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『乳と卵』

『乳と卵』
川上未映子著


東京に住む、夏子(「わたし」)のもとを訪ねてくる巻子(「わたし」の姉)と緑子(「わたし」の姪)の親子。巻子は、10年前に離婚して、シングルマザー。東京にきて、豊乳手術を受けることを検討している。緑子は、何故か、筆談しかしない。

なかなか、色々な、テーマを内在していて、どう読んだら良いのか迷うのだけどね。

キーワードを追ってみた。
まず、タイトルの『乳と卵』より、

①「乳」
1. 母性と愛:母性の象徴として捉えられ、愛情や保護、育成に関連付けられる。

2. 豊かさと供給: 乳は豊かさや充足感を表現する象徴としても使われる。

3. 結びつきと共感: 乳は親子の絆や共感を象徴する。母乳は赤ん坊との特別な結びつきや共感を表現し、人間関係や情緒的な絆の重要性を示す。

4. 生命の源と創造性: 乳は生命の源として位置づけられ、創造性や創造的なエネルギーと結び付けられる。

「卵」
1. 新たな始まりと創造: 卵は新しい命や始まりの象徴。

2. 潜在力と成長: 卵は内包された潜在能力や成長の象徴

3. 保護と安全: 卵は外部からの保護と安全を提供するものとして考えられる。卵の殻は内部の命を守り、外界の脅威から守る役割を果たします。この意味では、卵は安全や安心の象徴として捉えられる。

4. 一体性と完全性: 卵は外側と内側が一体となっており、完全性や調和の象徴とされる。外側と内側が密接に結びついている構造は、全体性や統一性の重要性を表現する。

次に登場人物の名前について、

③「巻子」
巻(まき)は、螺旋状の形状を持つことから、成長や変化、周期性などの哲学的な意味がある。また、巻きの動きやパターンは、宇宙の秩序や自然の法則を表現する象徴としても解釈される。

④「緑子」
緑は自然、成長、調和、平和、再生、バランスなどの哲学的な意味を持つ。緑は植物の色であり、生命力や自然のサイクルを象徴する色として捉えられることが多い。また、環境保護や持続可能性の象徴としても使われる。

⑤「夏子」
1. 豊穣と祝祭:夏は作物が豊かに実り、自然の豊穣を象徴する。収穫の季節として、感謝や祝福の気持ちが関連付けられる。

2. 活力とエネルギー:夏は明るく暖かい季節であり、活気やエネルギーの象徴とされる。自然の活動や人々の活動性が高まる時期として捉えられる。

3. 変化と絶え間ない流れ:夏は四季の中で一時的であり、常に変化していく自然の流れを表す。生命のサイクルや移り変わりに対する洞察や思索が関連付けられる。

4. 快楽と休息:夏は休暇やリフレッシュの季節でもある。人々は夏の休暇を楽しんだり、自然の中でリラックスしたりすることで、心身の健康と幸福を追求する。

キーワードから見えてくることは、
母親、女性とは何か?と言うことになるのかと思った。

巻子は、シングルマザーとして、苦労して様々な仕事を転々としながら、働いてきた。でも、何かいつも渇きを感じている。
貧乳は、母親として、不適格?
そして、女性としてのアイデンティティにも大きな陰を落としているのではないか?今の現状を改善していくためには、自分の貧乳を改善していくことが、必要なのではないか?母親としても、女性としても、乳は、大きな象徴なのだ。

緑子は、自分が初潮を迎えて、喜びより、不安、恐怖を感じる。母親が、日々苦しんでいるのは、娘である自分が存在していることも要因になっているのだろう、ましては、出産によって、母親は、貧乳になってしまって、その乳を手術で取り戻そうとしている。取り戻そうとする嘘の乳にどれほどの意味があるのか?そんな中、自分は女性として、受精出来る身体になってしまって、新たな不幸な子供をつくるのか?

乳があろうがなかろうが、母親は母親だということ。また、ほとんどの卵子は、無駄になるものなのだけど、生き残った奇跡的な卵子から新たな生命が産まれる。そんな、奇跡の中で、親子関係は、生まれているのだ。

一言でいえば、母と娘の成長物語ということになるのだと思う。

主人公の夏子は、女性としてのアイデンティティを認識し始める。そうして、次の物語(『夏物語』に繋がっていく。

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