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短編小説|おもらし隠ぺい作戦

 僕には隠し通さなければいけない秘密がある。
 これは誰にも言えない……いや、言うことのできない秘密だ。
 正直に白状をすれば優しく叱られるだけで済むかもしれないが、生憎とそれはできない。
 真っ白なシーツを黄色く染め上げる尿溜まりを前に、僕はどうするべきかをうろうろしながら考える。
 とりあえずシーツをはがしてみると、僕の尿はすでにシーツを超えて、敷布団にまで浸透してしまっている。
 それを見て僕は急いで敷布団からシーツをはぎ取り、とりあえずどこかにシーツを隠しておこうと思い、押し入れの中に目を付けた。
 シーツは重くて持ち上げられないので、ズリズリと引きずるように押し入れへと持っていく。そのせいで、シーツに染みた僕の尿が床にも漏れてしまう。
 そのことに気付いた僕は急いで寝室の傍らに積んであるタオルの山から適当にタオルを取り、濡れた床をゴシゴシと拭き始める。
 まったく、おもらし一つを隠すのにこれほどまでに苦労しなければいけないなんて。
 鼻先を漂う尿の濃厚かつ刺激的な臭いに思わず身を後ずさってしまうけど、早く処理をしないとお漏らししてしまったことがバレてしまうので、漂ってくる臭いを気合いで耐えながら、必死に証拠隠滅に取り掛かる。

「あぁ――! ちょっと、何してるのよ!」

 しかし、僕の証拠隠滅はどうやら間に合わなかったらしく、入り口の扉を上げて彼女が部屋に入ってきてしまった。

「もう、いい歳してお漏らしなんて、恥ずかしくないの?」
「……ウゥ」

 お漏らしをしたという現実が悔しくてか、怒られたことが悲しくてか、僕は細く枯れてしまいそうな声を漏らす。

「しかもこんなに部屋を荒らしちゃって……」

 はぎとられたクシャクシャのシーツに、崩れたタオルの山を見て、彼女はハァとため息を吐く。
 見つかってしまった以上、もうどのような言い訳も通用しないと思い、僕は素直にごめんなさいと彼女に述べるが、彼女は僕の言葉に何も反応せずに部屋の片づけを始めてしまう。
 ただ黙って見ているのも申し訳が無いので、微力ながら僕も荒らしてしまった部屋の片づけを手伝おうと、彼女の隣に並び立った。

「……反省してる?」

 彼女の言葉に、僕は無言で顔を頷ける。

「そっか。それじゃ、お片付け手伝ってくれる?」

 僕は彼女の言葉に元気よく返事を返すと、シーツを片付けるために尿で濡れていないシーツの綺麗な部分にかぶりついた。

「あーこらこら、あなたじゃそれは運べないでしょ?」
「ワン!」

 僕なら大丈夫だと伝えようとするけど、彼女は僕からシーツを取り上げて持って行ってしまう。
 ポツンと取り残された部屋の中、言葉が通じないことの不便さを感じながら、僕はその場でお座りをした。


~END~

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