バナナのワルツ
そういえば、ついこの間、ガムテープで壁に貼り付けられたバナナが620万米ドルで落札されたらしい。ドルで言われてもピンとこないので、今日のレートでGoogleに換算してもらった9億万円以上もするらしい。
今日のレートだと1ドル149円だが半月前だと156円。半月で4,340万円も値段が変動したことになる。おそろしい・・・。
そしてこの記事を公開する頃にはまただいぶ違うレートになっていることだろう・・・
などと、円相場に一喜一憂するのはこの辺にしておいて、実際に落札者が受け取ることになるものというと、バナナ、ガムテープのロール、作品証明書そして作品設置のための指示書であるそうだ。
1週間ないし10日に一回バナナを交換することが必要であるらしい。
交換しおわったバナナは食べていいのだろうか。。
バナナ好きの筆者としてはそればかりが気になる今日この頃であるが、バナナの金額が上昇傾向にあるインフレの今日この頃はさておき、現代アートの歴史上、生の果物が作品として展示されたのはこれが初めてではないらしく、オノ・ヨーコ初のロンドンにおける展示会において展示されていた林檎をジョン・レノンが食べてしまったことから2人が出会ったとされる(諸説あり)のが1966年のことらしい。
オノ・ヨーコといえば、昔、地元の図書館で、彼女の「グレープフルーツ・ジュース」という面白い本を見つけたことがあって「想像してご覧・・・」なみの一種、
詩的な指示がシンプルに羅列されてあるだけのその内容に衝撃を受けたというか、意味がよく分からなくどう反応してよいのか困った記憶があるのをよく覚えているが、例えば誰かに「それはきっと昨日見た夢の話さ」と言われれば「多分きっとそういうことなんだろう」と納得してしまうくらいには遠い昔の話ではある。
ギャラリーに置かれた林檎にしてもガムテープで壁に貼り付けられたバナナにしても、あるいはグレープフルーツ・ジュースと名付けられた紙の集積にしても結局「作品は頭の中にあるよ・・・」ということなのだろうか。
無性に果物が食べたくなってきた。
いわば指示書だけで何百万ドルとはすごい世界だな・・・と思いつつ、指示書が作品として流通しているという点で似ているかもしれない、と自分が連想したのは楽譜である。
今年ショパンのワルツが新たに発見されたというニュースもあった。48小節の短い作品であるが、なんだか本当に心を鷲掴みにされる切ないワルツである。
ショパン直筆と思われる原稿が発見されたそうなのであるが、筆跡分析の結果どうやら本物らしい、というのが専門家たちの意見ではあるらしい。
そして何よりも素晴らしいのがこの新発見のワルツ、本当にいい曲だってこと。是非是非聞いてみて欲しい。頂きたい。
(例えばラン・ランの演奏がこちら)
うん、何度聞いても。切ない。美しい。短い。
もうここまでくると、この曲が本当にショパンが書いたものなのか、というのは実はどうでも良くなってくるくらいであるが、もっと長くても良かったんじゃないか、というくらいいい曲だ。うん、もう少しだけ長くてもいいと思う。
とはいっても、この曲の直筆原稿を売ったり買ったり所有したりする人にとってみれば真贋の差はガムテープのバナナの場合と同じくらい大事な問題かもしれないが、音楽を聴きたい私として何より大事なのは「音楽が心に迫ってくるか」ということと「もう少し長かったらもっと浸れたのにな・・・」ということである。
短いだけに切なさが5割り増しくらいになっているのが何よりも美しいのである。
さて、サービスを提供する側としてお客さまと対峙することの多い筆者として、ガムテープで貼り付けられたバナナとショパンの新発見ワルツで考えさせられたことがある。
自分の対応はショパンのワルツの場合のようにわかりやすいだろうか?お客様にとって「サポートを受けた良かった」と理屈ではなく感情的にも納得できるものだろうか?ということ。
もちろんガムテープのバナナにはそういったものを必要とするマーケットがあって、そうしたものを売る人たちと購入する人たちの目的がある。そしてアートの専門家であれば作品の意味がそれこそ感覚的にピンとくるということもあるのかもしれない。
それでも、少なくとも自分にはそれが数億円もする理由を専門的な言葉で解説されてもイマイチ納得感がないし、というよりもアートの専門的な言葉をきちんと理解できるわけでもない。
例えば自分の好きなピアニストのコンサートをものすごい楽しみにしてたのに、実際に行ってみたら「よく分からないのにバナナを数億円で買わされた」みたいな気分にはなりたくない、ということだ。
似たような思いをさせないような誠実な対応を心がけていくことが何よりも必須なのだな・・・と。思った次第である。
書いた人:酒井
ITエンジニア。C++, VB, C#などを使ったプログラミングをシステム開発会社で10年間以上経験した後、ロケットスタートに転職。kintoneのカスタマイズはじめロケスタのIT部分に幅広く携わる。