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映画館でBLUE GIANTを観て初めてジャズを経験した話

FIRST NOTE


『君たちがまだBLUE GIANTの映画をもし見ていなかったら、僕と君たちは本当の友達ではないのかもしれない』

「と、彼が突然言い出したんですよ。その場に居合わせた全員十年来の友人でしたから彼にとってその映画はそれだけ価値があったものということは皆分かっていましたが、あいつなんか言ってるぞって目配せをしていました。」

「私ですか?その時はBLUE GIANTの映画も原作も見ていなかったので『あいつなんか言ってるぞ』の一味でした。なんとなくジャズの漫画が原作ということは知っていましたがジャズに熱心ってわけでもなかったので特段興味は持っていませんでしたね。」

「彼は熱心でした。SNSや2、3ヵ月に一度会うたびに『まだ、間に合います』『お願いします』と皆へ素晴らしい作品であることを伝え続けていました。そんな熱心な彼に自分は心動かされ、上映開始から1年経った今、私は映画館でBLUE GIANTの映画を観たのですが、素晴らしい作品に出会わせてくれた彼にはとても感謝しています。」

「彼は現在関東を離れ関西で暮らしているので中々会えていないですが、次会った時には最高の作品とジャズを経験するきっかけをありがとうって彼に伝えたいですね。」

※以降若干ネタバレを含みます

Impressions-作品に対する最初の印象

「ジャズ、鳴ってたな~」
友人に勧めに勧められるも中々機会が無く読めていなかったBLUE GIANTの原作1シリーズ目10巻を読み終わっての率直な感想はこれだった。

この作品は主人公、宮本 大(みやもと だい)が世界一のジャズプレイヤーになるまでの軌跡を描くもので…
「世界一って、具体的には?」
「気持ち…感情の全部を音で言えるんです」
感情の全部を音で言う=自分にしか出せない音を出すことに努力と経験を重ねていく物語となっている。

この漫画は「音が聞こえる漫画」と評されており、読む前までは実際に音が聞こえるのか半信半疑であったが読むと成程、徐々に聞こえてくる。
もちろん、実際にコミックから音が鳴るわけではないのだが、作中のジャズプレイヤーの熱量と独特な擬音とコマの使い方、極めつけは作中の登場人物の表情で音を表現しており作品を読み進めるにつれて徐々に頭の中で音が鳴り始めるのだ。
また、大が世界的なジャズプレイヤーになっている未来を作中のキャラクターが語るドキュメンタリー風の内容がBONUS TRACKとして巻末に挿入されるのだがこの構成が非常に秀逸で作品にハマる大きな要因となった。
これがあるお陰で毎巻非常に良い読後感に浸れ、素晴らしい音楽(ジャズ)を聞いたような満足感を味わいながらまた次巻に向かうことが心地よかった。
(思わずこの記事の冒頭で真似してしまうくらいに好きなポイントだった)

丁度原作漫画を読み終えたあたりで映画BLUE GIANTのサブスクがスケジューリングされ、2024/3/8に配信がスタートした。
配信日当日に子供を寝かしつけた後、子供が起きないように音量は控えめにして妻も誘って自宅のテレビで視聴した。

—―2時間後
「ジャズってなんかいいね!」
映画視聴後、妻が発した。
そう、ジャズはなんかいいのだ。私は深く頷いた。
だが、私の頭の中では映画のクライマックスへの驚きと称賛と後悔でどうにかなりそうだった。

In search of-映画館を求めて

映画BLUE GIANTは素晴らしい映画だった。
原作を読んでから見るとより一層素晴らしいので原作10巻読了後をおすすめするが、読んでいなくても楽しめるのでまずは観てみて原作を読んでから再度観るとより一層楽しめるのでこれもまたおすすめだ。

原作でも大をはじめジャズプレイヤー達の音はコミックから飛び出し私の耳に届いていたのだが、それは想像の音ではあったので実際に本物の音が聞こえたことにより一層作品に対する解像度が増したが…一点だけ後悔が残った。

「なぜ、映画館で観なかったのか」

もう本当にこれである。この一言に尽きる。配信で見終わった翌日の昼食まで延々に後悔していた。
映画は原作とはクライマックスが異なるのだが、あのクライマックスは映画館で見るべきであり、映画館でBLUE GIANTを観ることによって何か自分の中でジャズに対する意識が大きく変わる気がしたのだ。

けれど既に本作は2023年2月に上映された映画であり、上映は既に終――

まだジャズが経験出来ます

や、やってる!!!!
昼食を食べながらBLUE GIANTの情報を調べていたら、どうやら期間限定でミニシアターで上映されているようだ。
映画の上映開始時間が平日の夕方だったので妻に相談し、仕事終わりに観に行けることになった。

「ジャズっちゃってんじゃん」

と昨日配信で観た映画を翌々日に映画館で見る姿を妻に評された。

都営新宿線・菊川駅徒歩1分 突然映画館が現れる

全国的には当時3件(東京2件、兵庫1件)の映画館で上映しており、最も近場だった「Stranger」で鑑賞した。
ミニシアターでの映画視聴は初めてだったが、ネットでチケットも確保できたので一安心。
特に深くは考えなかったがネットで調べると映画館では中央席が音がより良く聞こえるとの情報を目にしたので音が主役の映画なこともあって中央に位置する席を確保し、準備万端だ。
現地に着き、座席に座ると椅子がとてもフカフカで、席の前方左右もゆとりがあり、思っていたよりも何倍も設備が良く感動した。

上演時間となりBLUE GIANTの上映が始まると、2日前に見た作品より一層素晴らしい作品を目の当たりにすることになった。

BLUE GIANT

作品は大が大雪が降る中、仙台の河原でサックスの練習をするところから始まるのだがこの音からして自宅で聴くものとは全く違く、太く強い音が鳴っており、映画館で観て聴くべき作品であることを改めて痛感して、嬉しかった。

ジャズバー【TAKE TWO】で大がレコードのソニー・スティットのジャズを聴くシーンでは、レコード針とレコードが接し「チリチリ…」と小さなノイズがしっかりと音として捉えることが出来、非常に臨場感があり同シーンの大と同じく「うおっ!すげー迫力!」と心の中で唸っていた。

大と雪祈がタッグを組み練習を行う中で大の枠から外れて雑音化している音に対して雪祈が指摘して音の枠内にあれば暴れたとしても雑音にならないことを教授する場面ではより一層の説得力があった。

大・雪祈・玉田の客を前にした初ライブでは大きく強い大のサックス、安定した雪祈のピアノの音に混じって玉田のドラムの音が未熟なことが際立って非常にハラハラして、感情を揺さぶられる。ドラムの音から玉田の焦りと絶望の感情が色濃く聴こえた。

ジャズフェスで演奏されるN.E.W.の冒頭力強い伸び伸びとした音に作中の観客と同じく呆気を取られ、綺羅びやかに光るサックスとYEAR!という掛け声にバチッとハマる演奏に耳を持っていかれた。

臆病な自身の殻を破る音をピアノに乗せた、内臓がひっくり返るような雪祈のソロに心が踊った。

クライマックスでは頭の片隅にあった原作へのIFに答えるシナリオなので、分かっていても…いや最初に映画を観たときはこのクライマックスは知らなかったので驚きの方が強く状況を飲み込めなかったのもあり、2回目の方が涙が止まらなかった。
青く青くなっていくサックスの音、儚くも力強く紡がれるピアノの音運び、JASSの別れを告げるような最後であり最高のドラムソロ、それぞれが全力で鳴らす二度とないこの瞬間にただただ感動した。

Thank you Stranger

前述したように今回は初めてミニシアターを利用したのだが非常に良かった。
原作で大が「ジャズを好きな人がいるから、今日もまたジャズがある。ジャズを好きな人達がジャズを必死に、繋いできてくれたと思います」と言うようにジャズに限らず文化は誰かが常に支えてきて自分たちの元まで繋がれていて、もう映画館で観れないと思っていたBLUE GIANTをこうして観ることが出来たのは本当に良い巡り合わせだと実感し、素晴らしい映画を繋いでくれたStrangerの運営の方々には大きな感謝を。
また気になる映画が上映された際には併設のカフェも魅力的だったことも相まってぜひ足を運びたい。

記念に買ったマグカップ。青く大きい

なお、Strangerでは3/28でBLUE GIANTが終映となるのでまだ映画館で観ていない方々は是非足を運んでほしい。
→現在終映済。本当にありがとうStranger

WE WILL-そして私達はジャズを経験する

映画館でBLUE GIANTを観ることによって何か自分の中でジャズに対する意識が大きく変わる気がしたと前述したが、その通り私の生活にジャズが入り込むようになった。
仕事はフルリモートなので、基本的にずっと家では音楽をかけて仕事をしている。今の自宅のBGMのトレンドはもちろんジャズだ。
「ジャズが流れてるとカフェで作業しているっぽくてなんかいいね」
と妻にも好感触だ。そう、ジャズはなんかいいのだ。
BLUE GIANTのサントラを始め、原作で使用されたジャズのレジェンド達の曲など色々聴いていみているがそれぞれの曲に演奏者の強い個性が出ていて飽きがなく面白い!
なんだかんだ繰り返し聴くのはBLUE GIANT関連の曲が多くなってしまうが、特にFIRST NOTEとMOMENTUMはお気に入りで1日中リピートしている。

今まで何気なく耳にも留めていなかった店の中で流れるBGMもジャズが流れているとふと嬉しくなった。思っていたよりも身近にジャズは溢れていたのだ。

自分の中でジャズに対する意識が大きく変わったのだがしっくり来る言葉がうまく見つからず原作シリーズの続編であるBLUE GIANT SUPREMEを読み進めていると、突然腑に落ちた。

「あ、きっとこれだ」

BLUE GIANT SUPREME 9巻より引用

そう、私はあの日初めてジャズを経験したのだ。

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