美しくしくじる
この言葉は、光野桃さんの著書のなかで、音楽家シューマンの人生を評した言葉だ。
私個人として、美しいしくじりと言って思い出すのは、ひとりの料理人だ。
家の近所に、イタリア料理の店があった。個人経営で、店主以外には学生のバイトしかいない。
料理は滅法上手く、オシャレ。しかし、量が多く高い。
家族で行く都度、父は、
あそこは料理上手い。でも商売下手だ。
と言っていた。
ある日、突然閉店し、不要となった皿などが
ご自由にお使いください
と外に出されていた。
一年後、風の便りに、店主がひっそりと亡くなったことを知った。
とても美味しい料理、しかし商売は下手で、店を手放し、早世したあの不器用な人。
美しくしくじった、あのひとの料理は、どんな高級な食事より、私の心に残っている。
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