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「勝てばいい」というのは都会の理屈

雨が上がったので、気分転換に一回り散歩してきたらサンコウチョウを見かけました。

目の周囲がコバルトブルーでとてもキレイな鳥ですが、それ以外は暗色で暗がりの中にいるのでなかなか見つかりません。オスは全長45cmもあるのにそのほとんどが尾で、身体はスズメよりちょっと大きい程度。たまに道路を横切るように飛ぶと長い尾がヒラヒラして幻想的な感じがします。

家は自然林の中なので散歩にはいいんですが、如何せん雨上がりは湿度がスゴいですね。

湿度が高いと熱中症の発生率も上がります。
去年から頼まれて熱中症予防のA3チラシというかポスターを作って配布しているんですが「うわー! プロみたい」と言っていただいております。
一応プロなんですがね。

都会だとこんなもの作っても誰も見てくれませんが、ここいらですと冷蔵庫とか居間のカレンダーの横とかにちゃんと貼ってありますよ。それにしてもなんで田舎ってあんなにカレンダー貼りたがるんだろう……。

たいした部数じゃなかったので印刷もウチで受けたんですが、最初っからデザイン代もらおうなんて思ってませんし、印刷も赤字じゃなきゃいいので「従来と同じ予算で」という話になっておりました。

仕上がりが小ギレイになって同じ価格なら向こうは儲けものですよね。一方でデザイン代なしならウチは損をすることになりますが、実は案外そうはならないんです。

印刷会社の競合が少ないので元々の価格が高めなのと、ネット印刷の異常なまでの安さとで案外こづかい程度の利益は出てしまいます。

当たり前ですが、都市部でデザイナーが食べていけるのは仕事があるからです。仕事があるというのはデザインという形のないものに「お金を払う価値がある」と思っている人たちがいるということであり、同時に「お金を払う予算がある」ということです。

これが地方に行くとなかなか難しくなります。デザインに価値を認めてもらうことがまず難しく、またその予算がありません。

これは理解があるとかないとかという問題ではなく、単純にスケールの問題です。印刷物は印刷するまでの手間は同じでも、印刷部数が増えていけばそれに比例して売上が上がっていくので、撮影費やデザイン代のような固定費は印刷部数が多ければ多いほど予算が潤沢になる傾向があります。

逆に地方のように物理的に人が少ないところは、固定費を増やすと受注が難しくなるので相対的に不利になります。

ちなみに私の町ですと8,000枚も刷れば全戸配布できますよ。
都内だと世田谷だけで50万枚位要りますかね。

では地方ではデザインでは飯が食えないのかというと、それはそれで短絡的です。印刷会社が受注してきた仕事を下請けとして受けていれば、低予算に喘ぐことになりますが、営業から打ち合わせ〜制作まで、全部自分で全部コントロールできるなら案外なんとかなるだろうと、私は踏んでいます。

それどころかブルー・オーシャンなんじゃないんだろうか、とすら思っています。それぐらい今のネット印刷は安いんですね。

ただ、そこがブルー・オーシャンだからといって大手を振って参入するのはまた別の意味で考えものです。

「儲けたければ腕を磨くより場所を選べ」というのは間違いではないものの、それはあくまで都会の論理です。レッド・オーシャンで生き残るために大ナタ振り回して、それでバタバタ競合が倒れたとしても誰も文句は言わないでしょう? まさに弱肉強食でありレッド・オーシャンたる所以です。

一方、ブルー・オーシャンで大ナタ振り回してると一斉に叩かれます。

確かに同じ価格でより良いものが手に入るならそれはとても魅力的ですが、それは「抵抗」を無視した論理です。地方の商売は価格よりも多分に地縁や血縁で動き、上がりの良し悪しと同じくらいお付き合いも重視されます。
そういう言い方をすると「ほらやっぱり田舎は……」という話になりそうですが、決してそんなことばかりではありませんよ。

都会から移住して、それなりに馴染んだ身からすると、都市部の「能力主義」は差別の最たるもののように見えます。弱肉強食や適者生存は「自己責任」で片付けられ、人はたくさんいるのに人と人は分断され、疲れた人間関係の中に孤独が色濃く漂います。

結局「勝てばいい」というのは都会の理屈です。
たとえそれがビジネスであっても「相互扶助」において生活しようとするのが田舎の理屈です。

個人的な偏見を承知で言えば「都市部の論理」は「銀行」の論理です。担保は「生活」です。一方「田舎の論理」は「信用組合」の論理です。担保は「信用」です。

もし、あなたが田舎で暮らしたいと思ったことがあるのなら、一度自分の価値観を棚卸しして見る必要はありそうです。なにしろ都会で作られるメディアから入ってくる情報は、結局、都会の人間が作った情報だということは肝に銘じたほうがいいと思います。

それを拭い去るのはとても難しいとも思いますが、一度きっちりリセットできれば見える景色は変わってくるんじゃないかな……と思います。

んじゃ、またね。


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