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これまでの話

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前書き/#01-06
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#06

 過渡期の終わりは近い。

 友人たちの多くは変わらない。幸いにも元気に過ごしている人が多い。付き合いの浅い/深い、会話の内容に微妙な変化があったりはするけど、そんなのは自然なことだし。

 常に付きまとっていた焦燥感や、衝動的な負の感情の隆起は消えた。5歳から続く記憶上、はじめてだと思う、たぶん。
 楽しさを感じることへの罪悪感がなくなると、少し時間をおいて成人してから自覚した悪癖ーー現状で対処

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#05

 今年の7月で、25歳になる。
高校生の頃、25歳になれば自分も海外の女優さんのような美貌(日本の女の子のアイドル的な可愛さを期待できる素養は、体格の良い男顔の私には見つけられなかったのだ)の片鱗が自然と現れるのではないかと、本気で期待していた。

 年頃なのに情弱だった。ヘアアイロンの存在さえ知らなかった。ワックスは不良少年が付けるもので、化粧や流行の服やプリクラを楽しめるのは、もともと何もしな

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#03 missing link

#03 missing link

 そもそも人通りの多い駅じゃなかった。地下道の先にはエレベーターがある。重そうなコンクリの塊が口を開け自転車ごと人間を出入りさせていた。荷台に取り付けられた椅子の上で泣き、父親の背を叩き続ける女の子がいた。地上に出て川沿いを歩いた。晴れた夜だった。道脇に雑多なゴミが捨てられていた。

 よく見たところで、よくわからないものばかりだった。意味がありそうで全然無いものばかり。フェンスは穴が空いてるし、

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#02

眩しい。

横に目を遣ると、水面の反射した白日が容赦なく目の中を刺してくる。
2008年、8月。その後10年余りに渡って、わたしが執着し続けた思い出がある。
できごとはたった一回なのに、過剰に取り出しては眺めていた。そのせいで、いまとなっては年季の入ったぬいぐるみのように色褪せて、中の綿もしぼみ、もう元の形が分からなくなっている。

あの日。四国の、とある有名な河川をカヌーで下ろうという企画に、親

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#01

窓を少し開けて寝ていた。

起きる頃にはいつも閉められている。寒いのに何を考えているのか、と起き抜けに言われる。もはや特に反応は返さない。彼女にとって、わたしは人生の付属品。

洗顔をすると、思い出す。朝食を食べていると、思い出す。学校へ行くために隣に住む祖母の、家の玄関に立つと思い出す。二階の自分の部屋に居ると、思い出す。何を。

洗顔の方法がわたしの教えたのと違う、と怒鳴られた事。食べ切れない

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前書き

怨恨 という感情は、よっぽどの動機がなければ起こりえない、非日常なものだと思います。それが一時の情動で終わらないとき、その人の人格は既に破綻しています。もう日常を生きている人間ではないのです。周りの景色や人の言動はすべて黒黒として映り、誰のことも信用することができません。信頼の仕方をすっかり忘れてしまうのです。心の動き方が、常に大きくマイナスへ振り切るようになります。怨恨の感情が根を張った本人が、

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