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連続小説 SF『マルチバース調整庁SM管理局』(4) からの抜粋


(部分抜粋)

ここで解説しておくと、オーバーロードの世界は単性生殖で老化した個体が自ら次の個体を分裂させて生を繋いでいくので、地球のように雄・雌、男性・女性という両性生殖の世界と異なり、彼らにとっては生物的な「性」は存在しない。

毎回この個体分裂時に記憶がリセットされ、あたかも魂が入れ替わったかのように新しい「人格」が出現するので、個体分裂が彼らにとっての死であり輪廻転生だった。それは約5億年に一度やってくる。

それぞれの個体は、その生を受けた5億年の間に、それぞれの「個性」を自ら形作っていく。その自認していく自らの個性は、白黒、男女、強弱のような二分法ではくくれない、濃淡のグラデーションのような多様性をもったものになる。

あるものは好戦的だったり、平和を愛する協調性があったり、あるものは地球で言う母性的な包み込むような寛容さを持っていたりする。

ここでは便宜上、地球の男女言葉をそれら個性の描写に用いるが、かならずしもそれがその個体の「ジェンダー」を規定するものでもないのでご注意を。

そんなオーバーロード界であったが、単性生殖であったが文明の進化とともに、おそらく地球の異なるバースを研究対象としたことも影響して、近年、ここ3億年くらいの流行として、ある種の生きがいとしての「個体と個体の繋がり」への関心が高まってきていた。

彼らの目にとても非効率にみえた両性生殖であったが、地球での個体間の束の間の強いつながりを目の当たりにして、その「非効率さ」も彼らにとっては珍しく、あるベストセラー本の描写をきっかけに関心が高まり、その研究が進んでいた。

そして、生殖の目的そして性の欲望はまったく介在しないが、個体間で共鳴する関係はその人生を豊かにするものだという考えが、オーバーロードの中でだんだん定着しつつあった。事実、近年、ここ2億年くらいは、オーバーロード間で若年期にパートナーを選び、生活を共にするというのも、ごく普通になってきていた。

(中略)

「あ、ペコリン係長、地獄耳だからね、この話、ここで止めときまーす」といってその同僚はビタミンカクテルを飲み干す。

まさに、そのグラスが空になったのを目ざとく数十メートル先から目にした係長が、ボトルを片手に移動してくる。

「だめよ、あんた、新人さんいじめちゃ。この子、ある意味、私の直属の後輩なんだから」そういって、係長は緑色の液体をグラスに注ぐ。

Mは聞く、「直属と申しますと?」

ペコリンは、真ん中の緑色の目をちょっとウインクさせて答える。

「あなたの担当のケース番号12億3242万7号はね、私が調整官駆け出しのころの担当だったのよ。アルゴリズムのバグで、中世イタリアの同じ都市ベローナの対立する家族の子供に転生させちゃったから大変だった。私、どうしようかと思った。それにシェイクスピアがあれを戯曲にしてしまったもんだから、SMアルゴリズムの存在が人間にばれるリスクもあったのよ」

「ロミオとジュリエットですね。あの時の担当だったんですね。

。。。でも、ソウルメイト(SM)のアルゴリズムの存在、つまり、輪廻転生して毎回難易度は異なるけどソウルメイトに会える可能性を追わせるというアルゴリズムの存在、それを人間が知ることがそんなにリスクなんですか?」

管理システムの安定性はね、その管理方法が管理対象に悟られていないということが大事なの。。。生きていく目的がわかってしまうというのは、死ぬことと同じなのよ。。。

その時、Mのスマホがブーンと振動音で着信メッセージを知らす。

(以上、4話からの抜粋)


全7話(短いです):


年末の視読率アップのための自己番宣(番組宣伝)でした

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