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採用面接における「候補者体験」について

「私のマネジメント教科書」その3:

私のマネジメント教科書は新たにマネジメント職に就く方や、行動の判断基準を知りたい方向けの記事です。

前回までのお話では、私が初めて台湾の事業所を任された際、管理職としての試行錯誤を振り返りました。マネージャーとしての振る舞いを明確にすることで、チームの士気向上に繋がったことをお伝えしました。そして、その後、日系企業、米国企業、ドイツ企業でマネジメントを担いましたが、どの環境でも「マネージャーの取り扱い説明書」の重要性に気づいたのです。
※「マネージャーの取り扱い説明書」の内容はこちらの記事を参照

さて、今回は「候補者体験」に焦点を当ててみましょう。面接という場は、単なるスキルチェックの場ではありません。実は、面接中の候補者は潜在的なお客様でもあります。たとえば、アマゾンでの面接は面接官になるための研修を受けて資格を取る必要があるのですがその中で求められる面接官としての重要な考え方の一つが、候補者にただ質問を投げかけるだけでなく、彼らが自分たちの会社にどのような印象を持つかも重要だと強調されます。

良好な「候補者体験」の影響はなにか?

  1. オファー受諾率の向上
    候補者が採用プロセスに満足した場合、オファーを受諾する可能性が38%も高まるというデータがあります。これは、採用体験を向上させることで、採用効率や採用品質が向上し、採用コストを削減できることを示しています。

  2. 推薦の増加
    満足した候補者は、製品のリピーターと同様に、企業を他者に推薦する可能性が高くなります。良好な候補者体験は、企業の評判を広め、より多くの優秀な人材の応募を引き寄せる効果があります。

  3. 企業イメージ、ブランドエクイティの向上
    良好な候補者体験は、採用以外の分野にも影響を及ぼします。採用体験が良かった候補者は、企業の製品やサービスを利用する可能性が高まり、結果としてブランドとしての資産であるエクイティの向上に繋がります。実際に、53%の候補者がポジティブな採用体験をした企業の顧客になりたいと答えています。

では、そのような好影響をもたらすために、私たちマネジメントとしてどのように振る舞い、行動すべきなのでしょうか。採用面接における振る舞い、行動基準をお伝えします。

面接では候補者は、事前準備やイメージトレーニングを繰り返し臨んでいて通常より緊張されています。その状況の中で面接中に過度に緊張させたり、攻撃的な質問をしたりすると、「この会社、ちょっと雰囲気悪いな」と思われるリスクが高まります。すると、その候補者が別の場面で「あそこの面接、ひどかったよ」と広めてしまう可能性もあります。

具体例として、ある日の面接で、私は部長ポジションの候補者に「これまでに直面した最大の失敗と、それをどう乗り越えたか教えてください」と尋ねました。すると、候補者は失敗談を話し始め、おそらく緊張のあまりネガティブな内容を話し始めたことに後悔したのでしょう、途中で少し困惑気味に。そこで私は「心配しなくて大丈夫。失敗は成長の一部ですからね。その時にどう考えて、どのように行動をとったのかを教えていただけますか?」とフォローしました。この一言で候補者の緊張がほぐれ、よりリラックスして話してくれました。

面接は、丁寧な態度を持ちながら進めることが大切です。候補者が話しやすい環境を作ることで、彼らの本当の姿が見えてきますし、結果として会社にも良い印象を持ってもらえます。マネジメントに初めて挑戦する方にとっては、面接のスタンダードは「候補者に安心感を与え、組織の魅力を伝える」ことだと覚えておいてください。

面接は、候補者にとっても自分たちの会社の印象を左右する場です。特に、候補者がリラックスして自分のことを話せるかどうかが、面接の満足度を決定づけます。たとえば、アマゾンでの面接では、候補者に自由に話してもらうことが非常に重要視されています。候補者がリラックスして話せるように配慮し、インタビューの内容を深めることで、彼らの真の能力や考え方が見えてくるのです。

距離を縮めることも大切です。面接官として、あまりにも堅苦しい雰囲気を作ってしまうと、候補者が本来の自分を出せず、会社に対する印象も悪くなってしまいます。たとえば、面接の冒頭で軽い雑談を挟むことで、相手との距離を縮め、緊張感を和らげることができます。

さらに、邪魔になる要素を最小限にすることも、候補者体験の向上に繋がります。面接中に電話が鳴ったり、他のスタッフが入ってきたりするようなことは、集中を妨げてしまいます。面接官としての準備も、候補者への配慮の一環です。

そして、会社の良い点をアピールすることも忘れてはなりません。候補者にとっては、自分がどのような環境で働くのかを知ることは非常に重要です。

続けて、候補者体験を高める上で、面接する側が心得ておくべきポイントをまとめます。

やるべきこと:

  1. 丁寧な態度
    礼儀正しい言葉遣いや態度は、面接の質を高めます。たとえば、面接開始時に、
    「本日はお忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます。リラックスして、あなたの経験や考えをお聞かせいただければと思います。」
    こういった言葉で候補者を落ち着かせると、緊張が和らぎ、よりスムーズな対話が期待できます。

  2. 厳密な姿勢
    丁寧な態度が大前提ですが、厳密な姿勢を保つことも必要です。インタビューは徹底的かつ能力を試す内容にするという軸を一貫して持つことが必要です。面接では候補者のスキルを正確に評価するために。そのために、具体的な質問をし、候補者の能力や経験を掘り下げます。
    「これまでのプロジェクトで、特に難しかった課題とそれをどのように解決したか教えてください。」
    こうした質問は、候補者の問題解決能力や実践力を引き出すのに役立ちます。この質問の背景にあるのが、成果を確認するのではなく、どのような考えでどのように行動したのかを確認する姿勢です。

  3. 会話を盛り上げる
    面接は双方向のコミュニケーションです。会社やチームのビジョンに触れ、候補者にも興味を持ってもらうよう心掛けましょう。たとえば、
    「私たちのチームでは、協力を重視し、常に新しいアイデアを歓迎しています。あなたがこれまで働いてきたチームでは、どのような文化や取り組みがありましたか?」
    こういった質問で、候補者が自身の経験を語りやすくなり、会社との親和性を感じさせることができます。

  4. 過剰な期待や誤解を与えない
    会社の実情を正確に伝え、候補者に過剰な期待や誤解を与えないようにすることも重要です。たとえば、職場環境について話す際には、
    「私たちのチームは忙しい時期もありますが、サポートし合いながら効率的に働ける体制を整えています。もし入社された場合も、安心して取り組んでいただける環境です。」
    といった具体的な説明をすることで、現実的な職場イメージを候補者に伝えることができます。

一方で、「候補者体験」を一定の品質で保つためには、以下のようなやってはいけないことを避けることが大切です。

やってはいけないこと:

  1. 攻撃的になる
    面接中に候補者を攻めるような態度や言葉遣いは絶対に避けるべきです。たとえば、
    「この問題にどうして対処できなかったんですか?」 と問い詰めるような口調は、候補者に不快感を与えるだけでなく、会社の印象も悪くなります。代わりに、
    「この課題にはどうアプローチしましたか? もし今ならどう対処しますか?」
    と、柔らかく問いかけることで建設的な対話が可能です。

  2. 一方的にしゃべる
    面接は双方向のコミュニケーションであるべきです。一方的に面接官が話し続けると、候補者は発言の機会を失い、自己表現ができなくなります。たとえば、会社の説明が長引いてしまい、候補者にほとんど質問をさせない状況は避けましょう。
    「ここまでで何か質問がありますか?」
    と定期的に候補者に質問の機会を与えることで、彼らの意見を引き出すことができます。

  3. 準備不足でインタビューに臨む
    候補者の履歴書や過去の経験を事前に把握せずに面接に臨むことは、候補者に対する敬意の欠如と捉えられます。たとえば、
    「ええと、あなたはどこで働いていましたっけ?」
    というような質問は避け、面接前にしっかりと情報を確認しておきましょう。事前準備をすることで、より深い質問ができ、候補者も真剣に評価されていると感じられます。

  4. 引っかけ問題や矛盾した質問をする
    候補者を試すような引っかけ問題や、質問内容が矛盾している場合、候補者にとって混乱やストレスの原因となります。たとえば、
    「前回の質問とは異なる観点でどう対応しますか?」
    など、意図的に矛盾した質問を投げかけることは避けるべきです。代わりに、候補者が実際の経験を基に考えを述べやすいように、
    「同じ状況が再び訪れた場合、どう対処するか考えてみてください。」
    などの質問が有効です。

これらの「やってはいけないこと」を回避することで、候補者が面接中に不必要なストレスを感じず、ポジティブな体験を得られるようになります。結果として、企業に対する印象も向上し、優秀な人材を引き寄せる効果が期待できます。

これらのdo's and don'ts(候補者体験を高める心得)を通じて、満足度の高い面接を実施するための重要なポイントは、面接が対等な時間の共有であることを理解することです。

面接は、採用側が上、候補者が下という上下関係ではなく、お互いが等価な時間を費やし、成長と相互理解を目指す場です。以下の心得を心がけることで、面接の質を高め、候補者体験を向上させることができます。

候補者体験を高める心得まとめ

Do's:

  1. 丁寧な態度を忘れず、候補者に対する敬意を持つこと。面接開始時にリラックスできる挨拶をし、相手を迎え入れましょう。

  2. 会話を盛り上げるために、候補者が自由に話せる雰囲気を作り出し、双方向のコミュニケーションを意識してください。候補者の経験を深堀りする質問を心がけましょう。

  3. 職場環境や実際の仕事内容を具体的に伝え、候補者が会社の文化に合うかどうかを理解しやすいようにします。

Don'ts:

  1. 攻撃的な質問や態度は避け、相手が委縮しないようにしましょう。あくまでリラックスした雰囲気で対話を進めます。

  2. 一方的にしゃべることなく、候補者に発言の機会を与え、彼らの考えや意見を引き出します。

  3. 準備不足で臨むことは避け、面接前に候補者の履歴や背景をしっかり把握し、的確な質問を準備します。

このように、対等な立場で時間を共有し、相手を尊重しながら進めることで、面接の満足度を高めることができます。

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「私のマネジメント教科書」その2「採用面接で大切にする基準」はこちら


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