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【短編小説】藍に染める #1

「さんさ踊りか、もう10年近く行ってないや」

地元盛岡の高校を卒業し、地元の同じ大学・同じ学部に進学した、私と藍くん。彼のこの一言で、今年の夏はいつもとは違うものになる予感がした。

高校1年生の時、同じクラスだった藍くん。出席番号が近く、部活も同じ陸上部だったこともあって話すようになった。

初めの頃は業務連絡といった類いの最低限の会話しかしていなかったけど、時間とともにだんだんと打ち解け、「クラスの他の女子たちと比べればよく話す方」という関係性になったが、その頃には進級、つまり文理を分けたクラス替えが待っていた。

藍くんは頭のいい人だから、きっと理系ですごい難関大学とか行くんだろうなと勝手に想像していたら、まさかの私と同じ文系クラス、進路も同じ県内の国立大学と言うことが判明。

3年生になっても同じクラスのまま受験シーズンを迎え、ついに2人とも現役合格、晴れて同じ大学の同級生となってしまった。

私らの関係は、端折るとこんな感じ。

同級生となってしまった、とは言ったものの、内心めちゃくちゃ喜んだ。正直に言うと、卒業後に彼と離ればなれになってしまうのが寂しかったのだ。

彼は交遊関係がマメではないあっさりタイプ、卒業してバラバラになったらもう会えなくなるんじゃないかと怖かった。


私は、男女の友情は成立すると信じる派だ。


そして、彼と私の間にはそれが成り立っていると証明したかった。決して恋愛には発展しないだろうから、せめて「異性の中では一番気軽に話せるやつ」ポジションでいたかった。

もし、絶対にありえないだろうけど、万が一にも友情以上の発展があったとして、それはそれでありがたいことだと思う。

彼は運動神経よし、頭脳明晰、高身長でスタイル抜群、クールな性格ではあるけれどきちんと気遣いができる人。つまり、ハイスペックすぎるのだ。少女漫画かよ。

そんな君と、と考えるのもおこがましい。せめて「友人枠」で仲良くさせてもらえれば充分。

そんな思いを密かに抱え、大学1年の春を迎えた。

同じ高校からこの大学に進んだ人も何人かいたようだが、学部が違うこともあって顔を合わせることはほとんどなかった。

学部に関わらず、入学直後は必修のガイダンスなんかもあるそうだが、実際の授業が始まってからは良くも悪くも「自己責任」という感じらしい。

大学というのは自由なもんで、受けたい授業はだいたい自分で決められる。

藍くんとは、たまに学内で会えたらいいなぐらいに思っていた。

ところが、彼が高校の頃よくつるんでいた友達はみな県外の大学に行ってしまったせいか、初日のガイダンスからなんだかんだで一緒に過ごすことが多い。というか、向こうが勝手についてきたといった方がいいかもしれない。


藍くんから、こんなLINEが来ることもあった。

「明日のガイダンス、場所どこだっけ?」

しっかり者の彼のことだから授業の場所が分からないはずないのにな、と思いつつも、頼ってもらえることが嬉しくて、満更でもない気持ちを抱えながら返信する。

「A棟2階の講義室だよ」
「何時ぐらいに行く?」
「10時半から始まるから10時過ぎかな」
「了解」

こんなやり取りをした翌日、私はチャイムギリギリに講義室へ滑り込んだ。

室内は既に多くの学生で溢れている。空いてる席を探そうとしたら、右手に持っていたスマホが不意に震えた。「左側」とだけ書かれた唐突なLINE、そちらをみると見慣れた顔と目が合う。

後ろから2番目の端の席を2人分確保していてくれた彼は、「やっぱりね、こんなことになると思ったよ」と、私を小馬鹿にしたように笑っていた。

「君っていつもそうじゃん、遅刻はしないけどギリギリ。早めに来るって言ってほんとに早かったことあったっけ?だいたい予想つくよ。ハイこれ、出席カード取っといたから」

この皮肉屋め…と思ったものの、誰もがこういう会話をできるわけではない。周りに座っている女の子とは絶対話さないもんなぁと微かな優越感に浸りながら、ガイダンスの時間を過ごしていた。

#2 に続きます



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