生活保護世帯から東大で博士号を取るまで⑦

大学院入試

東大の他の大学院はよく知りませんが、東大数学科の院はかなり難関で、内部生でも半分落ちると言われています。

もし大学院入試に落ちてしまうと、留年するしかなくなり、そうすると授業料免除と奨学金は止まり、大学の寮は追い出されます。
そういう事態を恐れてだいぶ貯金していたとはいえ、流石に生活が成り立たなくなるでしょう。

だから院試の対策は十分行う必要がありました。
でも正直、大学受験の時ほどではないですが、これは不毛な勉強だったと思います。
この時勉強したことは、数学者になるためには大して役に立ちませんでした。

対策の甲斐あって、院試も無事合格していました。
数学を続けられるか否かの瀬戸際はもう何度も経験していましたが、全く慣れるものではありませんでした。

大学院での経済的支援

私が選んだ専門は「数論幾何学」というもので、数学でも屈指の勉強が大変な分野です。

数学の中でも例えば解析系なら学部卒業時には研究を始められるくらいの知識が備わっていると思います。
一方数論幾何では大学院入学後数年は勉強しないと研究ができるレベルに達しないと思います。

一方で、半ば英才教育のような恵まれた教育環境で育った学生は例外です。
そして東大数学科にはそういう「例外」が毎年何人もいます。
(そもそも日本の数論幾何学者のほとんどが東大か京大出身なのですが。)

大学院での経済的支援には大きく学振とリーディング大学院というものがあります(近年はもう少し増えてきているようですが)。
これらを勝ち取るには「例外」の人たちも含めた優秀な同期と競争し、勝たなければなりません。

学振というのは学術振興会、または学術振興会による公募のことです。
これは博士課程から給料(月20万円)をもらうことができます。

リーディング大学院というのは大学が院生に給料(金額は学振に準じる)を払うシステムで、修士課程から給料をもらうことができる仕組みです。
こういうことができるのは東大のような大きな大学だけで、これも東大に進学する大きなメリットです。

再びアルバイト漬けにならずに生活をするには、これらに採用される必要がありました。
学振の方は採用率20%で、それなりの難易度があります。

(数学科の)リーディング大学院の方は、例年なら博士課程進学希望者は大体カバーできるくらいの募集人数があります。
しかし私の代は予算の切れ目だったようで、募集者数が例年の半分かつ応募できる研究科が倍以上になったので、かなり厳しい戦いになりました。

私の代の数論幾何専攻は確か7人いましたが、そのうちリーディング大学院を獲得できたのは2人だけでした。
幸運にも私はそのうちの1人でした。

さらに学振(DC1)も獲得することができました。
学振には科研費(研究者の使える経費)もついてるので、これを使って国内外に出張することもできました。

とても偉い数学者による講演の様子

実は諸外国の大学院では授業料を払う必要がないどころか、むしろ院生に給料が出るのが普通です。
いまだに、なぜ日本ではそうでないのかよくわかりません。

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