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幸せの黄色いカプセル

2000年問題が世間をざわつかせていた頃のこと。
当時はブログやインスタグラムなんてものなく、個人の情報発信はホームページ(正確にはウェブサイト。ホームページはそのトップページのこと)で行われていた。
ホームページビルダーなんてソフトもあり、テンプレートも何種類か用意されていたけれど、より個性的なサイトにするためにHTMLを覚え、ちまちまとタグで書いていた人も多かった。
私もそれに倣い、1ページの旅行記に何時間もかけ、デザインやアイコンにも拘って作っていた。今ならブログで20分もあれば書ける記事だ。
その苦労も今となっては懐かしい。

個人のホームページでは、ほぼ全てに掲示板が設置されていた。インターネット上で顔も知らない他人同士がわいわい話すことができる、唯一のツールだったのだ。
ホームページを始めた当初は訪問者も少なく、掲示板も閑古鳥が鳴く日が続いた。そんな時によく書き込みをしてくれたのがHさんだった。
Hさんは趣味と副業を兼ねた農業を営んでいて、収穫した作物でお茶やサプリメントを作りインターネット販売をしていた。
私が大の酒好きと知るや、Hさんはうこんを勧めてくれた。
「夜、寝る前に飲むと翌朝すっきりしているよ」と。
当時の私は若さにまかせ毎日泥酔。このままでは肝臓がやられるだろうなと不安になっていた時だったので、試しに購入してみた。畑で採れた、鮮やかな黄色のうこん粉末が詰めらた小さなカプセルは飲み易いし、翌朝も体調がよい。
以来20年以上、Hさんから定期的に購入していた。
ところが、先日、追加注文しようとメールを送ったら配信不可で戻ってきてしまった。
Facebookのメッセンジャーから連絡しても反応がない。
10年程前から体調を崩して、最近は少しずつ農作業を人に譲り始めたと聞いていた。ただ、うこんの栽培はさほど大変ではないので、もうしばらくは続けると言っていたのに。
今、どうしているのか、共通の知人もいないから、確かめようもない。
Hさんの作るうこんのお陰で、私の肝臓系の数値は一度も基準を超えることはなかった。
さて、これからどうしよう。
とりあえず錠剤のうこんを注文してみた。1日に10粒も飲まなくてはならないらしい。Hさんのうこんは2カプセルでよかったのに。
次の血液検査は年末になるだろうか。果たしてどんな数値になっていることやら。

シン・ウコン

先週末、最後のうこんを飲んでからビールを開けた。
新宿のKENTO'SでHさんと飲んだことがあったな。私が撮った写真を商品の宣伝に使って下さったこともあった。
顔を合わせたのは数回しかないのに、うこんを通じて長いお付き合いをさせてもらった。
黄色いカプセルは健康と出会いと、かけがえのない時間を運んでくれた。

ラスト・ウコン

20年も経てば色んなことが変わる。
SNSのツールは選び放題でタグを覚える必要はない。
身体のことを考えて、毎日の晩酌は週末だけとなった。

KENTO'Sで聴いた、ドナ・サマーの「Hot Stuff」やシュープリームスの「Stop! in the Name of Love」は、まだ耳の奥に沈んでいる。
クリスマスも近い、冬の夜のことだった。

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