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身の回りにある人間工学の実践例

こんにちはロイです。前回の記事では人間工学の、ほんとのほんとのほんとの基礎として人間工学の成り立ちや歴史、具体的な例をみてきました。記事でご紹介したのは航空機のレバーやシャンプーボトルなど少し古い事例ばかりでしたので、この記事では比較的最近の公開事例から人間工学の実践例をご紹介します。
取り扱うものは日本人間工学会ウェブサイトにあるグッドプラクティスデータベースより抜粋してご紹介します。画像等はすべてサイトからの転載であることを事前に明記しておきます。

災害時等の復興作業負担を軽減するショベル


ED-165 豪雨災害等における復興作業の負担を軽減するショベル

近年頻発傾向にある豪雨災害後の復興作業においては、重機の利用が困難な場合が多く、住宅街等に流れ込んだ大量の土砂をショベルや一輪車を用いて人海戦術で除去しなければならず、多大な労力が必要となります。こうした復興作業現場における土砂除去作業の負担軽減を目的として、復興作業用ショベルを開発しました。

https://www.ergonomics.jp/gpdb/gpdb-list.html?gddb_id=119&listpage=1

人間工学的な配慮視点

元旦に発生した石川県の地震のような災害時にはエネルギーや道路の問題で重機の利用が困難です。そのため人の手で作業をする必要がありますが、重機のように一度に大量の処理ができないため人間の身体ができるだけ低い負荷であり、かつ一回の処理でできるだけ多くの運搬ができる必要があります。
人間に配慮されたショベルは一般的なものと違い軸部分がZ型になっており、人間の負担を軽減しています。また土砂をすくう部分を薄くし、穴開き形状にすることで軽量化したことで重量を25%軽量化。穴開き構造になったことで土砂に刺さりやすく土離れしやすくなっています。
実際にどれほど負担軽減されたかも検証が行われました。その結果によれば、作業負担に必要となる酸素摂取量が13%軽減されたという報告が上がっています。使い慣れた人の作業の高速化はもちろんですが、使い慣れず力がない人でも扱いやすい道具となったことで、怪我や事故の防止、疲労軽減にもつながることでしょう。

アクティブムーブチェア


ED-154 アクティブムーブチェア「Weltz-self(ウェルツ-セルフ)」

誰もがより自由に、想いのままに。「ウェルツ セルフ」は座ったままの姿勢で安心・安全にスムーズに移動できるチェア。少子高齢化の中、下肢の機能が低下した高齢者や障がい者の働く場への進出が増加し、安全かつ快適な環境整備が求められている。下肢機能が低下したワーカーは、車椅子に乗る必要はないが、通常の椅子だと移動しにくいため、仕方なく車椅子を利用していることも多い。このため、「ウェルツ セルフ」は、座ったままの姿勢で、自身の足を使って、歩くように移動できる椅子を目指した。また、オフィスの椅子ならではのクッション性や机との相性を考慮し、適正なサイズを探った。さらに、意匠面では周辺のオフィス家具との調和を目指したデザインを追求し、車椅子ではなく椅子だと認識させるデザインに仕上げた。これにより、ユーザーの働く意欲を向上させ、また、一緒に働くワーカーとの一体感を生み出すことを目指した。

https://www.ergonomics.jp/gpdb/gpdb-list.html?gddb_id=102&listpage=2

人間工学的な配慮視点

私も含め多くの人がオフィスチェアに座りながら隣のデスクへ移動するという動作を経験しているはずですが、実際にやってみると動きづらい事がわかります。またその場で旋回しようとしてもローラーが上手く動かずに苦労するでしょう。ですがこの椅子は大型車輪を備えており、着座時の重心付近に配置されていることでその場で旋回しやすく設計されています。また足を動かしたときにフレームにぶつからないような形状にもこだわっており、体格差に対応できる調整機能も用意されています。
本製品はオフィスチェアを製造しているオカムラが国立大学法人佐賀大学、神奈川県総合リハビリテーションセンター、日進医療器株式会社と共同開発したもので、多くのユーザー検証を繰り返して作られました。この商品は高齢者が初めて車椅子に乗る際のネガティブな印象を払拭するために装飾美の観点ではオフィスチェアに寄せており、同時に機能美を追求しています。また実際の検証でも旋回性が向上していることが証明されています。

https://www.ergonomics.jp/official/wp-content/uploads/gddb/102-evaluation_result.pdf

remy pan + (レミパンプラス)

ED-150 remy pan + (レミパンプラス)

深型フライパンという市場カテゴリーを切り開き、いまなお愛され続けるロングセラー商品「レミパン」。そのレミパンが、新機能を搭載し、フルモデルチェンジを行います。新型レミパン「remy pan +(レミパンプラス)」が搭載したのは、“キッチンツールを保持する世界初のフライパン・ハンドル”です。 入念なユーザー調査の末に導き出されたこの機能は、ユーザーの潜在的なニーズに応え、かつてない手法により、調理中のストレスを軽減させることに成功しました。フライパンの新たなスタンダードをつくる製品、それが、「remy pan +」です。

https://www.ergonomics.jp/gpdb/gpdb-list.html?gddb_id=91&listpage=3

人間工学的な配慮視点

この製品は料理をする人の悩みを課題解決する形で生まれています。人間中心設計のプロセスに則り、現状の調理器具の利用行動分析、デザイン要件の抽出、プロトタイプ開発、検証調査を経て開発されていますが、調理器具の利用行動分析の結果からは「料理中にお玉やヘラを一時置きする頻度が高く、手軽に一時置きできる場所が無いことが料理中のストレスの一因となっている」という課題が抽出できたとのこと。
私自身も経験がありますが、お玉やヘラを一時置きしたいがそのままおいてしまうとキッチンが汚れてしまいますし、フライパンの中に置くと溶けてしまう不安もあります。実際の主婦への効果検証においても、調理中の置き場に迷わないという心理負担の軽減につながっていることがわかり高い評価を得られています。

モノは先人の知恵で改善されている

今回は3つの事例を紹介しましたが、いずれの事例もなんとなく行動を見ていてもわからない深い課題を解決しているものであり、人間の身体的・精神的な負担の軽減に貢献しています。私達は普段物を使っているとき「こういうものだ」と納得してしまいがちですが、食器やマウスなども含め、すべてのモノは改善余地があり、見えない人間の負担を軽減できる可能性に満ちているということがわかります。
先人たちの小さな改善の歴史が小さな負担軽減として積み重ねられており、今の私達の生活実現に繋がっていますから、わたしたちも小さな改善を通じて未来の人たちの負担軽減につながる取り組みをしていきたいですね。


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