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コーヒータイムは朝 #ハッピーになるかもしれない朝エッセイ

私のコーヒータイムは、朝だ。

朝食と弁当を作りながら、ガリガリとコーヒー豆を挽く。
理想は、朝食のパンが焼けると同時にコーヒーができること。この塩梅が難しい。

少し感染拡大が落ち着いて、近所の喫茶店が営業を再開したので、週末に豆が調達できた。ここのコーヒーが一番好き。苦みがまろやかで、香ばしくて、どことなく甘みがあって、とても優しい味がする。

ガリガリガリ。
コーヒーミルを挽く。
そういえば、豆によって、ミルのハンドルの重さが違うことを、最近知った。
件の喫茶店が休業中に豆を切らせてしまったので、仕方なく、量販店で豆を買い求めた。挽いてみると、びっくり。ミルのハンドルがとても軽い。
ネットで調べてみる。いくつか理由があるらしい。焙煎の仕方とか、豆そのものの性質とか。へえ、面白い。
比べてみないと分からないことがあるもんだ。
同じ世界でずっと居続けると気づかないこともあるよなあと、コーヒー豆の固さから生き方を考える。

挽きたての豆を、ドリッパーの紙のフィルターにあける。

ふわっとコーヒーの香りがして、思わず鼻をくんくんさせる。
お湯は、娘が学校に持っていくお茶を作った残り。
ポットからそっと注ぐ。なるべくお湯の出が細くなるように、細くなるように、気を付けながら、そっとそっと……
最近は、ドラマ「珈琲いかがでしょう」の青山さんになったつもりで、コーヒーを淹れている。

お湯を注ぐと、コーヒー豆からもこもこと泡がたって、こんもり山ができる。山がだんだん低くなってくると、またお湯を注ぐ。
「ゆっくり、ゆっくり入れるんだ」確か、青山さんの師匠のたこおじさんが言ってたな。私も、ゆっくり、ゆっくり。

脳みそを空っぽにして、コーヒーが落ちるのをじっと見る。

ドン、バタン!
背後でドアが思い切り開く音がして、制服姿の娘がやってくる。
「ママ! 今日の髪型、イケてる?!」
娘をちらりと見る。うーん、昨日との違いがよく分からない。
おおっと。よそ見していたら、お湯が全部落ちちゃった。
「イケてる、イケてる」
はいはいと返事して、娘がリビングから出ていくのを確認したら、またコーヒーに戻る。

ガラスポットいっぱいにコーヒーができた。

自分のマグカップと夫の仕事用タンブラーに、半分ずつ。

「コーヒーできたよー」
夫が豆を挽いてくれたり、お湯を入れてくれる日もある。今日は、たまたま私が一人で淹れたので、2階で仕事をしている夫を呼ぶ。

タンブラーを持って、仕事に戻る夫と入れ違いに、また娘がやって来る。
リビングのソファにどっかり座って、スマホで音楽をガンガンに鳴らし始めた。朝から元気だなあ。

淹れたてのコーヒーと、焼きたてのトーストをテーブルに並べて、私だけ遅めの朝ごはん。
今日のニュースを新聞でチェックしながら、コーヒーをすすり、パンをかじる。
これが、私の平日のモーニングルーティーン。コーヒー時間。
いつの間にか、朝、この時間がないと、心がざわざわして落ち着かなくなった。
たこおじさんが、「コーヒーには鎮静効果があるからな」とも言っていたけど、本当だ。

「いってきまーす」
スマホの音楽が消えると同時に、娘が玄関を出ていった。

急に部屋が静まり返る。
カップに残ったコーヒーをすすると、さっきより苦くなった気がした。

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