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バーベルと遊ぶ男

先日、スーパー銭湯に出向いた。
サウナや水風呂をひとしきり堪能した後、
露天になっている岩風呂に、ゆったりと
浸かっていると、やたらと日焼けをした、
茶髪にピアスのスリムな男、(推定28歳くらい)と、
その後輩に当たると思わしき、小太り色白の男(推定25歳くらい)が、僕の浸かる湯船に入ってきた。
色白小太りは、「ザ・後輩」といった感じで、
その茶髪にピアスの日焼け男の云うことに、首がとれそうなぐらい大きく頷きながら、反応している。
僕の左となりに「日焼け」(先輩)、その向こうに
「色白小太り」(後輩)と座っている。
偶然、他の客たちも、みな、湯舟から出ていき、僕とその先輩後輩の3人となったおかげで、二人の会話がよく聞こえる。
「最近、また、ちょいとバーベルと遊んでるんだよねぇ。オレ。」と日焼け先輩。
すると、小太りの後輩が、
「え?じゃあ、また、ベンチプレスとかっすか?」
と、間抜けな反応をした。
そして、よせばよいのに、日焼け先輩を調子づかせるような質問を投げ掛けた。
「また、先輩のことっすから、エッグい重さ、やってるんっすよねぇ?」
アホ丸出しの日本語である。
そして、そのエッグい重さとはどれほどのものなのか。
僕もトレーニング愛好家である。トレーニング歴
30年以上、ベンチプレスは160kgを挙げられる。
「エッグい重さ」
とやらを挙げるという日焼け先輩の身体を見れば、
大体、どんなものか、察しがつく。
せいぜい、挙げられても、60kgがやっとだろう。
さあ、日焼け先輩よ、なんと答える。
「そうだなあ、まあ、久々だしな、でも、60kgくらいで今は遊んでるかな。」
ビンゴぉ~~~~!!
僕の目は節穴ではないようだ。
すると、それを聞いた小太りは、
「マジっすか?!ヤバくないっすか?!プロっすね!!」
一体、なんのプロだ。
60kgのベンチプレスなど、僕にとったらウォームアップにもならぬ。
一体、何の了見で、60kgのベンチプレスがエグいというのか。
「俺くらい筋トレやってるとさあ、バーベル挙げるとか、そんな感覚じゃなくなるんだよね」
と、日焼け先輩がいうと、

「え!?じゃあ、どんな感覚なんすか?」
と小太り。
「筋肉の収縮が俺の腕とか胸とか関係なしに勝手にやっちゃってんの!う~ん・・・なんかさぁ、わかりやすくいうと、会社立ち上げて独立した!みたいな。」 
と、言い放った。
筋肉が会社立ち上げて独立した?
訳がわからない。すると小太り後輩が、
「うわぁ~~、なんか、すげぇ伝わってきたぁ~」
と言うので、彼には筋肉の会社立ち上げは理解できるらしい。
そんなこんなで、とにかく、この茶髪の先輩の発する言葉は、一癖も二癖あって、聞いていてむず痒い。
そして、それをおだてる小太りの後輩。
ただ、この世知辛い世の中にあって、
こんなにも絵に描いたような
先輩後輩のありありとした形を残しているなんて、
なかなか素敵な二人に思えてきた。
先輩後輩文化を構成に伝えるべく、
この二人を無形文化財に認定してやりたい気分だ。
僕は、このように、お風呂ネタというか、銭湯ネタを書くことが多いが、
それは単純に銭湯によく行くということと、銭湯では、みんな裸、手拭い一枚の世界である。
実に様々な人間模様が、ぎゅっとつまっているからでもある。








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