「一枚絵小説まとめ」五月号
どもども、明原星和です。
五月も末ということで、皆様、今月もお疲れ様でした。
私事ですが、今月はGA文庫大賞用の長編小説を書き続けていて、とても充実した執筆生活を送れていました。
その分、noteの方の更新がおろそかになったのは反省ですね。
さて、そんなわけで今月は計六作品の「一枚絵小説」を制作しました。
来月は、とりあえず作品数が二桁を超えることを目標に頑張ろうかなと思います。
それでは、どうぞご覧くださいませ。
そもそも「一枚絵小説」とは?
一枚絵小説とは、僕が独自に始めた「制作したイラストをもとに書いた小説」のことです。
加えて、執筆時間を一時間と定めることで、素早くアイデアを思考する瞬発力と、一枚の絵から物語のイメージを広げる想像力。素早く作品を制作する集中力を同時に鍛えることができるトレーニングでもあります!
まぁ、端的に換言するなら有名な「三題噺」のイラストバージョンとでも思ってください。
僕が制作する一枚絵小説は、ひと作品につき500〜1000文字ほど。
文字数もとっても少ないし、別にオチがついてなくてもOK
(ここは書く人それぞれで違って大丈夫です!)
一時間という時間制限の中、瞬発的に作品を制作することが目的なので、完成度にこだわるのは慣れてからで大丈夫です。
ゼロから作品を生み出すのが難しい人や、小説初心者の方には個人的に是非ともやってみてもらいたい制作方法。
それが、「一枚絵小説」となっております!
①出張天使の悶々
天使の仕事を知っているだろうか?
死した魂の選別に始まり、神様たちの身の回りの御世話、お散歩、魔界への日々の牽制、地上の観察とその内容は多岐にわたる。
その中でも、人間界に赴いて「運命の女神様」の導きの元、人々に運命をもたらす出張組は過酷だ。
人間界で「恋のキューピッド」なんて呼ばれている天使たちもこの出張組だ。時に人々に幸せをもたらし、時に不幸を与える。
人の幸せを間近で見られるからと羨ましがる天使が多いが、それ以上に不幸を自らの手で与えなければならないことが苦しくてたまらない。
だから、私はこの仕事を過酷なものだと思っている。
「それが君の運命だから」なんて言い訳を並べて、人に不幸を与えている自分の仕事に疑問を抱いてしまうのだ。
人の世は不幸ばかりではない。幸せだって満ち溢れている。
だけど、どうしてか人は「幸せ」より「不幸」の数を数えることが好きらしい。
一つの不幸を与えると、思い出さなくてもいい過去の不幸を思い出したり、自己嫌悪に陥って、すぐに「死にたい」とか「もうだめだ」とか考え出す。
そんな風に思われたら、仕事をしているこっちの気分まで落ちてしまう。
人ひとりに与える幸せと不幸の比率は平等。それなのに人間界には格差が存在していて、大勢が与えられた不幸ばかりに目をやっている。
どうしてだろう? 与えられた幸せを数える方が、少なくとも人生は豊かで楽しくなるのに。
天使に人の気持ちはわからない。私は今日も悶々と、自分の仕事をこなすだけである。
②恋。時々、故意。
恋は甘酸っぱいもの、なんて言ったのはどこの誰なのだろう。
恋はドキドキするもの、なんて定義したのはどこの誰なのだろう。
「これ、綾瀬さんに渡したくて……」
隣の席の中田君から渡された手紙には、わかりやすくハートのシールが張ってある。今時、こんなオーソドックスなラブレターを渡してくれる男子なんて、絶滅危惧種だろう。
断る理由があるはずもなく、私は手紙を受け取る。その瞬間、どうしようもなく溢れた涙が頬を伝い、巻いたマフラーを湿らせた。
「ありがとう。きちんと読んでから返事するね」
突然泣き始めた私を中田君は心配してくれたけど、私は「大丈夫」と一言返して、その場から駆け足で離れていった。
私、うまく笑えていたかな。中田君に、変だと思われなかったかな。
冬の冷気に当てられて、流れた涙がキラキラと輝きを帯びながら零れていく。儚く消える涙が溢れるたびに、私の心は針でつつかれたみたいにズキズキと痛む。
この涙は、嬉しさからくる涙じゃない。
どうしようもないくらい好きで。だけど、もう叶うことのない先輩への恋を思い出したことで流れた、後悔の涙だ。
先輩は「俺、恋愛とか興味ないし」と言っていた。だから、なんとなく告白がしずらくて、そのままズルズルと何も言わないまま日々を過ごしていた。
だけどある日、先輩に恋人ができた。
その時初めて、私は先輩が強がりで「恋愛に興味ない」と言っていたということに気づいた。
どうして私は勇気を出せなかったんだろう。今更どうこう思っても、溢れてくるのは後悔だけ。
初めての恋の味は、胸焼けがするほど濃い味で、ズキズキするほど刺激的だった。
そんな先輩への恋を私は、ずっと忘れられないでいる。
新しく恋をすれば、この辛さもいずれ忘れられるのかな。この胸の痛みも、後悔も。少しは楽になるのかな。
そう思い、私は中田君からのラブレターを開き、新しい恋を始めようと試みる。
私の恋が、故意に変わっていく。
③夢幻ループ
俺の名前は、工藤新二。普通の高校生だ。
ある日、車に轢かれそうになっていた女の子を助けて道路に飛び出したら、気が付くとそこはとても現実世界とは思えない、訳の分からない世界だった。
惑星に似た球体が空のいたるところで漂っているし、空模様自体もとても変だ。
眼下には雲海が広がっているのを見るに、ここは雲の上。はるか上空に位置しているはずなのに空気も全然薄く感じない。
本当、ここはいったいどこなんだ?
注意深く辺りを見回してみても、その疑問の答えに繋がりそうなものは見当たらない。
そんな時ふと、顔の横をヒュンッと風を切りながら、何かが横切っていった。
トカゲのような容姿に、肩のあたりから生えた二対の翼。ラノベや漫画で見た物とはかなりサイズ感が異なるけど、間違いない。あれは「ドラゴン」だ。
現実世界にいるはずもないドラゴンが、こうして今、僕の目の前を飛び去っていく。
現実離れした光景。ドラゴン。これらの情報がもたらす答えは、ここが「異世界」だということ。
僕はどうやら、異世界転移というものをしてしまったらしい。
なんということだろうか。ラノベや漫画で見て、憧れていた展開が自分に訪れるなんて、夢みたいだ!
これから先、僕には数々の困難が待ち受けているのだろう。けれど、それすらも今では楽しみ。
この異世界で、僕は第二の人生を謳歌していくのだ。
――ピ、ピ、ピ……
突如、規則的な電子音が頭の中に響く。その直後、世界が急にぐわんぐわんと揺れはじめ、やがて視界が真っ白に染まる。
うっすらと目を開けてみると、そこは病院の天井。どうやら僕は、事故にあった後昏睡状態にあったらしく、ようやく目が覚めたらしい。
僕の異世界転移物語は、文字通り夢物語で終わってしまった。
医者の先生が僕のもとまでやってきて述べる。
「いいですか、落ち着いて聞いてください」
まさか、このセリフが自分に対して使われる日が来るなんて、夢みたいだ。
……いや、もしかしたら僕はまだ夢の中にいるのかもしれないな。
④自信を持って好きになる
「聞いたよ? 斎藤くん、また女子に告られたんだって?」
からかうように微笑みながら聞いてみると、君は少し照れくさそうに頭を搔きながら「まぁな」と返事をした。
君がまた、誰かに好きだと言われた。
その事実にまた胸がチクリと痛むけれど、やせ我慢して必死に笑顔で取り繕う。
「そっか~、やっぱりモテモテだね、斎藤くんは」
同級生の斎藤くんは、優しくてカッコよくて。夏空の快晴みたいに爽やかでクールなのに、近くにいると心がなんだかホカホカと暖かくなって。
そんな彼が女の子からモテないわけがなく、彼に黄色い声援が飛んでいるのを見るたびに、私の心はモヤモヤに包まれていた。
ただ通学路が同じというだけで、ただ二年間同じクラスというだけで、私は今斎藤くんの隣に立てている。
これ以上、特別を望むことが怖くて。今の特別を失うことが怖くて。私は君に、「好き」の言葉を言えないでいる。
君の隣に立てているだけで満足だと思うけれど、それってきっと、とても傲慢なことで。気持ちを伝える勇気もない癖に、誰かに君を取られることが怖くって。
「斎藤くんモテるんだから、彼女の一人でも作ればいいのに」
またこうやって、思ってもいないことを言って自分の気持ちに嘘をつく。
「……別に、そんなにモテてないよ」
「そんなことないよ。ちょっと無口だけど、困ったときはいつも助けてくれて。運動も勉強もできてカッコいいのに、よく授業中寝てたりして抜けてるところもあって。もっと自信持ってもいいのに」
そう言うと斎藤くんは「そっか」と言葉を漏らす。
「じゃあ、ちょっと自信持ってみるね」
発せられた言葉が耳に届くと同時に、私の左手が君のぬくもりに包まれる。
どうやら私も、ちょっとだけ自信を持ってみてもよさそうだ。
⑤自分らしさ不適合者
自分は何のために生まれてきたのだろう、と考えることに疲れた。
新卒で入った会社はブラック企業で、馬車馬のように働かされたのに昇給もなく薄給のまま、ひもじい生活を知られてきた。
そんな日々に嫌気がさして二年目に退職。転職活動を行って次に入った会社は、まともだけどなんとなく僕は、やりがいを得られずに日々を過ごしていた。
今の仕事に対して不満はないけど、楽しいとは感じられない。
信頼できる先輩にそのことを相談してみたけれど、「それはお前の仕事に対する姿勢がイマイチだからだよ」と言われた。
どんな仕事でも、長い時間真っ直ぐ正面から真剣に取り組んでいれば、そのうち自分なりに達成感とかやりがいを見つけられるようになる。
社会人のブログを見たり、話を聞いていると大体こんな感じの返事が返ってくるけど、僕にはそれが「長い時間をかけて無理やり達成感とやりがいを見出して、自分を騙している」ようにしか見えないのだ。
中には、本当に好きで仕事を続けられる人もいるんだろう。でも、大半の人は自分を騙しながら仕事をしている。そうでないと、やってられないから。
かつて思い描いていた夢を「子供っぽい」と一蹴し、未来を夢想する人たちに「社会はそんなに甘くはない」と現実を見せて、自分の選択は間違っていないと正当化しようとする。
そんな人間にはなりたくないと……仕事のために生きる人生から抜け出したいと思うけれど、僕は自分が何をして生きていたいのかもよくわからない。
きっと今の僕は、何者でもない。
社会に対して不満を持ちながら何も行動しない。僕はきっと、「自分らしく生きること」に向いていない不適合者なのだ。
⑥白昼の聖夜
そわそわとスマホを弄っているふりをして、自分の化粧と髪型をチェックする。
おかしなところはないかな? 髪型、乱れていないかな?
クリスマスに賑わう街は人の波が右往左往していて、静けさをどこかに置いていってしまっているよう。
冬休みに入ってもう三日。私は彼と、冬休み中で初めて会う。
つい先日まで、毎日のように学校で会っていたというのに、たった三日会えなかっただけでどこか心が満たされないでいた。
電話越しの声じゃ物足りない。画面越しに見つめる君は相変わらずカッコいいけど、やっぱり直に君を感じたい。
早く会いたいとはやる気持ちを抑えながら、スマホの内カメラに映った私は、前髪をクリクリと弄っていた。
「よっ、メリークリスマス」
顔をあげると、いつも通り。だけど、久しぶりだと感じる、はにかんだ笑みを浮かべた君がそこに立っていた。
君が目の前にいるという事実がただ嬉しくて、私はギュッと君に飛びつき抱き付いた。
周囲の視線がチラチラとこちらに向けられるのが感じられる。だけど、見られていることの羞恥より、今は少しでも君という存在を全身で感じていたかった。
胸にうずめていた顔をあげてみると、君はトナカイの赤鼻に負けないくらいにその顔を赤く染めていた。
「おいおい、こういうロマンチックなのは、夜とかにやるもんじゃないのか?」
「いいじゃん。昼間だろうと、クリスマスだって事は変わらないよ?」
ニッと微笑みながらそう答えると、君も「そうだね」と微笑み返してくれる。
そのまま私たちは、交わった視線を合わせるように、大好きのキスをした。
今月の「一枚絵小説」は以上になります。
これからもどしどし投稿予定ですので、ちょっとした隙間時間などにご拝読いただけますと、幸いでございます。
今回も読んでいただき、ありがとうございます。
これからも様々な記事を書いていきますので、次回もぜひ読んで下さい。
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