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第23話 リハビリ15 2021年8月16日 さようなら、外脛骨

 昼前にリハビリ。「今週には退院じゃないですか」とトレーナーに言われる。この間食べた餃子についてトレーナーが話す。
「今日はもう遅いから買って帰ろうよって言ったんですよ。王将の前を通ったんで餃子買ったんですが、すごく美味しいですね」
 続いて誕生日の話に。
「誕生日はお祝いするんですか?」
「一人暮らしなのでしませんよ」
「私は一人暮らしの時やってましたよ」

 以上の会話を一行でまとめると「私は夫・彼氏がいるので勘違いするなよ」である。「もう十分わかっているのでいちいち言わなくても大丈夫ですよ」と口にせず心の中で思う。今までつけていなかった名札が胸についていたので名前を覚える。
 リハビリが終わってからフェイスブックでトレーナーの名前を検索すると出てきた。ディズニーランドの城の前で背を向ける男女がプロフィール画像になっている。グーグルで検索すると論文等が出てきた。
 徹底して相手を勘違いさせないよう気を配っているが、独身の男に対するマニュアルでもあるのだろう。であれば男には男、女には女を当てがえばいいのにと思う。

 気分を入れ替えるためにデイルームで読書していると、数メートル離れたところで30代の男性が頭を抱えて号泣している。しばらくしてどこかに電話をかけた。暇つぶしに会話を盗み聞きする。妻への電話のようだ。
「今母親の検査が終わったところ」
「どうだったの?」
「癌だってさ。全身に転移してもって1、2ヶ月だって。俺、どうすりゃいいんだろう」
「治療はできないの?」
「肝臓移植は無理だって。抗がん剤やっても2ヶ月持たないって」
「そう……」
「本人もうちに帰りたいって言ってる。俺、どうすりゃいいんだろう……」
「うちで話そう。早く帰ってきて」
 電話を切った後もずっと嗚咽していた。とても気の毒なので病室に戻った。
 病室では10日間便が出ていないという初老の肛門にイケメンが指を突っ込んでかきだしていた。初老の担当の女性看護師が「がんばれ! がんばれ!」と応援している。しばらくして大便の香りが漂ってきた。これから夕食だ。

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