見出し画像

オススメします、「すずシネマパラダイス」

地方に住んでいると、ときどき何とも言えない漠然とした不安が押し寄せる時がある。
昔からの商店は、シャッターが下りて、建物の老朽化が進むに任せている。駅前の商店街は、休日の昼間でも人っ子ひとり通ってなくて、この季節は、冷たい北風がアーケードを吹き抜ける。
耕作されなくなくなった田んぼは、夏には背丈ほどの雑草が生い茂る。冬になると、雑草が一斉に枯れて、黄色くなる。木枯らしに吹かれて、ざっと揺れる黄色い雑草は、冬のもの寂しさを倍増させる。
道路沿いの畑には、車の窓から投げ込んだのか、コンビニの袋や空のペットボトルが散らばっている。片付ける人はいない。
一方で、秋には一面コスモスが咲き乱れ、春にはレンゲの花がピンク色のカーペットのようになる畑がある。それはとても牧歌的で、写真に収めたいような美しい風景だけど、コスモスやレンゲを植える理由は、高齢化で耕作できないからだ。
雑草が生えないように、花の種をまいているのだ。

それならまだいい。自然が残っているから。
最近は、耕作できなくなった畑に、次々と太陽光パネルが設置されている。
無機質な太陽光パネルが、広い畑の真ん中に整然と並べられ、銀色に光っている。冷たくて、暗くて、心がなくて、人間がロボットに改造されてしまったよう。太陽光パネルに変わっていく田んぼは、年々増えている。
田舎は、自然にあふれた温かい場所でさえなくなっているような気がする。
子供の姿は見えず、人も町も、なにもかもが老いていく。
そんな町を見ると、ああ、とため息をつきたくなる。

1月1日から、脚本家の中川千英子さんが、noteで連載を始められた。
タイトルは「すずシネマパラダイス」

舞台は、石川県の能登半島の先っぽの町「珠洲」
町おこしのために映画を撮るというコメディー。
どこにも、舞台になった珠洲の町が元気のない町であるとか書かれていないのだけど、勝手ながら「ああ、ここもうちと同じなのかな」と感じてしまった。
町おこしで、少しでも都会からこの町に来てもらいたいと知恵を出し合う商工会の面々は、いい歳の中年男性なのに「小僧ども」と言われている。そんなところに、なんとなく、そこはかと「活気がなくなった町」というのがにじみ出ているように感じた(そうじゃなかったら、すみません)

でも、この物語はコメディーだ。町の人に悲壮感はない。
ストーリーはテンポよく進む。
まるで、頭の中で映画を再生しているよう。能登半島から見える日本海の波音や、キャラクターの声が聞こえてくる。
そしてキャラクターが元気だ。主人公の一雄も、薮下さんもお父さんもお母さんも。読んでいると、クスッと笑える。ちょっと元気になる。

珠洲の人は元気だ。
人が元気なら、町はまだ大丈夫なんじゃないかと思える。
私の町も住んでいる人は元気。なんとかしようとしている人がいる。
うちも、まだ大丈夫かもしれない。

連載はまだ3回目。これから町や人が、どんなふうに変わっていくのかとても楽しみ。町おこしの映画は無事完成するのだろうか。
今日の更新も期待しています!


この記事が参加している募集

サポートいただけると、明日への励みなります。