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風格とさわやかな緑を感じて。泉屋博古館東京

地下鉄の六本木一丁目駅で降りたら、外のエスカレーターを上がってすぐ。
東京都・港区の瀟洒な空気に身を委ねる。
すぐそこに泉屋博古館東京せんおくはくこかんとうきょうが見えた。

泉屋博古館東京の入り口

ここ一帯は住友が運用する泉ガーデンが広がっている。
サントリー美術館や森美術館がある六本木駅の周りは、商業施設で賑わう界隈だ。けれども、1駅離れたこちらは閑静なビジネス街で落ち着いている。どちらかと言えば赤坂界隈に近い立地だ。

神谷町駅・赤坂駅・虎ノ門駅も使えるから利便性が高い。
近くにはホテルオークラやサントリーホールがあり、大人が休日を過ごす街だ。菊池寛実記念 智美術館や大倉集古館にも歩いて行ける。

泉屋博古館東京は2002年に設立され、2022年3月に改修工事を経てリニューアルオープンした。以前は「泉屋博古館分館」という名前だったのを、リニューアルを機に名称もロゴも一新した。
京都府・鹿ヶ谷には本館の「泉屋博古館」がある。

いずれも住友コレクションを中心とした美術品を保存・研究・公開する館である。そう、あの財閥・住友家だ。
同じく財閥の美術館には三井記念美術館があるけれど、その佇まいには違いが見えておもしろい。日本橋にある三井の美術館は荘厳そのもの、クラシカルで上質。一方で住友の美術館は格調高さがありつつ、どこか風通しの良さを感じられる。

所蔵品は中国古代青銅器をはじめ、書画、西洋絵画、陶磁器、茶道具など幅広い分野にわたる。
国宝2件・重要文化財19件・重要美術品60件を含む3,500件を所蔵していて、館蔵品のラインナップは魅力的だ。

「泉ガーデン」の美しい緑に心和ませながら、エントランスを通る。
コンパクトながらも明るく開放感のある受付でチケットを買う。電子マネーやコード決済も使えるのが嬉しい。

四季折々の表情を見せる泉ガーデン

大きめのロッカーは100円玉がなくても使用できる。
荷物を置いたら、展示室へ進んでみよう。


リニューアルオープン記念展Ⅲ  古美術逍遙―東洋へのまなざし

展示室

背筋がしゃんとするようなホールを抜けて、第1展示室へと進む。

展示室は4つあり、グレートーンの天井や濃紫色のカーペットで美術品が映える。
リニューアル時に新設された第4展示室は、大正6年に住友家の別邸としてこの地に建てられた「麻布別邸」を想起させる作りになっているのだとか。アンティーク調の椅子に腰掛ければ、邸宅に招かれておもてなしを受けている気分になれる。

とにかく、空間が心地よい。
LED照明はしっかりと作品を輝かせつつ、落ち着きのある薄暗さはまるで映画館のよう。ゆったり座れるソファもあり、鑑賞に没頭できる。
第2展示室の細長い空間も私は気に入っている。

「古美術逍遙」と題されたこの展覧会では、中国絵画に仏教美術、日本絵画や茶道具などバラエティ豊かな美術品が揃っている。

ソファに座って仏像を眺める。陶磁器や屏風絵のある館、というイメージが先行していたせいか「こんなところで仏像が見られるなんて」と不思議な心持ちになる。
仏様の気持ちよさそうな顔、畏敬の念が湧き上がるような凛々しい顔。手元が「オッケー」のサインに見えて、思わずクスッと笑う。

例の第4展示室は、文房——つまり書斎、の道具を取り揃えている。
住友家15代当主・住友春翠(しゅんすい)は粋な文化人で、文房に数寄者たちを招いては「煎茶会」をするのを好んだそうだ。
いわゆる抹茶をシャカシャカと点てる呈茶席ではなく、もっと気軽に風流を楽しむ会だったらしい。

第3展示室には、茶席に欠かせない掛け軸や花入れ・茶碗・釜も並んでいる。中には、素晴らしい作品なのに「なぜか茶会で飾られた記録がない」と紹介されているものも。どんなに優れた美術品でも、1点だけでは成り立たない。他のアイテムとの組み合わせもあるし、季節感や茶会のテイストもある。タイミングが合わなければ日の目を見ないのだ。茶会って、一種のキュレーションなんだなと思う。


ミュージアムショップ

ミュージアムショップは定番のポストカードや図録のほか、東京館の所蔵作品をモチーフとしたグッズが豊富だ。
ちょうどサーモボトルが欲しかった私は、好みにぴったりなものを見つけて購入した。細身のシルエット、黒地に金の模様がシックで綺麗だ。

ミュージアムカフェ

泉屋博古館東京には併設のカフェがある。
コーヒー器具のメーカー「HARIO」の直営で、HARIOの器具で淹れたコーヒーや紅茶を飲める。器具も実際に買える。
HARIOが展開しているアクセサリーブランドも並んでいる。透きとおったガラスが美しいペンダントやピアスは見ているだけで心が弾んだ。

つややかな透明感が美しい器で紅茶を飲む。

年間パスポート

年間パスポート制度があるのも嬉しい。
リニューアルで新しく講堂ができ、ラーニングイベントも盛んに行われている。前期と後期で展示替えもあるから、何度も足を運ぶ人にはおすすめしたい。

おわりに

4室からなる小さな美術館。それでいて手狭な印象はなく、むしろゆったりとくつろげる空間は安らぎをもたらしてくれる。
ガラス張りのエントランスからは庭園の景色も見えるし、日光が差し込めば清らかさで満ち溢れる。

泉屋博古館東京、アート巡りに一度訪れてみてほしい。
鑑賞後に味わう1杯のコーヒーも、豊かな時間を与えてくれるに違いない。


泉屋博古館東京
〒106-0032 東京都港区六本木1丁目5−1
TEL:050-5541-8600
公式ホームページ

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