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【映画考察】One Day(ワンデイ・23年のラブストーリー)を深読みしてみる

まずは基本情報から
デイビッド・ニコルズの小説を映画化したもの。映画の脚本も同じ人。
主演はエマ役のアン・ハサウェイとデクスター役のジム・スタージェス。
エディンバラとロンドンとパリが舞台で2011年公開の映画。

真面目で社会問題とかにも関心がある作家志望のエマと、お金持ちでイケメンでそんなに頭は良くなくて苦労を知らなさそうなデクスターが、1988年7月15日大学の卒業式の帰り際にお互いを知ることになる。最初こそぎこちないんだけど、なんとなく気が合うなって思って、お友達でいましょうといって別れてから23年間、ずっとふたりの7月15日だけを切り取ったストーリー。


お互い気になっているのにすれ違うのがもどかしいんだけど、すごくすごく美しくて切なくて、私はここ4-5年くらい毎年7月15日に必ず見ている気がする。

で、なんでこんなにこの映画が好きなのか?って考えてたときに、「好き」とか「こだわり」とかいう感情も、執着なのかもしれないと思った。私はこの映画に執着している、あるいは、執着しているものとこの映画を結びつけている。


ポジティブな執着
たとえば、私はLove Psychedelicoというバンドが好きなんだけど、それは中学生の時に「僕らの音楽」というフジテレビ系の番組で初めて見た時の衝撃が忘れられないからで、あの時のビビビビビ!を手放せないでいる。

あとは、私がミニシネマが好きなのもそう。きっかけは就活の時に履歴書で趣味の欄に書くことないけど、映画鑑賞じゃちょっとな、ってことで「名画座巡り」って書きたいがために行ってみた飯田橋ギンレイホール。しょうもない動機だったけど、そこで見た映画がすごくドストライクだったのと、なんか特別感を味わえたのがよかった。自分だけしか知らないカルチャー的な。


ネガティブな執着
学生の時に意識高い系のサークルに入って、馴染めなかったことは、仕事を探す時の軸になってるから、あの時の失敗にも執着してる。さらに言うと、その中で活躍してた系の人たちは今でも苦手。もはやトラウマに近いかな。(仕事できます!的な部類で、何を喋っててもドヤで眉間ががくいっとなって眉毛が八の字になって早口の人。つたわれ!さらに言うなら、英語を喋る時はうっすら白目。特定の人物を指しているわけではなくて、結構いるから。)留学から帰ってまたロンドンに行きたいとずっと思ってたのも執着。きっかけはネガティブな要因だけど、結果的に行動に結びついてるなら、まあいいのではないかとも思っている。


この映画の私の執着ポイントは、紛れもなく舞台がロンドンであるということ、7月15日は私の誕生日7月19日にも近いということ、でもそれよりも「ある1日」を特別視していて、それは以前までの私の”324の儀式”にも似ていたこと。(あとは、男性の主人公デクスターが、イギリス時代のインターン先のボス、大好きなトニーにちょっと似てたこと。)


またしても関係ない話なのだけど、この映画を深掘りしたのは、もう6年くらい前に大学の授業で、英語で映画のレビューを書くという課題があったから。他の人たちの考察やレビューを読んだけど、そもそもあまりメジャーな映画ではないからか、あまり参考になるものはなかった。(というか多分私の考察はだいぶフィルターかかっている)でも、共感できるポイントは、「エマ役のアン・ハサウェイがどんどん綺麗になっていく」(反対にデクスターはどんどん勢いを失っていく)ということ。アン・ハサウェイは、『プリティ・プリンセス』とか『プラダを着た悪魔』でも、真面目で地味な女の子が、あるきっかけで自信に満ちて綺麗になっていく系の役があったし、こういうのが本当に似合うと思う(素材がいいからね)高校生の時にプリティ・プリンセスを見て、「絶対娘が生まれたらミアちゃんて名前にする!」と思ってたのに、周りで2人ミアちゃんが爆誕したし(そんなことある?)、こちらサイドでもミア細胞が見当たらないので、一旦それは実家の神棚にあげてきた。


完全に自分のための考察メモなんだけど、あらすじとかじゃないから映画を見てない人にはよくわからないと思う。あと、専用のソフトを持っていないので、PC画面をキャプチャーできないので、かなり画質が悪いです。先に言っておきます。


St.Swithin's Day


7月15日はイギリスではSt.Swithin’s dayと呼ばれているらしい。でも、多分そんなに有名な日ではない。ここから急に妄想ポイントに入るんだけど、私はこれがこの映画の重要なポイントだと思っている。
映画ではデクスターが序盤に「今日はSt. Swithin's Dayだね」と言う。エマが「何それ?」って言うと、デクスターはうろ覚えで「この日には言い伝えががあって、St. Swithin's Dayに雨が降ったら、なんとかかんとかが〜〜続く。ってやつ」と答える。デクスターがこの詩を知っているのは、おぼっちゃまの通う学校に行っていたからで、St. Swithin'sはその近くに葬られているらしい。エマは、おそらく知らないふりをしていたけど、多分教養として知っていたのだと思う。本でも映画でも、きちんと説明されていないけど、本家の詩はこちら。

St. Swithin's day, if thou dost rain, (聖スウィジンズデーに雨が降ったら)
For forty days it remain,(40日雨が続く)
St. Swithin's day, if thou be fair,(聖スウィジンズデーが晴れていたら)
For forty days 'twill rain na mair.(40日間雨は降らない)

日本語に訳すると、は?って感じだけど、昔は7月15日の天気によって、その後40日の天気を占っていて、つまりはその年の収穫量を左右する重要な日だったみたい。

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だから天気が重要

これも私の妄想。映画では特に説明もないから、本も読んでみてるんだけど(現在進行形、購入は2020年7月。)「xxxx年、本日晴天なり」みたいな説明はないから、本当に作者が意図しているのかはわからない。でも、天気に注目して見てみると、ふたりで共に時間を過ごせる+晴れの日はいい思い出で、お互いに辛い時期は、別々に過ごしているし雨が降っている。晴れ→happy、雨→sad、というと、ちょっと安直な構造にも思えるけど、それはその後1年間を左右する7月15日という特別な日だから、キーになっているように思う。唐突に雨が降り出すシーンも結構あるから、意図されている気もする。

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フランスへのホリデーは晴れていて、ふたりにとっていい気分転換だったし。

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お母さんの具合が良くなくて、実家に行ったデクスター。この日は終始雨。

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この年もふたりは会えない。

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その頃エマは、メキシコ料理屋で働いていた時の同僚で自称コメディアンのイアン(いい感じにいけてない)と、教員になるための学校を卒業したお祝いをしていた。帰りに急に雨が降る。

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友人の結婚式にて再開。ここ数年距離を取っていたけど、やっとお互い人生が落ち着いて仲直り?というか、向き合えるようになる。デクスターはシルヴィとの結婚式にエマを招待する。夜だからわかりにくいけど、雨は降っていない。ぼやけてるけど、ロンドンアイとビッグベンと、セントポール大聖堂が優しくライトアップされている。毎回きゅんポイント。

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エマが事故に遭うちょっと前。これはShoreditch Highstreet駅の近く(関係ない情報を失礼)この日、朝は降っていなかったのに、帰りは雨で地面が濡れている。

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エマのボイスメッセージを聞いているデクスター。「晴れ+エマ」が必要条件だと仮定して、この場面では雨が降っているし、エマの声を聞いているけど、おそらくエマはすでにこの世にいない。

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エマの死後、絶望的な1年間を過ごしていたデクスター。実家のテレビでは、大雨のニュースが流れてる(これは偶然ではないと思う)あまり父親とは親しくないんだけど、お互い目線を合わせない会話の中で「エマが生きていると思って過ごしてみたら?実際自分はそうやってお母さんが今も生きていると思って10年間暮らしている。」とアドバイスをもらう。映画の話全体の中では1%くらいの出来事だけど、とても印象的。

で、この父親の言葉がきっかけで、それまで物理的に「エマがいるかいないか」が重要だった7月15日が、その呪縛というか執着から逸脱できるようになったのだと思う。


宇宙の真理とSense of Humor

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このタトゥーもなんかふたりを表してるみたい。「そんなタトゥーあったの?」とエマが聞くと、「これは陰陽のマークなんだ」とデクスターが答える。正反対のもの同士が補い合うことで、ひとつの完全体になるというのが陰陽の考え。エマは教養はあるんだけど、25.6くらいで初めて外国(しかも隣国フランス)に行ったこともあり、そういうオリエンタルなことには興味がなさそう。一方のデクスターは、大学卒業直後、仕事に就かず世界各地を回っていたっぽいので、そういうところも正反対。エマは「道路標識みたい。」「靴下を履きなさい、の標識ね」といっていたけど、このふたりはちょいちょいジョークを言い合って、そのユーモアセンスがお互いに合っていた様子。(後にエマが一緒に暮らす自称コメディアンのイアンのことは全然面白くないと言っていたし、デクスターが結婚するシルヴィも、「シワができるから笑わない」らしく、話が合わない点においてパートナーへの物足りなさを感じてた)


靴が気になるのとドクターマーチンからの卒業

小説が映画化される時、多くの場合「小説の方がよかった」という感想をもたれる。普通に考えて、2時間に全てを詰め込むのは難しいよね。でも、私はいつも映画から入って小説を読んで補填する、というスタイルなので全く問題ない。プラス、映画だとどんな服を着ているとかも物語のヒントになっている気がしてるから好き。

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さて、すごい画像が悪くてわかりづらいのだけど、ふたりが最初に出会った卒業式の日、エマはドクターマーチンのようなブーツを履いている。7月にブーツ?と思うけど、それはイギリスではたまに見かけるからいいとして、季節的なことではなくてTPO的にちょっと不自然じゃない?
たぶんだけど、ドクターマーチンはもともと労働者のための靴だったから履いているのかも。それはエマの意思かもしれないし、金持ちの息子のデクスターとの対比のためかもしれない。(考え過ぎかもしれない)

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卒業から4年経った、フランス旅行でも同じものを履いていたし(画質が...)

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イアンと映画を見に行った時も同じブーツ。(この映画館はたぶんRIO CINEMAというところ。コロナで行けなかったのが本当に心残り。)

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でも、教師になったエマは、マニッシュな感じではあるものの、マーチンではないものを履いている。ちょっと変化が見られる。

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いい感じに脚が写らなかったのだけど、数年後久しぶりにふたりでディナーにいくんだけど、その時にデクスターが靴を褒めるの。そしたら、私にしては珍しいでしょ?的な感じで「世界で最初の矯正用ハイヒールなの」と言う。
たぶんエマは、ずっと作家志望だったけどうまくいかないこととか、自分の希望や思想と折り合いをつけながらも、社会で生きていくために大人になっていて、それが靴の変化にも表れている気がする。

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特別なオケージョンではあったけど、最終的には、パリの石畳をハイヒールで歩くようにまでなっている!(実際にはそんな人は滅多にいない)(それとこのドレス最高に似合ってて可愛い)

一方のデクスターはというと

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卒業式の次の日にふたりで丘を登るんだけど、エマに「登るの遅過ぎない?」と笑われたデクスターは「靴のせいだ」と言っている。(エマはマーチンなのでぐんぐん登れる)Brogues(さっき知ったけど、スコットランドとかで履かれる紳士用の靴)を履いているらしい。

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フランス旅行中、プールで裸で遊んでたら服を全部盗まれたんだけど、その時も「スニーカーなんて生涯で履いたことない」と言っている。」ちょいちょいおぼっちゃまを出してくる。

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それからしばらく経って、シルヴィと離婚して精神的にボロボロになったデクスター。服からもそれまでの小ぎれいなものではないことがわかるし、スニーカーではないけどピカピカの革靴でもないものを履いている。
妄想の暴走かもしれないけど、靴もふたりの人生を物語っている気がして、勝手に注目していた。(そしてすぐに映画に影響されるので、私もそろそろマーチン卒業しようかなと思ったり)


鏡越しのベッドの意味?

これは次回以降この映画を見るときの課題。
一般的に映画における「鏡」がもたらす意味がわからないので、なんでこんなに多く使われているのか謎解きできていない。誰か知らないかな。。最後の最後にあれなんだけど、なぜかベッドのシーンは鏡越しなのが気になっている。

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卒業式の後のシーン。すごくわかりづらいけど、字幕が写っている白いラインは窓枠。なぜか窓越し。

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フランス旅行中。どちらも鏡越し。ちなみに、エマが着ているグレーのTシャツは、卒業式の夜も着ていて「核兵器反対!」と書かれている。

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これ。

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のちにふたりは結婚するんだけど、椅子で抱き合う時も鏡越し。


なのに!最後の方で「そろそろ子どもが欲しいな」ってふたりで話してるんだけど、その時だけなぜか鏡の前なの。なんで???

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なんで??

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あと、この回想シーン。妙な合成感も気になる。それは10年前の技術だからなのか?にしても、唐突にここだけ合成っぽい。なんで?


何度も繰り返して見てるのに、どうしてもわからないことがあるし、見ているこちら側の時間の経過とともに共感ポイントが変わってくるのも面白い。考察とも呼べないこの暴走妄想は、大学のレポートみたいな文量になっちゃったんだけど、この大好きな映画の淡い水色の世界観と、それと勝手に自分がリンクさせている色々をまだ手放せずにいるみたい。


最後の最後に。印象的なシーン。

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"I like you, but I don't love you"(人としては好きだけど...)なら聞いたことあるけど。はじめて聞いた時衝撃的だった。もっと根底レベルで共感しているから出てくる言葉だと思う。


そして最後にやっと有益な情報。
エディンバラは本当に小さくて、そんなに商業的でもなくて古き良きイギリスがちゃんと残っていて素敵な街だから、この丘から街全体を一望できる。
エマとデクスターが登る丘は、Aurthur's Seatってところなんだけど、もし行ってみたい人がいたら、絶対夏がおすすめ。というか夏にしかいけない。

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なぜなら。

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2016年2月。残念。


おわり

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