現代版・徒然草【78】(第99段・価値あるもの)

昔の日本は、質素倹約に努めていたが、貴族のようにお金があるところは、どうしてもぜいたくを好む。

まだ使えるものでも真新しいものの存在を知ると、簡単に買い替えてしまうのは、今の時代においても同じだろう。

今日は、兼好法師が若いときに仕えていた堀川具守〈とももり〉(=文中に登場する基俊の兄)の父親(=堀川相国)のお話である。

では、原文を読んでみよう。

①堀川相国(ほりかわのしょうこく)は、美男のたのしき人にて、そのこととなく過差(かさ)を好み給ひけり。
②御子(おんこ)基俊卿(もととしきょう)を大理になして、庁務行はれけるに、庁屋の唐櫃見苦しとて、めでたく作り改めらるべき由仰せられけるに、この唐櫃は、上古(しょうこ)より伝はりて、その始めを知らず、数百年を経たり。
③累代の公物(くもつ)、古弊(こへい)をもちて規模とす。
④たやすく改められ難き由、故実(こしつ)の諸官等申しければ、その事止(や)みにけり。

以上である。

①の文で触れているとおり、堀川相国は、容姿も良くて裕福(=たのしき)な公卿だった。過差(=ぜいたく)を好む人だった。

②では、堀川相国が次男の基俊を検非違使の長官(=大理)に任じて庁務を執らせていたが、庁舎にある唐櫃が古くて見苦しいと注文をつけたわけである。検非違使は、当時は犯人を捕らえる警察官の任務を行なっていた。

それで、堀川相国は、きれいに作り直せと言ったわけだが、これは、昔から代々受け継がれているもので、数百年ほどの年代物だった。

③の文のとおり、こういった歴史的な公用物は、何年もの時を経て価値あるものになっている。

④では、簡単に作り替えることはできない旨を有識者の方々がアドバイスしたため、取りやめになったと言っている。

さて、現代においても、昔の貴重なものは大切に保管されて、博物館などに展示されているが、私たち個人ではどうだろうか。

祖父母や親の遺品整理をしていると、自分にとっては何の価値もないように思えても、当時を知る人からすれば、貴重な物だったりする。

また、逆に、私たちが年老いて亡くなるときに、将来の若い人たちが価値を知らずに捨ててしまったら、それはもったいないことである。

古い新聞だって、もしかしたら有名な事件記事が載っていることだってあるかもしれない。

日焼けてボロくなっても、内容をチェックするのは大切である。

ネットニュースは、どうだろうか。

やはり紙媒体で形として残るものは貴重である。



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