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【読書ノート】『夏の少し前』(『つめたいよるに』より)

『夏の少し前』(「つめたいよるに」より)
江國香織著


三好達治の詩「いにしへの日は」という、非常に幻想的な詩をモチーフにした物語。

主人公の洋子は、過去や未来の一幕をみながら、時間を過ごしていく。

キーワードを探ってみる。

①タイトル「夏の少し前」

1. 移り変わりと流転の概念:「夏の少し前」は季節の変化の一瞬であり、風景や状況が瞬く間に変わっていくことを示唆している。これは、哲学的な観点から移り変わりや流転の概念を表現している。

2. 無常性と喜びの短さ:夏の少し前は夏の訪れを感じる瞬間ですが、夏自体は短く、一瞬で終わってしまう。このことは、喜びや楽しみの短さ、物事が一時的であること、無常性を象徴している。

3. 予感と未来への期待:夏の少し前は夏の兆しを感じる時期であり、未来への期待や予感を抱かせる。不確実性や希望の概念を含んでいる。

②「ははそはのははもそのこも、はるののにあそぶあそびをふたたびはせず」
三好達治の詩「いにしへの日は」からの一節。この詩は、春の日差しに酔いしれながら、母と子が花を摘む様子を描いたもの。この一節については、母親と子供が春に遊んだ遊びを二度としないで済むように、今日を大切に生きようという意味が込められている。

キーワードから、見えてくるもの。

過去に戻ることはできないのだけど、それゆえに、甘い思い出は、永遠に残る。昔、感じたことや思い出を思い起こしてみると、心の中に絵が浮かでくる。過去は二度と戻っては来ないのだけど、心の中にはずっと残り続けている。

なかなか、美しい物語だった。

本書の主題は何か?

不可逆の人生を儚いと思うのではなく、日々喜んで生きようということなのかと理解した。

だいたい、嫌なことは忘れるもので、よい思い出は、より良い記憶として残っていくものなのだろうなあと思う。

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