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思うこと369

 その日は休日であったが、住んでいるマンションに漏水があったため緊急の工事をするという。まっ昼間から取り掛かるのだが、工事中に一時的に全室断水になるということで、お腹が弱い私は困っていた。
 何故なら好き勝手トイレに行けない可能性があるからだ。排水は問題ないので水を汲んでおけば流せるので、それでいいと言えばいいのだが、何か不安。私の腹痛は面倒で、家だろうか外だろうか、何か不安があると「痛くなりそう」から「なるぞ!」というもはや自己暗示のような感じでドドドっと調子が崩れるのである。だから家にいても安心してトイレに行けないのなら、いっそ外に出てトイレがある場所に滞在していた方が心の気休めになるのだ。
 何だか何が正解かよく分からない感じになってしまったが、ともかく人混みでない何処かへ…と悩んでいた折、ふと母からおすすめされた展覧会のことを思い出した。

「ピピロッティ・リスト:Your Eye Is My Island-あなたの眼はわたしの島-」だ!

 スイスの現代アーティストであるピピロッティ・リスト(1962年-)の大規模な回顧展だそうで、京都国立近代美術館では6月13日まで開催される。
チラシによれば、彼女の「身体、女性、自然、エコをテーマにした作品群」で、映像作品やインスタレーションなど、なんだか見た感じ極彩色でドギツそうな感じではあるが興味深い。

 というわけでいざ美術館へ。ちなみに外の入り口には何故かブリーフがたくさん干してある。美術館は大鳥居の真横にあるので、鳥居とたくさんのブリーフの共演で、何だか妙な気持ちにさせられる。入場料は1200円。これは後から思い返すとかなり良心的な気がした。

 ところで、事前に今回の展示を調べると、色鮮やかなプロジェクションマッピングまみれの部屋の写真がよく出てくるので、何処か頭の中に「これはいつもの感じか…?」(いつもの=チームラボ)などと双方に対して失礼な印象を持ってしまったわけだが、実際見にいってみると全然違った。(当たり前だ。)

 確かに鮮やかな投影は目を惹くし、薄暗い空間に映し出される森を彷徨うような映像は幻想的で夢の中みたいなのだが、どでかいスクリーンで上映されている短編映像の数々がとても良かった。なんか植物の茎みたいなのを模した棒(?)で車の窓を叩き割ってみたり、海のなかにレコードを落としてみたり、ふいに水中でたゆたう男性器(たぶん)が出てきたり、などなど。

 チラシにも載っている、ベッドに寝転がりながら(私は床に座ってました)天井に映された映像を見るやつは、それこそ水中で仰向けの視点で撮られているので、まるで自分が溺れているようでなんか怖いのだが、次々と水面を流れていくデカイ葉っぱの裏側についた空気の粒なんかをジーーっと見ていると、実に楽しい。そんな映像を、ベッドを譲り合いつつ、観客の人々が仰向けで無防備に鑑賞しているというのもまた面白い。

 今回の展示には18禁のスペースもあり、多分四つの作品が小さい画面で上映され続けているのだが、椅子も少ないしちょっと躊躇いつつではあるが、せっかくなので全部観ることにした。でも、今思うとこれを全部観て良かった!ピピロッティの持つ性や女性の感覚をこれでもか!とぶつけられる方が、その他の作品の見方にも手がかりが多くなる…、と思う。

 四つの作品は、男女のセックスを模したようなやつと、出産する女性の股(出産から会陰の縫合まで)、森で全裸の男があそこをブラブラさせて暴れ回っているやつ、生理きたぞ!!みたいなやつ。
(愚かにも出品リストをもらうのを忘れてきてしまったので、あくまで私の記憶のみですのであしからず。。)

 セックスのやつは、出会から愛撫、そしてオーガズムまで、「なるほどこれはセックスじゃあ!」と謎の口調でガッテンしたくなった。時々大自然のような映像が挟み込まれたり、そこにふわぁっとそそり立った陰茎だけ右の方に浮かび上がったりして、他の人はクスリともしてなかったけども、私みたいなのは思わず「フフフ…自然と肉体…」などとマスクの下でほくそ笑んでいましたよ。

 出産のやつは、なんかハイジでも出てきそうな山の風景が映りつつ、さらにワイプみたいな感じで小さい画面の中で出産が進行しているんだけども、最初は枠が小さいせいで一体何やってるのか分からなかった。が、何だか黒い丸いものを撫でくり撫でくりしている辺りで、「頭だ!!赤子の!!」と分かった。
 そんで赤子を白い布で包んでいるなあと思ったら会陰縫合をこれでもかと見せてくる。かなりのショッキング映像では…と思ってしまったが、ショッキングも何もこれが産むということであり、というかそれ以外の何者でもないわけであり、人間て動物って命って!、みたいな。そして一瞬でも「わあショッキング!」と思ってしまった自分を恥じた。

 森で全裸の男が暴れているやつは、普通になんか怖かった。森で襲われたらこういう気持ちなのだろうか、とさえ思った。ただ、いかに暴れていてもアソコがこんなにブラブラしているとなんかシリアスさにかけるな、という変な感情もチラついた。

 生理のやつは、とにかく「生理がきたぞ!!」と分かりやすく教えてくれている感じ。これもまた出産の時と同じで、多くの女性にとっては捨てられないものというか、問題まで言うと言い過ぎだろうけど、そもそも生理の延長線には出産や赤子の存在があるわけで、一体全体、女性の喜びってどこにあるんだろうね、と思ってしまった。

 何故か18禁の部屋の感想ばかり書いてしまいましたが、ピピロッティ・リストの作品を見ていて、「何かケイト・ブッシュの音楽と調和しそうだなあ」と思ってしまったのは、やはり彼女たちの「女性から見る女性へのまなざし」みたいなのがビシビシ感じられるからではないかと思う。それがどういうものなのか、ってのはちょっと難しくて簡単には書けないけども。
 しかしながら、そういうものを漠然と作品から受け取る時、ほんの一瞬「女に生まれて良かったな」と思ってしまう。昨今は安易に女性だの男性だの言うと取り締まれるような感じだけども、私はやはり生物的な雄雌から端を発する「性」の個性や、それによって感じうるもの、みたいなものは大事にしたいと思う。
 もちろんそれを理由に勝手に他人を判断したり批判したりはできないんだけどさ!

 ところでピピロッティの映像で、女性の股がミニチュアの地球のボールを挟んでいる図が、二つの映像作品にそれぞれ使われていて、二回も見たからか妙に印象的で、「股から生まれる!すべてが!」的なイメージで私はあれが結構好きなんですが、あの図にケイト・ブッシュを合わせるとしたら絶対『Hello Earth』なんですよ。[ Get out of the waves, get out of the water! ] ってとことか、最高にピピロッティと調和してません?…えっ、安直?
 あとこれはいつものケイト推し癖ですが『Hello Earth』が収録されている『Hounds Of Love』は、ほんっっとうに最高のアルバムなので、興味ある方は是非!!

 誰も気にしてないと思いますが、外出できた安心感からか私のお腹は全然元気で、美術館から帰ると工事も無事に終わっており、蛇口をひねれば当然のように水が出る。なんて恵まれた生活であろう。とにかく最高の1日であり、また一つこの世の何かを得た。終わり。

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