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米大統領選雑感 empathy (共感)のちから

アジア時間日曜日の昼下がり、バイデン勝利を伝えるTVニュースを流しながら、たまにはちょっと真面目な、かための、私見のつぶやきをいくつか。

日本のメディアでは、「大統領たる資質」みたいな視点から、おしなべてトランプ政権の酷評を敗退の説明とするようなのが多かったが、それだけみていると、やはり接戦といえるまでの票数を集めたトランプ(popular voteで現時点で 7400万 vs 7000万票)、そしてその勢いにのって上院を確保へと予想される共和党への支持の背景を見誤るかなと思い。

1.empathy (共感)のちから

4年前、トランプ勝利が伝えられた時、チャットしていたアメリカ人が、僕からしたら「そこ?」と思うコメントをもらった。「トランプとか大統領になっちゃうと、将来大統領になるのを夢見て若い頃から political career を地道に積んでいる人たちの career pathが崩れちゃうよな、こまったもんだ」

たしかに、地道に共和党なり民主党の地方支部の選挙ボランティアやったり、議員のスタッフやったり、地方議会に立候補したり、そしてワシントンの議員に選出されたり州知事になったりして、万を辞して党候補となり大統領選に臨むといったかつての王道が否定されたようなことになった。

ビジネスで実績あげて(あるいはそうしたようにみせて)、TVショーのホストとして顔を全国区で売って、プロレスファンを自認したりして庶民的なアピールも積み上げる。そういう背景を持った候補が、熱狂的な支持を受けて大統領になってしまう。大統領になるにはそういう積み上げをしないとなれない?

やはり、民主主義は選挙なので、究極は、選挙権がある人たちがこういう人に託したいという気持ちの結果なんだとつくづく思う。極論、プロレスファンが大多数の選挙区なら、元プロレスラーが当選して、選挙民の代表として政府を高所から意見して動かして運営してもいいはずである。それでプロレスを国技に決めるとか。選挙はやはり、有権者にempathy(共感)してもらう力というのが票につながるということか。

おそらく、想像するに、アメリカのまだ majority をなす中産階級の白人投票者の多くが、これまでワシントンの政治のエリートに任していたら、演説は素晴らしいが言っていることが全然実行されてきてない、むしろ事態はだんだん悪化していて、自分たちの親の世代には享受できていた豊かな生活が綻びつつあり、麻薬問題や治安の悪化、伝統的なキリスト教的価値観を覆されるような彼らにとって極端なリベラル化が進んできてしまっていると感じていたのだろう。

そんな人たちが empathy(共感)を持ったのが、ワシントン政治からはアウトサイダーで "drain the swamp!"(ワシントン政治の泥をかきだすぞ)を掲げて乗り込んできたトランプで、彼らにとっては、トランプは自らの財力があるから big corporate moneyに操られない、顰蹙をかってでも既存の権力体制をぶちこわしてくれるガッツがある、プーチンや習近平とかの強面相手でも交渉力を発揮する、そんな人物にみえたんじゃないだろうか(それら前提が必ずしも正しくなかったのは4年でみえてきたが)。

まあ、英国EU離脱も、EU本拠地ブリュッセルでのEUエリート政治に対する不信が呼んだ結果とも言えるし、結果が出せていない政治エリートに対する不信というのはアメリカだけではないだろう。この文章の冒頭の知人コメントも、ある意味、政治が紋切り型のキャリア化してきて、民主主義本来の共感の仕組みがないがしろにされているからと解釈できるのかもしれない。

今回の選挙戦でも、TVにでていた民主党幹部のおばさんが、反省していた。民主党の政治家は、中西部の労働者層という伝統的に民主党支持層に対して共感を持ってもらって支持を得ることに失敗してきている、むしろおかしな話だが共和党がその層の共感を取り込んでいると。

先週、トランプの選挙ラリーをYouTubeでつけてみていたら、まあ、トランプの語りは台本なしの漫談のようで面白い。評価するわけではないが、面白い。いいかげんなことを沢山言うが、支持者はそこも含めて面白いとおもって聞いているんじゃないだろうか。

プロレス・ファンだけあって、勧善懲悪の世界が好きで、まずは悪者の悪事をみせつけて正義の見方として反撃を試みる。そんな漫画のようなキャラクターが、一部の支持層には、政治家としてはとても新鮮に写ったに違いない。ラリーでも「バイデンになったら演説もつまらないぞ。俺のほうがおもしろいだろ?」みたいな軽口もたたいて、支持者にウケていた。

まあ、衆愚政治といえばそうなんだが、今後の民主主義として、共感をもってもらうというのが大事ということで、さらに近年SNSとかで個人的な志向が大事になってくると、自分の属する集団とか社会の志向から離れて、もっと自分として共感をもてるところが大事になってきているのだろう。自分が好きか嫌いかで判断する。美麗字句ばかりの演説ではなくて、自分たちのわかる言葉でおもしろおかしく語ってくれる候補者を選んでしまう。そんな流れがトランプ現象にあったのではないだろうか。

でも、そんな大きな流れの中で、バイデンが健闘したのは、感染対応失策とか2020年の特殊要因もあるが、やはり彼がとても誠実な「いい人」に見えて、経歴的にはワシントン政治エリートなんだが、前回ヒラリーが嫌いでトランプに投票した層もバイデン爺さんならいいかなと最後には「共感」したからではないだろうか。他の民主党候補では立派すぎて、弁が立ちすぎて、倦厭されてしまったのではないだろうか。ここでも、共感力が大勢を制した感じを持ってしまう。

2.single issue voters

かなり前の話だが、1992年、米国に住んでた頃、ブッシュ・シニアが負けて1期4年で政権を民主党に引き渡した選挙があった。当時、副大統領のダン・クエールが結構な失言を連発していて、はやりのジョーク?になっていた(たぶんグーグルすると出てくるかと思うが、ポテトの単数をpotatoeとしたり。いまのトランプ失言ジョークみたいな)。当時の仕事が交渉事で徹夜で会議場につめるというのが時々あって、今と違ってスマホもないので、30人ほどが詰めていた会議場ではNYタイムズのクロスワードパズルのコピーが配られたりして待ち時間の暇つぶし対策がされていたが、深夜3時とかに、50歳くらいのいい年したアメリカ人のビジネスマンが爆笑ダン・クエール冗句を連発していたのを、僕はニタニタして聞いていた。けっこう面白かった。それで、ある時、仕事関係の夕食会で最近の仕事について聞かれた時にその中からウケたジョークを紹介してしまったら、ちょっと顰蹙をかってしまった。

当時の上司の日本人の奥さんがアメリカ人で日本語も堪能な人だったが、ちょっと嫌な顔をしてぽつりと言った。「たしかに副大統領としてはひどいですけど、たとえばチャイルド・ポルノ規制とか、共和党の彼みたいな人しか真剣にやってくれないんですよ。民主党は表現の自由とか言って。それでブッシュ・クエールを支持しないとだめなんです」

以来、選挙って、こういう single issue というか自分にとって非常に大事な項目についての可否で候補者を決めている人が世の中にはいるなと頭に刻みこんだ。現代のアメリカだと、中絶問題とか同性結婚とか中東政策とか、けっこう国民を二分するような重たい single issuesがけっこうある。票はそういうissuesで動く。今般のトランプ支持のベースもこうした保守層の危機感というのがあったのではと思う。

話が長くなったが、つぶやきポイント2点目としては、こうしたいくつかの自分にとって大事なことに対する姿勢で投票先を決めているひとたちが結構いるんだということ。

3.分断の解消?

さて、これからどうなるのだろう。一部のメディアが煽っているような、米国では銃が売れていて civil war (内戦)のような混乱に陥るだろうというのは大袈裟で嘘っぱちだとおもう。まあ局地的に事件はあるだろうが、それを大袈裟に報道するメディアはこれから無視していきたい。さすがに米国社会はベネズエラやシリアではない。社会制度はちゃんとしている。次期大統領の正式確定まで、まだまだ紆余曲折ありそうだが、度合いはともあれ、多少の混乱は過去にもあった話。

分断の状態の議論についても、かなり誇張があるのではないかと思っている。家族の中でもトランプ支持と不支持で喧嘩になっていてこんなことはかつてなかったとかメディアでいう人がいるが、まあ、あったとしても社会の分断と捉えるほど深刻ではないのでは。家族の中で政治意見が違うのはよくあるでしょう、おやじと息子とか。アメリカは中国と違って一党独裁じゃないから、いつでも与党があり野党があり、意見の異なる集団のぶつかりあいがあり。ベトナム戦争反対、いや賛成、中絶禁止・賛成、マリファナ合法化賛成・反対、意見はいろいろ、主義主張は分かれる。divided? 意見は分かれても別におかしくはない。たしかに過去には、奴隷制をめぐってCivil Warが起こって国が二分された歴史はあるわけだが、そこまで現在なにかの issue で国が2つに分断されているとは思えない。思いたくない。あの国はかなり多様な国。そして二分するようなこれというひとつのissueは今はないと思う。

まあ、とはいってもトランプ派・反トランプ派での対立はあったわけだから、意見が自己矛盾するようだが、今後はその解消、緩和へとの努力が必要となるだろうけれど、2ヶ月前に書いた拙筆(下リンク)で触れたが、解消はそう簡単な道筋ではない。バイデン大統領が、さあ、みんなで手をつないでひとつになって、といっても物事はそんなに簡単に進まないだろう。方向性はあっていると思うが。対立して、いがみ合いながら、徐々に相互理解が進んだり、妥協点を見出していくのではないか。時間はかかりそうだが。

(タイトル写真は数年前家族でいったサンフランシスコの球場のジャイアンツ戦)




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