現代版・徒然草【51】(第92段・即断即決)

「即断即決」(そくだんそっけつ)という四字熟語がある。即座に判断して、即座に決定することである。

これは、リーダーに求められる能力といえよう。

つまり、躊躇していてはいけないし、限られた時間内で緊急性の高い事案の処理をする必要がある。なおかつ、その判断は間違いがあってはならない。国家存亡や人命救助の局面にあるときは、即断即決の実行力が求められる。

昔の人は、生きるために動物を捕獲するとき、戦で敵を狙い撃ちするとき、弓矢で一発で仕留める集中力や判断力が必要とされた。

では、原文を読んでみよう。

①或る人、弓射る事を習ふに、諸矢(もろや)をたばさみて的に向ふ。
②師の云はく、「初心の人、二つの矢を持つ事なかれ。後の矢を頼みて、始めの矢に等閑(なほざり)の心あり。毎度、たゞ、得失なく、この一矢に定むべしと思へ」と云ふ。
③わづかに二つの矢、師の前にて一つをおろかにせんと思はんや。
④懈怠(けだい)の心、みづから知らずといへども、師これを知る。
⑤この戒め、万事にわたるべし。
⑥道を学する人、夕(ゆうべ)には朝(あした)あらん事を思ひ、朝には夕あらん事を思ひて、重ねてねんごろに修せんことを期す。
⑦況んや、一刹那の中において、懈怠の心ある事を知らんや。
⑧何ぞ、たゞ今の一念において、直ちにする事の甚だ難き。

以上である。

①②の文では、弓術を習う初心者が、2本の矢を持って練習場に行ったとき、師匠が「初心者が2本の矢を持つな。もう1本あると思うと気の緩みが出る。たった1本の矢で決めようと思え。」と言ったわけである。

③④⑤の文では、もちろんそんないい加減な気持ちで練習に臨んでいるわけではないが、師匠は見抜いているということと、この考えは万事に通ずるということを兼好法師は言っている。

最後に、⑥⑦の文で指摘しているとおり、夕方に何かをしようというときに明日があると思い、朝に何かをしようというときに夕方があると思うのは、その瞬間に怠け心や気の緩みが生じているのである。

⑧で締めくくっているが、「いつやるの?今でしょ!」と言っている割に、実行になかなか移せないのは、現代に生きる私たちも同じなのだ。



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