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思うこと311

 映画ではそれこそ『犬神家の一族』(1976年版←多分)や『八つ墓村』(1977年版)を観ていたが、横溝正史の小説を読んだことはなかった。とはいえ、普段からあまり推理物を読みたいとも思わないタイプなので、別段欲していたわけではない。今回はたまたま行きつけの古本屋にある文庫本100円コーナーにめずらしく置いてあったのでいつも通り「100円だし!」と思って気軽に買った。
 タイトルは『悪魔の百唇譜』(角川文庫/1976年)。推理小説は、特に仁木悦子という女性作家の作品が大好きだが、その他江戸川乱歩はまあまあ、シャーロックホームズに至っては途中で断念(再開の兆しアリ)、…という自分でも好みがよく分からないジャンルなのだが、そんなに長くない話なのもあって、3日で読み終わった。
 ある意味「本物の金田一耕助」を拝むことができたので、これがご本家!みたいな感動はあったが、話はまあ、なんか「へーーーー」という感じであった。持ち主不明の車のトランクから死体が出てきたことから始まる事件で、痴情のもつれによる殺人かと思いきや、何十年も前から脈々と繋がってきた悪意の連鎖でした…的な。面白いっちゃあ面白いけど、どうも私は推理物を読む頭ではないのか、「ここに矛盾が!」とか「ここにヒントが!」みたいなのをあんまり考えずバーッと読んでしまうので、結局「へーーーそうなんだ」となって読了してしまう。まあ別にそれでもいいんだろうけども。読んでるんだし。

 ところでこの「百唇譜」というのは、いわば女性の唇を魚拓みたいに「唇紋」を取った冊子で、事件解決の重要アイテムなのだが、金田一先生や警察がそのアイテムを見ている中、文中でどうしても「?!」という部分があった。以下一部抜粋。

「唇紋の左側にA・K女の年齢とオルガンの特徴、およびその技巧がことこまかに書きしるされているが、」

オルガン…? ちなみにこの唇紋は、ある男が色んな女をひっかけ夜の行為後とかその辺りで採取したもので、となれば、当然どの女性もみんなオルガンを弾いているとかそういうことではないだろう。そうだ、これは隠語ではないだろうか!? 読み進めると、その「ことこまかに書きしるされた」部分が実際に少し描写される。

「〜のオルガンは精妙をきわめ、技巧は剽悍そのもので、」

なるほどね。そしてそれを見た皆さんの反応は?

「〜顔をあからめずにいられないほど露骨でえげつなかった。」

ほらやっぱりそうだ!!隠語だ!!!

 というわけでオルガンは隠語でした。すぐにグーグル先生に聞いてみると、「オルガン」は18世紀頃にフランスで女性器の隠語だったとか(革命家サン=ジュストの性描写満載発禁本『オルガン』というのもあるらしい)、
ギリシャ語のオーガズムの語源だとか、調べるとちらほら情報は出てくるのだが、いまいち定説がないようなので、とりあえず隠語だよね!!っていうことで無理矢理納得。
 それにしても謎の隠語でびっくりするのは三島由紀夫『午後の曳航』の
「彼の腹の深い毛をつんざいて誇らしげに聳え立つつややかな仏塔」以来です。ほんとこのイメージ、凄いけど、もはや怖い。なにその語彙。
 というわけ本編をよそに隠語のイメージだけが色濃く付いてしまった横溝正史。とても申し訳ないので、そのうち『砂の器』読んでみよう、と軽く決意。

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