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読書03.海の男に学ぶリーダーシップ(無人島に生きる十六人/須川邦彦)

海は常に男のロマンである。

どこまで見ても青く広がる広大な大海原に、人は心躍らせる。

コロンブスが大西洋を航海してアメリカ大陸を発見したのが1492年。
バスコ・ダ・ガマが喜望峰を経てインドへたどり着いたのが1498年。
加山雄三が「海 その愛」をリリースしたのが1976年。
ONEPIECEが連載を開始したのが1997年。

時代は変わっても、国は違えど、いつも海は男たちのロマンである。

一方で、海は怖い存在でもある。
人間は、水中で呼吸ができない。水温にも負ける。
サメだって怖いし、深海の黒さにはとてつもない恐怖心を抱く。
我々人間は自然に対して、本能的に畏怖の念を抱くが、
そうした自然のなかで最も身近で、恩恵と恐怖を与える存在が海である。

本書は、そんな海を舞台に働く明治の男たちの、無人島での物語である。

リーダーシップとは何か

本書は、タイトルの通り、16人の船乗りたちが、無人島で生き抜くサバイバル記録であるが、その物語の根幹をなしているのは、骨太のリーダーシップであった。

ところで、リーダーシップとは、なんだろうか。
きっと人それぞれに思い描くリーダーシップの形があるだろうが、ググってみたところ、その定義は以下のようなものだった。

自己の理念や価値観に基づいて、魅力ある目標を設定し、またその実現体制を構築し、人々の意欲を高め成長させながら、課題や障害を解決する行動。

デジタル大辞泉より

まさしく、本書でリーダーであった中川船長の姿そのものである。
いくつか、読み進める中で印象的だった部分を抜粋する。

常に困難に備え、迅速に対応する

リーダーは常に未来を見据え、困難においても目をそらさず胆力を持ってメンバーを引っ張ることが使命である。

16人が乗っていた龍垂丸は、南太平洋を航行中、岩礁地帯で難破することになるのだが、真っ暗闇の中で「もう少ししたら沈没する」という時に放ったセリフがとんでもなく男前であった。(というかずっと男前である)

「こんな場合の覚悟は、日ごろからじゅうぶんにできているはずだ。(中略)この間に、これからさき、五年、十年の無人島生活に必要だとおもう品々を、めいめいで、なんでも集めておけ」

P67

そうして無事岩場に到着した後、次のようなセリフで船員たちを勇気づける。

「どうだ、この大波をくぐっても、一人のかすり傷を受けた者もない。(中略)これは、いつかきっと、みんながそろって、日本へ帰れる前兆にちがいない。これから島へ行って、愉快にくらそう。できるだけ勉強しよう。きっとあとで、おもしろい思い出になるだろう。みんなはりきって、おおいにやろう。かねていっているとおり、いつでも、先の希望をみつめているように。日本の海員には、絶望ということは、ないのだ。」

P85

暗闇に包まれ、荒れ狂う大海原で、この力強さである。
例え海の男としての覚悟と訓練をもってしても、押し寄せる恐怖や不安を一切感じさせない、しびれるセリフである。

メンバーと、自分の想いを共有する

紆余曲折の末、生活ができそうな島にたどり着いた一行は、深い眠りにつく。そこで船長は、運転士・漁業長・水夫長という3人のサブリーダーを早朝に起こし、こう語りかける。

「いままでに、無人島に流れついた船の人たちに、いろいろ不幸なことが起って、そのまま島の鬼となって、死んで行ったりしたのは、たいがい、じぶんはもう、うまれ故郷には帰れない、と絶望してしまったのが、原因であった。私は、このことを心配している。いまこの島にいる人たちは、それこそ、一つぶよりの、ほんとうの海の勇士であるけれども、ひょっとして、一人でも、気がよわくなってはこまる。一人一人が、ばらばらの気もちではいけない。きょうからは、げんかくな規律のもとに、十六人が、一つのかたまりとなって、いつでも強い心で、しかも愉快に、本当に男らしく毎日毎日をはずかしくなく、くらしていかなければならない。そして、りっぱな塾か、道場にいるような気もちで、生活しなければならない。この島にいるあいだも、私は、青年たちを、しっかりとみちびいていきたいと思う。君たち三人はどう思っているかききたいので、こんなに早く起こしたのだ」

P106

ここではいくつかポイントがある。
1つ目は、まずサブリーダーだけに伝えたこと。16人もメンバーがいては、一人で統率をとるのは不可能である。そうした時、自分が信頼できる仲間をフォロワーとして獲得することで、チーム運営がより強固なものになる。
2つ目は、自分の不安や心配を正直に打ち明けていること。自分の心に噓をついて「大丈夫、帰れるから頑張ろう」と無責任な発言をするのではなく、「不安や心配があるが、それに打ち勝つために自分はこうしたい」という責任感ある意思の表明を行うことで、メンバーからの信頼はぐっと高まる。
3つ目は、その意思についてどう感じたかをしっかり聞いていること。きちんとメンバーの意見を聞くことで、面従腹背の想いに裏切られることなく、よりチームとしての意思に磨きをかけることができる。

困難だからこそ、意思を表明し仲間を募り、未来へ向けてその意思を磨く。
強いリーダーへの第一歩は、自分にも相手にも誠実に向き合うことから始まる。

リーダーシップを発揮したその先

本書では、たまたま通りかかった日本船に救助され、無事帰国の途についている。(それも、日ごろの備えの成果であった)
そこで最後に無人島を離れる際に伝えた言葉が、リーダーシップを発揮したその先にあるチームの強さを物語っている。

「いよいよ、この島を引き上げるときが来た。考えてみると、よくも、あれだけの困難と不自由をしのいで、海国日本の男らしく、生きてきたものだ。
一人一人の、力はよわい。ちえもたりない。しかし、一人一人のま心としんけんな努力とを、十六集めた一かたまりは、ほんとに強い、はかり知れない底力のあるものだった。それでわれらは、この島で、りっぱに、ほがらかに、ただの一日もいやな思いをしないで、おたがいの生活が、少しでも進歩し、少しでもよくなるように、心がけてくらすことができたのだ。私たちはこの島で、はじめて、しんけんに、じぶんでじぶんをきたえることができた。そして心をみがき、その心の力が、どんなに強いものであるかを、はっきり知ることができた。十六人が、ほんとうに一つになった心の強さのまえには、不安もしんぱいもなかった。(中略)ミッドウェー島に引っこしてからは、この経験したことに、みがきをかけて、ほんとうのしあげをしなくてはならない。いっそう、よくやってもらいたい。あらためて、みんなにお礼をいう」

P242

みんなで共通した一つの目標を掲げ、その目標を達成するために力を合わせることで、本来バラバラだったはずの力や知恵が、掛け算のようにまとまりあう。そうしてチームになることで、勇気が湧き、ひとりでは成しえなかったことが実現できる。

チームの存在意義とは、ひとりではできないことを成し遂げる機能であることだ。
その機能を十分に果たしたチームに属していたメンバーは、例えチームがなくなっても、船長の最後の言葉にあるように、より個人として自らの心に磨きをかけるだろう。

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