第1話 ファースト・インパクト さようなら、外脛骨

 初めて痛くなった日は定かではない。5年以上10年以下の間だろう。精神病院で電気けいれん療法という全身麻酔をして頭に電気を流す治療をしたせいで過去の記憶がほとんどのこっていないからだ。その顛末は恋する閉鎖病棟を参照されたい。

 が、初めての痛みは記憶している。深夜トイレに行こうとして左足を床について力を入れると、脳みそにショットガンをぶっ放されたような痛みが走った。もちろん僕はカート・コバーンではないので実際にショットガンをぶっ放されたわけではないのであくまで想像だ。正確にするとくるぶしの下の出っ張った骨にアイスピックを刺されたような電気的な痛みだ。もちろんアイスピックを刺されたこともないのであくまで想像だ。寝ぼけ眼の僕は足首から下が取れたと勘違いした。立ち上がることができないため膝で歩いてトイレに行き、便座に座る。腫れているわけではない。触ると痛い。立ち上がることはできない。寝て起きたら治るだろうということで寝た。

 翌日、深夜の出来事は忘れているためトイレに行こうとして左足を床について力を入れると以下略。匿名掲示板の整形外科的な場所に「骨に電気が走ってる感じで立ち上がれないんだけど、どうすればいいだろう」と書き込むと「立ち上がれない、歩けないなら救急車を呼ぶしかないだろう」とのことなので119に電話をかけた。

 しばらくして救急車がやってきた。救急隊員がチャイムを鳴らす。膝で歩いてドアを開け立ち上がれないと言うとストレッチャーに寝るように指示され、毛布をかけてもらって救急車で大きな病院に運ばれた。救急外来でこれまでのことを話し、車椅子に載せられて看護師に押されレントゲンを撮影した。初老の男性医師は「痛風の発作ですね。帰れますか」と言った。松葉杖を貰って二時間かけて家に帰った。一人暮らしの上実家とは600キロ離れているため頼ることは出来ず、友人にスーパーで買物をして貰いそれで凌いだ。もちろん痛風の発作ではないのだが、その時は「痛風ってこんなに痛いんだなぁ」という感想だった。

 その頃の僕はどこにも行く必要がない環境に置かれていたため、家でゆっくりと過ごしていた。痛みも数日で治まった。が、翌月またくるぶしの下の骨にアイスピックを刺され立ち上がれなくなった。痛みが治まってから大学病院へ行って整形外科でレントゲンを撮って貰うと中年の男性医師が苦笑いで「痛風じゃないよ。骨の異常です。近場の整形外科に紹介状を持っていってね」と言ったので、近所の整形外科に行った。

 整形外科医の治療は、毎日朝昼晩痛み止めを飲んで痛くなったらブロック注射のみでインソールを敷いて体重を減らせば治るとのことだった。土踏まずの数センチ上にブロック注射は痛すぎて苦痛で、痛み止めを飲んでも変化はない。体重も10キロ減らした。結局治ることはなかった。
 痛みが発生し痛み止めを打ち、また痛みが発生し痛み止めを打ちという不毛なやり取りを5年以上続けていたということになる。

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