見出し画像

【独りよがりレビュー】森下典子「日日是好日」

茶道を習いたい。

安直だけど、読み終えて一番に思った。

着物1枚持っていないし、気も利かないし、目の前のものを蹴散らしながら歩く雑な性格。茶道から最も程遠い人間だけど。

もっとこの本を早く手に取るべきだった。
多分、この本は、私の人生の教科書になる貴重な1冊になるだろう。

森下典子「日日是好日」/新潮文庫

エッセイストの森下典子さんが、学生時代から続ける茶道を通して、感じた景色、見つけ出した生き方を綴ったエッセイ。
文庫の初版が平成20年だから、もう10年以上のベストセラー。

晩年の樹木希林さんと、黒木華さんが演じる映画も素晴らしかった。けれど、ここまでの感銘は受けなかった。

文章で味わう茶道の心づくしのおもてなし、森下さんの気づきが、乾いた砂みたいな私の心に、山から湧き出た清らかな水のように染み渡る。

若いころから茶道の世界に興味があった。
Eテレの教養番組で茶道の特集があれば、つい見てしまうし、インスタで茶道家の千宗室さんをフォローして、毎日拝見している。彼のインスタをまとめた本が欲しい。

茶道の無駄のない所作、日本の四季を織り込んだ美しいしつらえ、かわいい和菓子、芸術的な茶道具、凛とした着物、そういう「非日常」に憧れていた。

でも、この本は、茶道がそういう上辺の美しさではないのだと教えてくれる。

日日是好日。

長年の茶道のお稽古を通して森下さんが見つけたのは、先の不安、過去の後悔、明日の仕事、心をざわつかせるいろんなことを一旦脇に置いて、自然の小さな変化や所作に気持ちを集中させること。
螺旋状に連なる四季折々の暮らしの中で、一瞬、一瞬に意識し、その中に美しさや楽しみを見出し、感じること、味わうこと。

どんな日でも良い日。
辛い日も悲しい日も、嬉しい日も楽しい日も、その日はその日しかなく二度と戻らない。
その日を大事に生きること。

前を蹴散らし歩く私は、向かう先にしか意識が向かない。今を見ていなかったのだ。

茶道の心はお茶を立てずとも、感じることができる。
四季の折々の草木の美しさは、家やオフィスの窓、散歩中の道端からだって見ることはできる。
静かにお茶やコーヒーを淹れながら、料理しながらでも心を無にすることはできる。

私が知るべきは、茶道ではなく心の持ち方だったのだ。

先日、娘と喧嘩した。
私の些細なひとことが娘の癇に障ったらしい。娘の苦しい気持ちや、努力に気づかなかったのは、私が日々の生活にきちんと目を向けていなかったからだ。娘の将来や経済的不安、その日たまたま読んだネットの文章に心がざわついて、今ここに気持ちをしっかりと根付かせていなかったと反省した。(意地になって、娘に謝れずうやむやにして、さらに後悔)

ケンカの後、読みかけだったこの本を再び開いた。
森下さんが、長年の茶道のお稽古から次々と気付く言葉の数々が、娘とケンカして、反省して、後悔して、自己嫌悪して、傷だらけになった私の心に、消毒液みたいにしみて、痛かった。

日日是好日。茶道の心。

言うのは易いが、実践するのは難しい。

だから、今、私は猛烈に茶道が習いたい。








この記事が参加している募集

最近の学び

サポートいただけると、明日への励みなります。