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「一枚絵小説まとめ」六月号

どもども、明原星和です。

みなさま、お久しぶりです。六月は全然こちらの方を投稿できていませんでしたね。

事情等は、後ほど記事でお伝えしようと思っています。

とりあえず、一枚絵小説まとめの六月号となっております。

え?
もう七月になっているじゃないかって?

勘のいいガキは嫌いだよ……



そもそも「一枚絵小説」とは?

一枚絵小説とは、僕が独自に始めた「制作したイラストをもとに書いた小説」のことです。

加えて、執筆時間を一時間と定めることで、素早くアイデアを思考する瞬発力と、一枚の絵から物語のイメージを広げる想像力。素早く作品を制作する集中力を同時に鍛えることができるトレーニングでもあります!

まぁ、端的に換言するなら有名な「三題噺」のイラストバージョンとでも思ってください。

僕が制作する一枚絵小説は、ひと作品につき500〜1000文字ほど。

文字数もとっても少ないし、別にオチがついてなくてもOK
(ここは書く人それぞれで違って大丈夫です!)

一時間という時間制限の中、瞬発的に作品を制作することが目的なので、完成度にこだわるのは慣れてからで大丈夫です。

ゼロから作品を生み出すのが難しい人や、小説初心者の方には個人的に是非ともやってみてもらいたい制作方法。

それが、「一枚絵小説」となっております!


①目も綾な君は、桜色に散った。

 君を一言で言い表すのなら、春が相応しいなと思った。
 青春を色に移したような青い瞳。桜の花びらが乗っかったような可愛らしい唇。ふわりと風に揺れる髪は春の陽気でキラキラと輝いていて、ふと甘い香りが漂ってくる。
 桜の髪飾りを付けた君はひとり、桜の木の下で泣いていた。

「ねぇ、どうしたの?」

 声をかけると、君は頬を伝う涙をポロリと零しながら、僕の方へと振り返る。

「ごめんなさい、何でもないの」

 鈴を転がしたような声は上ずっていて。だけど、こちらを向いた君の表情はなぜだか嬉しそうで。
 微笑みながら流したその涙は、消え入りそうなほどに透明だった。
 そのまま桜の木を見上げた彼女の隣に、僕は歩み寄る。

「知ってる? 桜が綺麗に咲くのは、その樹の下に死体が埋まってるからなんだよ」

 突然そんなことを言い出した彼女。死体が埋まっている、か。

「もしも君が生きていたなら、僕たちは同じ高校に通っていたのかな」

 そう呟きながら、僕は手にした花束を桜の木の下に添える。
 僕の言葉に対し、君は「そうかもね」と小さく呟いた。
 年を追うごとに成長していく君の姿は僕の想像通りで、この世にいるはずのない君がこうして目の前にいるのは、僕の妄想によるものなのではないかと思う。
 それでも、妄想でも幽霊でも、こうやって成長した君と一瞬でも並び立てることが、僕はとても嬉しかった。

「そうだ。遅くなったけど、高校入学おめでとう」

 ありがとう、と言おうと振り返ると同時に、初春の香りを乗せた風が吹く。
 先ほどまでそこに居た君の姿は、桜が舞い散るかのように消えてしまっていた。

「桜の木の下には死体が埋まっている」という有名な話は、梶井基次郎の短編小説『櫻の樹の下には』から来ているそうです。
桜が美しく咲くのは、木の下に埋められている死体の養分を吸っているから。一見、怖い話のように聞こえてしまうけれど、なんだかちょっぴりロマンチックだと感じるのは僕だけでしょうか?


②私はガラス瓶の中

 町の隅っこにあるような、少し錆びれた雑貨屋さん。
 どんなものが置いてあるのだろう、と少し気になってふらりと寄ってみると、入ってすぐに目に映ったのは、小さなガラス瓶の中にいるお人形さんだった。
 水の浸ったガラス瓶に、ぷかぷかと立っているお人形さん。
 小指ほどのサイズしかないお人形さんだったけれど、なぜだかその存在感はサイズ以上にとても大きなものだと感じられた。
 吸い込まれるように棚に置いてあるガラス瓶に近づくと、中に入ったお人形さんの表情がよく見えた。
 まーるい黒一色の瞳に、小さく微笑んだ可愛らしい口元。
 チカチカと点滅する照明に照らされ、ガラス瓶内を満たす水もキラキラと輝いていた。

「あら、そちらをお買い求め?」

 突然声をかけられ、少し驚きながら振り返ると店主と思われるおばあさんがそこには立っていた。

「だけどごめんなさいね。それは商品ではないのよ」

 言われて何だと思い、ガラス瓶をもとあった棚に戻す。
 町の隅っこにあるような、少し錆びれた雑貨屋さんで見つけた、ガラス瓶の中のお人形さん。
 ちょっぴり不思議な出来事でも起きないかな、と期待したんだけど。私はどうやらこの現実から抜け出せないらしい。

現実はどこまで行っても現実。物語のような不思議な出来事なんて、起きないのが普通。
私たちは、そんな「普通の現実」というガラス瓶の中に閉じ込められているのかもしれませんね。


③猫電車

 誰もいない無人駅を、ザーザーと降りしきる雨の音が包み込む。
 腕時計をチラリと確認すると、時刻は午後八時。いつもであれば帰りの電車が来る時間であるが、この雨のせいで遅延してしまっているらしい。
 スマホの充電も残り三十パーセント。これから小一時間電車に揺られることを考えると、ここで下手にバッテリーを消費すれば、電車内での暇つぶしができなくなる。
 仕方ないと僕は、一人ベンチに座ってパラパラ、バラバラとトタン屋根を襲う水滴の音に耳を傾けた。
 本当に激しい雨だ。コンクリートに落ちて弾けた雨粒が、足元まで飛んできてしっとりと靴下が濡れ始めるのを感じる。
 ふと上に向けていた視線を下に向けると、目の前を黄色いレインコートが横切った。
 僕より頭二つ分は小さい体に、可愛らしい猫耳のレインコート。顔は見えないけれど、風雨に靡く長い髪を見るに、恐らくは女の子だろう。
 ホームを歩く少女は、屋根の下に来るわけでもなく、雨に打たれながら線路付近に立った。
 この雨の中、なぜわざわざ濡れながら電車を待っているのだろうか? 不思議でならなかったが話しかける勇気も出ず、ただチラチラと少女の様子を確認することしかできない。

 ――カタン、カタン。

 電車の音が聞こえる。やっと来たか、と思いながら立ち上がるけれど、ホームに止まった電車の姿はどこかおかしかった。
 乗客はおろか、運転手の姿も見えない。加えて、その屋根には不気味に瞳を輝かせている黒猫が一匹乗っているのだ。
 ニャ~オ、と黒猫が鳴くと同時に扉が開く。レインコートを着た少女が電車に入る際、一瞬だけこちらを振り返って、口元を動かした。

「君は、この電車には乗れないよ」

 くしゅん、とくしゃみが出る。気が付くと、電車と少女の姿は忽然と消えていた。

猫がくしゃみをする理由は、「生理現象」か「病気」かのどちらかなんですって。



今月の「一枚絵小説」は以上になります。
これからもどしどし投稿予定ですので、ちょっとした隙間時間などにご拝読いただけますと、幸いでございます。

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