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旅の詩集『Voyage』

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2022年3月の記事一覧

今を生きることを決めたのさ

今を生きることを決めたのさ

映画「ドライブ・マイ・カー」を見て2週間が経ってしまった。少しずつ感想を書けたらと思っていたがなかなかまとまらないので、印象深かったところだけでも覚え書きしておこうと思う。

事前にあらすじは大方調べていたので、刺さりまくって帰りは瀕死かもと思って敬遠していたが、大きなスクリーンで西島秀俊さんを見たいというのも相まって最終上映1週間前にやっと見に行った次第。

今も目に焼き付いているのは広島の海の

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暖かな日差しと温かな手

暖かな日差しと温かな手

ようやくわが町にも春の兆し。お彼岸の頃が来ると毎年ホッとする。みるみる雪が積もる恐ろしい景色と雪かきにへこたれつつ、今年もなんとか乗り切った。

わたしが暮らす北陸は「弁当忘れても傘忘れるな」という言葉があるくらいお天気が変わりやすく、雨が多い地域である。冬は特に日照時間が少なく、移住者の中にはうつ病を発症する方がいらっしゃるほどだ。日光を積極的に浴びてセロトニンの分泌を促すといいそうだけど、それ

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あの箱を手放せないわけ

あの箱を手放せないわけ

押入れの奥にひっそり眠る白い箱がある。中には海外みやげのハート型の貝のオーナメントが5つ。ずっと前にいただいたものだ。

某サイトで意気投合してメッセージの交換をしていた方がいた。いわゆるネト彼ってやつだ。彼は同い年で隣県に住む大学生。やり取りは楽しく、多分、彼が好きだった。実体のないふんわりした好意はぎゅっと握れば潰れてしまうような儚さがあり、それがまた美しく思えた。

クリスマス、お互いに予定

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バースデーブルー

バースデーブルー

誕生月の2月が過ぎ、無事に3月を迎えられてホッとしている。2月早よ終われ、と思って過ごしていたらほんとにあっという間だった。

近頃、誕生日が近づくとブルーでしょうがない。新しい友人にはほぼ明かしていないので、連絡が来るのは身内くらい。極力大人しくして何とかその日をやり過ごす。

調べてみたら誕生日前に憂鬱になる人は結構いるみたいだ。理由は「特別な日にしたくない」「誰も祝ってくれない」「昔のトラウ

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新しい船出へ

新しい船出へ

前回の出来事から2年が経ち、覚悟と決意の初夏、わたしはバッサリと髪を切ったのだった。

「どうして切ったの?」には自虐を込めて「失恋したから」と答えていた。みんな笑ってくれたのは呪縛が解けたわたしに安心してくれたからだと思う。

ほんとは何年もずっと切りたかった。ショートヘアは自分には自由の象徴であった。

初めて行く美容室を選んだ。お店の名前は『かもめ』。当時はまだInstagramにマネキンを

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悲しくない、それでいい

悲しくない、それでいい

梅雨のある日、一緒に暮らしていた人が突然帰って来なくなった。朝「行ってきます」と仕事に出てそれっきり。正確には、冷たくなって帰ってきた。事故だった。

なのに全然悲しくない。
しばらくすれば実感が湧くものなのかと思ったけど、悲しくない。
今も。ずっと。

どこかにいる気がするからだろうか。しばらくはいつもの時間にドアが開いて「ただいま」と声が聞こえるような気がしていた。
「(葬儀などが)全部終わっ

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