唱歌の架け橋(第3回)

「菜の花や月は東に日は西に」という有名な俳句を詠んだのは、知る人ぞ知る与謝蕪村である。

1774年に、兵庫県神戸市の摩耶山で詠まれた句だとされている。

それから140年が経った1914年(=大正3年)に、高野辰之作詞・岡野貞一作曲によって『朧月夜』(おぼろづきよ)が誕生した。

昨日と同様に、歌詞がいくつの音で構成されているか見てみよう。

1番の歌詞を、今日は漢字交じりで紹介する。

菜の花畠(ばたけ)に    入日(いりひ)薄れ
見わたす山の端(は)    霞(かすみ)ふかし
春風そよふく    空を見れば
夕月(ゆうづき)かかりて    におい淡(あわ)し

いかがだろうか。

昨日の『春の小川』は、各行とも3・4・4・3音で意味の区切りがついていた。

今日の『朧月夜』は、各行とも4・4・3・3音で構成されていることに気づいただろうか。

また、歌詞の内容に着目すると、与謝蕪村の俳句に出てくる「菜の花」「月」「日」が、高野辰之の作詞にも入っている。

高野辰之は、『春の小川』で「においめでたく」という言葉を入れたが、この『朧月夜』においても「におい淡し」というのを入れている。

目で見て、耳で聞いて(=『春の小川』では川の流れる音、『朧月夜』では春風が吹く音)、鼻でにおいを感じることで、いずれの歌でも自然愛を語っている。

さて、この歌詞をもとに、岡野貞一がどのように作曲したのかを見ると、『春の小川』とは対照的に、四分音符ではなく八分音符が多用されている。

そして、曲のリズムは4分の3拍子であり、ニ長調となっている。

タタタータ/タタタタタン
タンタータ/タタターア

上記のリズムが4回繰り返されているのだが、「タ」を0.5、「タン」を1、「ター」を1.5、「ターア」を2で計算すると、3拍子のリズムが計16回続くことが分かるだろう。

ちなみに、この『朧月夜』の楽譜に休符はまったくないので、歌詞の節目節目で軽くブレスを入れ(=息つぎ)ながら歌うことになる。

高野辰之は、今の長野県中野市の出身だったのだが、最後に亡くなったのも同じ長野県の野沢温泉村であった。

中野市には高野辰之記念館があり、野沢温泉村には、この『朧月夜』の歌にちなんで「おぼろ月夜の館」がある。

機会があれば訪れてみると良いだろう。

明日以降、他の作詞家や作曲家の唱歌も、順次取り上げながら解説していきたい。

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