拶をしに行った。
しかし、チロはもう、動かなかった。
それは、12月の寒い朝で、私が13歳の時だった。


< 相変わらずSampé風に描いてみた >



— FIN —

*  *  *


<第3回>Reading 読解
オリジナル記事の最後に、『Tsubaki』からの抜粋掲載していますので、ご興味がある方はご参照ください。
抜粋した箇所は、子供時代を過ごした疎開先の長崎で、母親のユキコが隣人のユキオと出会う場面です。

« Tsubaki » Aki Shimazaki


< Le jardin de l’écriture >シリーズ(3)

※このシリーズの過去記事はこちらです↓

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