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臨床心理士がコーチングについて考えてみた

「コーチングって意識高い系がやっている、と思っている臨床心理士・なた。」

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「コーチングってなんか胡散臭いんじゃない?と思っている臨床心理士・なた。」

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「コーチングって高くない?って思っている臨床心理士・なた。」

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どうも臨床心理士のなた。です。
現在放送中のドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」風の語りで始めてみました。

本日のテーマは「コーチング」です。

コーチングのイメージ

みなさんは、コーチングというとどんなイメージを持ちますか?

冒頭にあげたような印象を耳にすることもありますが、普段カウンセリングなどをしている私としては、そもそもカウンセリングもコーチングも名前は違うけれど、「今を変え、なりたい姿を考え、そこに向かっていく」という意味では、同じようなものではないだろうかという印象を持っていました。

独学でコーチングを学んだりして、コーチングを引き受けることはあったのですが、体系立てて勉強をしたいと思い、国際資格取得に向けて学び始めたので、自分の備忘録も兼ねて書いてみよう思った次第です。

なので、コーチングはこんなものだ!というよりは、コーチングとカウンセリングを提供者目線で、ぶつぶつ考えていくnoteになってます。

ちなみに、どちらが優れているとか、そういう話をしたい気持ちはなく、それぞれの特徴を整理したい、という観点です。

スタート地点がプラスかマイナスか?

よくあるカウンセリングとコーチングの違いのイメージといえば、こんな感じでしょうか。

コーチング:プラスの状態から、さらにプラスに向かう
カウンセリング:マイナスの状態から、プラスに向かう

仕事を例にするのであれば、

働いている人がもっとパフォーマンスを良くするのがコーチング、うつなどの精神疾患が理由で働けていない状況や働いているけどしんどい状況にいる人が受けに来るのがカウンセリング、みたいな。

目標達成や自己実現を目指すのがコーチング、精神的不調から回復するのがカウンセリング。こんな言い換えもできますかね。

これについては、一理あるとは思うんですけど、それが両者の決定的な差なのかといわれたら、、、そうとも言い切れない、、が、私の疑問の出発です。

実際、私が「カウンセリング」でお会いするクライエントの中には、目標に向かってパフォーマンスを上げたいという想いでカウンセリングを受けられる方もいます。

私がコーチングを習ったテキストには「カウンセリングは一般的に精神心理的な悩みを抱えた人を対象とした相談援助であり、気持ちを整理することを「重視したアプローチを取ります。一方、コーチングは、精神心理的に健全な人の目標達成や能力発揮を支援し、将来どうありたいかを重視したアプローチを取ります」と記載されていました。なるほど。

ここで大事なのは、気持ちを整理することを重視したアプローチであるという点だと私は思いました。カウンセリングとコーチングで重複するところはあるけどセッションの中で重きをどこにおくかという点が、カウンセリングとコーチング等で違うところにあるというのは、やや腑に落ちる感じがあります。

また、カウンセリングの中で自己実現や今後のキャリアが話題になることも珍しくはありませんが、カウンセリングについては「病んでるわけじゃない」「自分はそんなの必要としていない」と考える人でも、自己実現やパフォーマンスアップを目指して、コーチング(未来の自分への投資)にはお金を払うこともあります。

その意味では、対象とする時間軸現在にあるのがカウンセリングで、未来に焦点を置いて話しているのがコーチングとでもいえましょうか。

コーチングとカウンセリングの時間軸

「この壺を買うと幸せになれる」など、現在の課題を直接どうにかすることよりも「ここに投資すれば未来が明るくなる」というところにお金を出すのは古くは免罪符などもあるわけですし、未来の投資的な側面があるのは、コーチングの特徴なのかな、とも感じます。投資だからこそ価格が高い・・・?

では、カウンセリングは未来に焦点を当てないのか、、そうでもないですよね。

ここがどう違うかというと、完全な私の所感ですが、こんなふうに考えてみました。

カウンセリングは、まずは相談したい悩みを聴くところから開始していって、その悩みをどうしていくかについて話を展開させていくような流れがある。その一方で、コーチングは自分がなりたい姿をまずは思い浮かべることから始まっていく。五感やイマジネーション、視野や考え方をフルに活用し拡げていき、未来のなりたい姿をじっくりと想像する、そして、その未来に対しての現状を把握し、できることを検討していく。そんな流れ。

しかし、カウンセリングでも、まずはどうなりたいかからはじまることもあれば、コーチングで現在の状況を尋ねる時もある。

ふむ。じゃあ、時間軸の違いとも言い切れない。

「まずはどうなりたいか」「現在の状況を尋ねる」と書きましたが、クライエントへの問いかけ(コーチングはクライアントということが多いと言われたが、カウンセリングではクライエントが多い、これも違いか?)についても、違いがあるのではないかと思いました。

コーチングとカウンセリングの問いかけのタテとヨコ

コーチングはとにかく「問いかける

そして、問いかけて出てきたことについて、自分の専門性からのアドバイスなどは基本的にしないことが多いようです(それはコンサルテーションになってしまうのでしょう。とはいえ、なんちゃってコーチングをしている人には的外れなアドバイスのシャワーをしている人もいることはネガティブな方の感想で耳にします)

そして、クライアントの代わりに何か問題を解決するわけでもなく、あくまでクライアント本人がどうしていきたいか、どうなりたいかを問いかけ続けます。

また「あなたはどうなりたいか」について、クライアントがAと答えると、コーチは「他には?」「なるほど、Bですか。他には?」「もし制限を外して考えるとしたら、他にはどうですか?」など、とにかく視野を広げるような水平方向の質問を問いかけていく。深めるよりも、他の選択肢を考える方に向かわせる。

問われると確かに、最初に考えていた時には、思ってもいなかった内容が頭に浮かぶことがあります。「制限をなくしたらどうか」などは、ミラクルクエスチョン的でもあり、想像力の制限を外すことで、より考えが拡がりを見せますね。

カウンセリングの中でも、他の選択肢を尋ねることはもちろんありますが、Aと言われたら他の選択肢を尋ねるよりも、そのAについてをもっと鮮明なイメージで共有できるように、具体的にはどういうことかなど、そのもの自体を深めていくような垂直方向の問いかけをしていくような気がします。

また、コーチング的な問いかけは、率直に言えば「自分はAだと言っているのに、いつまで他の選択肢を問われるの?」と苛立ちのような負担のようなものを与えられているような気持ちを覚えることが、私自身ありました。

この苛立ちは、せっかくAをあげたのに、そこについてもっと聞いてくれないんかい!みたいなものにも近いのかな。もしくは「そんなんじゃ足りてないよ、もっとだしなYO」みたいに感じるのかな(当社比

まして、枕詞を置くわけでもなく、自分が答えた内容について、答えた直後に受け止めるような言葉もなく「他は?」と問われるのです。

め ん ど く さ い(あくまで当社比)

これは僕の基本性格に大きく関わる感想でもあります。

朝活するよりも5分でも寝たいし、好きあらば横になりたいものぐさ。

しかし、枕詞なく直球で投げられたからこそ、頭の回転も起こるし、何かがその言葉を刺激として浮かんでくる。そして、苛立ちと書いたけど、それが想像が広がるようなところもあるんですよね。

それが実際、相手が受け止めやすいように説明を並べてのというかけでは、勢いがなくなって気づきを得られにくい可能性はあるのかもしれない。

したがって、このコーチングのめんどくさい負担感の奥に、これまでに見えなかった気づきがあることは理解ができます。

コーチングは修行なのかもしれない

だからこそ、コーチングの問いかけにはある種の負担感が伴うものであるというような感覚は、あるような気がします。

ドラゴンボールで亀の甲羅を背負うみたいな絵図が思い浮かびます。

とはいえ、カウンセリングに関しても、意図的に直球な問いかけを投げることもあれば、受容的な枕詞を用いつつ問いかけを行うこともあります。

そこについては、相手の様子を見つつ、負担を軽減した形で相手に質問を手渡すこともあると思うので、その意味では、どのくらいの負担感を伴った問いかけが今は適切か、をアセスメントの上で行うというのは、カウンセリング的かもしれない。

しかし、ここまで読んでいて多くの方が思ったのではないかと思うのですが、コーチングがいつも直球かといえば、受け止めた上で問いかけをすることもあるし、カウンセリングでも直球の球をあえて投げることもあるわけです。

絶対的にコーチングがこうで、カウンセリングがこう、ということを言えるわforではないけど、問いかけの仕方については、こんなふうに考えられるのかもしれない。

コーチング:水平の問いかけ、直球
カウンセリング:垂直の問いかけ、クッション

これをベースにした匙加減があるので、カウンセラーの立場では、コーチング的、カウンセリング的、というところは感覚としては、表現ができるのかもしれない。

・・でも、まだいまいち歯切れが良くない。

結局、コーチングとカウンセリングの決定的な違いを述べるには、やや弱いような印象もあるんですよね。

じゃあ、結局コーチングとカウンセリングの違いはなんなのだ

コーチングは「場の設定」である

べとりんさんがこんな記事を書いていましたが、現時点では、僕はこの論がしっくりきています。

以下引用

まず、クライアントにとって、コーチングという場は目的達成や自己実現のための場である。

だから、コーチングという場は、クライアントの中には、何らかの達成したい目標や形にしたい想いがあるはずだという前提を持っている。あなたが、「私にコーチングをして欲しい」と言ってコーチングの場に足を踏み入れた時、あなたは、"何か達成したいことがある人"として扱われる。

そして、コーチは、あなたの"何かを達成したい気持ち"をサポートする役割を負う。コーチングは基本的には"問いかける"だけで、あなたの代わりに何かの問題を解決したりはしない。「あなたには"何かを達成したい気持ち"があるはずだ」「あなたの中には、より良い未来を想像する力と、その未来を実現せんとする意志と、その意志を形にできる行動力が(今は気づいていなくても)あるはずだ」という信念が、コーチングという場を支えている。

この"場の規定"の違いこそが、カウンセリングとコーチングを分ける最大の要因だと思うのだ。

これに尽きるのではないでしょうか。

クライエント/クライアントとその場での営みをなんと呼ぶか、これがその場をコーチングとするのか、カウンセリングとするのかを定義していく。

コーチングとカウンセリング

私が習った講座の中で、コーチングは、問題解決、目標に向かう、などプラスにしていくもので、自分と向き合う負荷をかけていくもので、自分と社会とのつながりの中で達成していくもの、一方、カウンセリングは、病気の治療など、マイナスをプラスに向けていく、負荷を取り除くことで、個人の内面をよくしていくこと、みたいな説明がありました。

個人的には、どちらもカウンセリングの範疇じゃないかなと思うところもあり、いまいちしっくりこない感じがあるのですが、それは私が普段関わる領域が、学校領域や産業領域(働く人と組織)なので、健康度が高いとされる方も少なくないことや、自分のメンテナンスやパフォーマンスの向上、キャリアカウンセリングなども入ってくるので、余計にそう思うのかもしれません。

コーチングもカウンセリングも心理学に包括される

そして、コーチングにもカウンセリングにも心理学(行動学とかも)が背景としてあるので、共通項が多いんですよね。

聴く、受容、共感、オープンクエスチョン・クローズドクエスチョン、チャンクダウン、ジョハリの窓など、学んでいているものの多くは「心理学」なので、どちらでも共通して出てくる用語はあるのだと思います。

つまるところ、コーチングもカウンセリングも心理学が内包しているような気がするんですよね。

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コーチング的な関わりは、カウンセリングの中ですることもあるし、カウンセリング的な関わりをコーチングの中ですることもある。

(受容と共感、過去を扱うなどは共通しますが、精神疾患に関する内容はカウンセリング寄りの話のように思います)

だからこそ何がコーチングたり得るのかというと、場の設定をどうお互いが認識して始めていくかというところになるのかなとうところでした。

コーチングとカウンセリングの感覚の差

場の設定をすることで、コーチングとカウンセリングが分けられますが、提供する側の感覚は果たしてどうなのだろう。

完全に自分の中の感覚の違いなのですが、自分が実際に対応するときに違いと感じるのは、コーチングは「問いかける」ことで常に動きがある感じで、カウンセリングの時は問いかけもしますが、留まりながら聴くみたいなところが自分の中でスイッチの切り替えになっているような感じがあります。

そして、コーチングの時は、カウンセリングの時ほどの包括的なアセスメントをあえて手放して、相手が今どういう状態であるかはさておき、相手が叶えたい目標をピン留めして、そこに突き進んでいける状態に仕上げていくサポート、みたいなところがあるのかなと思っています。

次に、感情の取り扱いです。コーチングの問いかけでは、今の自分の感情を問うというよりは「目標を達成した時の自分」がどう感じるか、「目標をかなえた日々を送っている自分が着ている服装を思い浮かべた時にどう感じるか」など、あくまで「目標を叶える」ことが軸にあるような気がします。

現在の自分の感情よりも意図的に未来の自分に目を向けさせるところにコーチングの特徴があるような気がします。

そして、カウンセリングが特化しているのは、精神疾患、発達障害、など知識や経験によるアセスメントというのはあるのかもしれません。

臨床心理士の業務の一つにアセスメントが入っているのは伊達じゃない。

僕は専門家としての強みはアセスメントにあると考えているので、その辺りの影響もあるかもしれませんが。

re:コーチングとカウンセリング

そんなわけで、長々と書いてきましたが、場の設定、対話のスピード感、焦点をおく時間軸、精神疾患等の取り扱い(対象者の病態水準)、感情の時制などが差異になるのかなというのがぼんやりした感覚の違いと今回はまとめてみました。

そして、コーチングとカウンセリングの線引きに戸惑うのは、心理学が両方を内包しているからなのかなとも思う今日この頃。

そして、ある人はコーチングとカウンセリングは現代でスプリットしてると話をしていました。

キラキラとドロドロ、未来と過去(だけじゃないけど)、目標設定と今の片付け、思考と感情。

そして、カウンセリングはそのままをまず受け止め、そして掘る。コーチングは一旦全部広げてみる、そこから選んでいき、ドリルで掘る、みたいな。

コーチング

コーチングは立ち止まらずに、解決に目を向けることをサポートしていく場

ICF JAPANのページを見るとコーチングとは以下のように記載されています。

コーチングとは、思考を刺激し続ける創造的なプロセスを通して、クライアントが自身の可能性を公私において最大化させるように、コーチとクライアントのパートナー関係を築くことです。
対話を重ね、クライアントに柔軟な思考と行動を促し、ゴールに向けて支援するコーチとクライアントとのパートナーシップを意味します。

大事な点は、「対話による思考の刺激」「柔軟な思考と行動により可能性を最大化する」「パートナー関係」ここにあるように思います。

また、伊藤守氏の「コーチングマネジメント」には、頭でわかっていることと行動の間に横たわる深い溝-この溝を双方向のコミュニケーションによって埋めていく試みが、コーチング」です、と書かれています。

頭でわかっているけど行動にうつれないんですよね、という話は決して珍し話ではないし、このあたりの相性はコーチングは良いのかもしれないですね。

一方でカウンセリングについては、以下のように記載があります(あえてのwikipedia)

カウンセリング(英: counseling)とは、依頼者の抱える問題・悩みなどに対し、専門的な知識や技術を用いて行われる相談援助のことである

その意味では、カウンセリングとコーチングはやはり重複するところはあるわけですが、ここまで述べてきたような「コーチングの様式」に則って場を設定し、提供する側も、クライアントが今の自分の思考に囚われない「柔軟な思考」の中でなりたい姿を思い描けるように、信頼関係の中で対話を重ねていく、というところが重要な点のように思います。

他の選択肢を絞り出したり、いかに具体化させていくかを問い続けていく。そして、その作業はなかなかタフな時間でもあるので、そういう意味で負荷もかかるもの。

あるコーチの方が、うつや精神疾患があると、そもそもその人の馬力を働かせるのが難しいので、断る場合もあるとのことでした。

その意味では、臨床心理を学んだ人間がコーチをするというところは、そこを広く対応ができるというところでは特徴あるコーチを提供することもできるのでしょうか。

逆を言えば、不用意に「蓋を開けない」「閉じ方を知らない蓋に触れない」ことができる人は重要なのかもしれないとも思うのですよね。そこに認識ができることをアセスメントと呼ぶのかなと思うのですが、結構「不用意に蓋を開けてしまった人」がカウンセリングに来ることもあるかなと思うのが長年気になっているところでもあります。

個人的には、自分自身が熱量の低いタイプなので、このスピード感がしんどかったり、あまりそこに乗せられるのに抵抗も出やすいタイプだと思うので、もうちょっと省エネモードなコーチングを提供できるようにしていくのも個人的には面白いのかなと思います。

とは言え、あくまで自分の場合は臨床心理学のベースの中で仕事をしているので、その枠組みの中で、コーチングモードを提供できるというところがしっくりきそうな気がしています。

おまけ

そして、目標を叶えた時のあなたはなんて声をかけてくれそうですか、とか、そう言われたらどんな感情ですか、とか、その目標がかなったときには、どんな色ですかとか、どんな匂いがします、とか、とにかくイメージを沸き立たせられる気がします。そういう意味では、ある意味でイメージ療法的な要素もあるのかな。

余談(資格を目指す人、枠組みの設定)

コーチングと産業カウンセラーとキャリアコンサルタントを途中から目指す人には、どこか親和性があるような気がしたりもしています。

社会人経験を経て、人の成長に興味がある、働く人の支援に興味がある、仕事を通したライフキャリアの支援に興味がある、など。この辺りは色々な人に話を聞いてみたいなんてことも思ったりしています。共通因子はなんだろう。

そして、これは色々なコーチに聞いてみたいのですが、治療構造の枠組みが、コーチングは結構「日常的」、カウンセリングは「非日常的」な気がしています。

コーチングについて、お話をします(6/2 20:00-)

長々と文章を書いてきましたが、こんなふうに頭の中の整理をした上で、先述のべとりんさん達とコーチングについて話す会を6月2日(水)20時から行います(宣伝のための長い前置きか)

ご視聴はこちらから

よかったら、ご視聴お願いいたします。

そして、私もまだまだ学習中なので、ご意見などいただけましたら嬉しいです。


※この記事はまだまだコーチング勉強中の身で書いておりますので今後まだまだ変わっていく可能性もあり、不勉強な箇所もあると思いますが、優しい目で見守っていただけたらありがたいです。

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