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2−2 笑わないアイドルが愛に出会い、愛を信じた 「世界には愛しかない」

「笑わないアイドル」として印象的なデビューして約4ヶ月後の2016年8月10日、2nd single 「世界には愛しかない」を発売した。MV撮影は全編北海道で行われている。


 冒頭4小節はピアノだけが鳴り響き、マイナーコードが際立っている。4小節目ではフェルマータが入り、センターの平手が叫ぶと同時に曲名が映し出される。この時は学生服を着ている。そして、学校で使用されている木製の椅子が並んだ体育館に平手一人でいる。手を伸ばし何かを掴み取るような仕草をしている。窓から差し込む光が強く白光りしているが、差し込んでいる場所以外は暗いので体育館の電灯は付いていないと推測できる。フェルマータの後アウフタクトで始まる前奏の続きではテンポも上がり、ピアノ以外の楽器の音も入りビート感が生まれる。テンポが上がってから、最初に学生服を着た男性がドラムとギターを教室で演奏しているカットが出てくる。メンバー以外、そして男性のエキストラが登場するのは初めてだ。


 ここで、他の曲では出てこないが”ポエトリーリーディング ”が出てくる。ポエトリーリーディングは本楽曲の最大の特徴である。作詞をした秋元康は「女子高の演劇部みたいなものがあったら面白いんじゃないかというイメージ」があり、レコーディングにも立ち会いアドバイスをしたそうだ。また、今回ポエトリーリーディングをしているメンバーは全員がフロントメンバーというわけではない。メンバーにディレクションするために、ポエトリーリーディングから始まるそのニュアンスを直接伝え、なぜこういうことをやるのか・どういう言い回しなのかということを理解してもらうために実演してもらい、誰がどこを歌うか決めたとインタビューで話している。


 最初のポエトリーリーディング は平手が行なっている。        

「歩道橋を駆け上がると、夏の青い空がすぐそこにあった。絶対届かないってわかっているはずなのに、僕はつま先で立って思いっきり手を伸ばした。」

この一節の中に曲に関する多くの情報が含まれている。まず、「夏の青い空」というワードから季節が夏であり、リリースのタイミングと合っているため聞き手がより引き込まれやすいということだ。今後も多くの夏だと読み取れる季語が含まれている。その次に。主人公が「僕」であるということだ。前作に続き主人公が「僕」であることから、同じ人物の可能性が浮上してくる。このP1で平手が話しているのは体育館で、前奏の続きと思われる。フレーズ最後の「手を伸ばした」で実際に太陽に向かって手を伸ばしているカットが入る。この曲も前作同様、言葉と動きがリンクしていることがこの時点ではわかる。


 続いての歌唱部分も平手のみが歌っていることからMVも平手のソロカットが中心に作られている。今度は前奏で一瞬出てきた中庭のようなところでのカットだ。フレーズの間の1小節間に前奏であった教室で楽器を弾いている男子生徒のカットが入ることで、アイドルの印象よりも高校生の印象が強く残る絵となっている。


 2個目のポエトリーリーディング では本楽曲で初選抜を飾り、また、本楽曲リリーズ活動時から漢字欅とひらがなけやき兼任となった、2列目の長濱ねるが務めている。                           

「真っ白な入道雲が黙々と近づいて、どこかで蝉たちが一斉に鳴いた。太陽が一瞬怯んだ気がした。」

とあるが、ここでもまた「入道雲」「蝉たち」と夏の季語が入っている。体育館で立ち、手振りをつけながら体でも表現している。「鳴いた。」の後の空白からは渡辺梨加のカットに変わる。梨加の表情が映ったあと、映し出されるキャンパスには草原と風車が描かれており、それはのちに出てくる場所を連想させる。


 3個目のポエトリーリーディング は2作連続でフロントの今泉佑唯が務める。先ほどの長濱のカットでは後ろで座っていた今泉が、自身の出番の直前で立ち上がり、

「複雑に見えるこの世界は 単純な感情で動いている。」

と話す。長濱同様、手振りをつけ言葉を体でも表現している。


 次ではこれまでにポエトリーリーディング を行なった平手・長濱・今泉の3人が体育館で歌い前で踊る。初めてここで21人全員が画面に映る。歌い踊る3人以外は後ろで座っている。「いつだろう?」の後の1小節ではっきりとは顔が映らないがここでも男性が登場している。そしてその後すぐにまた体育館のカットに戻る。そして「忘れてる」を歌い終わってすぐ、フロントの渡邉理佐の中庭でのソロカットが少しの時間入る。この部分の歌詞は「最初に秘密を持ったのはいつだろう? 大人はみんな嘘が多すぎて忘れてる」となっている。最初の文では、僕が昔を振り返っているような、自問しているような言葉になっている。次に出てくる「大人」だが、後に続く「みんな嘘が多すぎて忘れてる」という言葉からあまり良く思っていないことが伝わる。前作に登場した「大人」と同じような人たちを指しているように感じる。


 サビ前では「通り抜ける風が 僕に語りかける もう少ししたら夕立が来る」と、また「夕立」という季語が入ってきている。ここの部分は前作でも使用されていた倒置法を用いている。入れ替えると「通り抜ける風がもう少ししたら夕立が来ると僕に語りかける」となる。夕立前の独特の風が吹き、それを教えてくれているというニュアンスだろうか。MVではまた体育館のカットに戻る。「通り抜ける風が 僕に語りかける」の部分では本楽曲でフロントの5人が前で踊り、2列目・3列目のメンバーは後ろで踊っている。フロントメンバーはステップを踏見ながら前進しているのに対し、2列目・3列目のメンバーは腕や手は踊り、ステップは踏まずに拍に合わせて歩いて前に出てフロントメンバーとの距離を詰めている。「もう少ししたら」からは全員が同じ動きを行っている。


 1番サビ2拍前から体育館から風車と草原のカットに変わり、また、メンバーが身につけているものが学生服から本楽曲の白の制服衣装に変わっている。学校でのシーンでは学生服を、外の草原のシーンでは制服衣装を着用し場面とともに服装も切り替えている。「世界には愛しかない (信じるのはそれだけだ)」は草原でのカット、制服衣装で走り抜けるメンバーがいくつかのアングルで撮られている。次の、「今すぐ僕は君を探しに行こう」の4小節間は体育館のカットに戻る。「君を探し」のシンコペーションのところで、右手を胸の前で前作に使用されたサイマジョポーズをしている。次の「に行こう」4拍では実際に走るようは振り付けになっている。この部分の歌詞で、主人公「僕」の相手が「君」であることがわかる。「誰に反対されても (心の向きは変えられない)」では再び草原のカットになる。ここではフォーメーション通りに、等間隔に並んだメンバーが踊っている映像が流れる。ここの歌詞にあり「誰」が具体的には示されていないが、A’で出てきた主人公「僕」と敵対関係にあるのが「大人」だとだとすれば、ここの部分も敵視している「「大人」に反対されても」という意味になり自然に感じ取れる。「それが(それが)僕の(僕の)アイデンティティー」では再び体育館のカットが主に使用されている。「僕の(僕の)」のところで渡辺が下駄箱にいるソロカットが入るがこの時点ではどのようなつながりがあるのかは不明である。そのカットの後、体育館に戻った時に再び胸の前で右手でサイマジョポーズをしている。そして、ここで本楽曲初めてカタカナ語である「アイデンティティー」が出てきた。アイデンティティーとは自己同一性という意味で、簡単に言い換えると自分らしさということができる。ここまでで、前作同様「他人に左右されない自分らしさ」を訴えかけているように感じ取れる。


 間奏では下駄箱にいる梨加の後ろ姿、廊下を走り抜ける理佐の後ろ姿、教室で生徒が座っている後ろ姿の順に左から右へと映像が流れ移り変わる。そして、教室で生徒が座っている後ろ姿の最後に一人が立つ。その後、野球のユニフォームを着た男性がボールをバットで打つカットが入り2番へと入っていく。


 4個目、2番の頭に出てくるポエトリーリーディング は前作ではフロント、本楽曲では2列目にいる鈴本美愉が行なっている。間奏での教室のカットの続きで、立ち上がった鈴本が

「空はまだ明るいのに、突然雨が降ってきた。僕はずぶ濡れになりながら、街を走った。」

と教科書を持ち、音読しているかのようにポエトリーリーディングを行なっている。教室全体はくらいが、窓から太陽の光が差し込み、その光が当たっている場所だけが明るい、不思議な空間が生まれている。「僕はずぶ濡れになりながら」の部分では複数の生徒が明るいが雨が降っている中走っている、ポエトリーリーディングの内容通りのカットに切り替わっている。


 続く5個目のポエトリーリーディング は2作連続で2列目の菅井友香が務めている。立ってポエトリーリーディングを行なっている鈴本の右斜め前の席で、座ったまま顔をあげ

「夕立も予測できない未来も嫌いじゃない。」

とポエトリーリーディングをしている。その表情は微笑んでいて、主人公の「僕」の明るい一面が垣間見える。


 ポエトリーリーディング が終わり、2番の最初の歌唱部分では本楽曲で特徴的な傘を使ったダンスシーンが使用されている。また、1番の最初同様ポエトリーリーディングを行なったメンバーのみが歌唱・ダンスをしている、ここでは鈴本と菅井の2人が前で閉じた傘を持ちダンスしている。他のメンバーはその後ろで傘を広げクルクルと回し壁のような背景を作っているように見える。また、全員が水色の傘を持っているため、広げ回し作っている背景が青空を錯覚させる。またその途中で下駄箱で野球部員と本楽曲でフロントの志田愛佳が2人でいるところに、玄関を出てすぐの柱の陰に隠れて傘をさし暗い表情でいる鈴本がいるカットが入る。そして、この部分の歌詞は「最後に大人に逆らったのはいつだろう? あきらめること強要されたあの日だったか…」となっている。1番の「最初に秘密を持ったのはいつだろう? 大人はみんな嘘が多すぎて忘れてる」に対して、最後であり、逆らったということは秘密ではなく表立っている出来事である。1番と2番で反対のことが書かれている。ここで唯一同じことをあげると、主人公「僕」と敵対関係にあるのが「大人」であることだ。「みんな嘘が多すぎ」「逆らった」「強要された」と大人に対してマイナスな言葉が並んでいるところは共通している。そして、ここの最後は、教室のカーテンが風邪で膨らむカットで締めくくられている。


 2番サビ前の前半の歌詞は「アスファルトの上で雨が口答えしてる」と擬人法を用いている。アスファルトに打たれる雨粒を、大人に口答えし反抗自分にたとえているのではないだろうか。後半の歌詞は「傘がなくたって走りたい日もある」となっている。理由もなく、行動したい時もあると言いたいのだろうか。ここのMVはまず、教室でみんなが同じ方向を向き、驚き衝撃を受けたような表情をしたり、逆に顔を背けたりしている中、立っている鈴本は表情を変えず一点を見つめている。その方向にいるのは、さっき下駄箱のシーンで登場した志田だ。みんなが向いているのが志田の方向であれば、すぐ後ろに窓がある志田は1人だけ逆の教室の中の方を見ている。志田と鈴本はお互い見つめ合っているのではないだろうか。そんな鈴本の腕を取り、今泉が教室から連れ出し、2人は走りながら玄関・中庭を通過していく。2人が走り去っていった中庭の後ろには平手が1人で佇み、2人が走っていった方向を見ている。


 2番サビでは「未来には愛しかない (空はやがて晴れるんだ)」と雨が降ってもやがて晴れることから、今は辛くても未来は晴れる、未来には希望や愛に溢れていると訴えている。次の「悲しみなんてその時の空模様」では変わりやすい夏の空模様を悲しい気持ちもすぐに変わる、立ち直れるとポジティブに伝えている。MVでは「未来には〜悲しみなんて」では体育館で閉じた状態の傘を持ってダンスをしている。「その時の空模様」では屋上で理佐が1人で立っているカットになる。そのカットも空は夕空で、夕立が止んだことを意味しているようにみえる。後半の「涙に色があったら (人はもっと優しくなる)」は僕の願望だろうか。人の感情はそこまでわかりやすいものではない。そして、みんな口に出さず1人で戦っている。みんな素直になれたら、もっと優しくなるのにな…という主人公「僕」の願望的考えが出ている。次の「それが(それが)僕の(僕の) リアリティー」では「リアリティー」というカタカナ語が登場する。直訳すると「現実」である。ただ、直前の節では願望を語っている。この2番サビ最後の「リアリティー」は単なる現実を指しているのではなく、主人公「僕」の今の考え、今の願望という意味での「リアリティー」であると考えると自然な意味合いになるのではないだろうか。MVでは体育館でのカットが続く。後半「涙に〜」の3拍目で円を描き並んでいるメンバーが持っている開いた傘を後ろに投げ、前進し真ん中に集まりダンスを踊る。振り付けは1番のサビと変わらない。「僕の」のところの理佐のソロカットではサイマジョポーズが取り入れられているのがわかる。変わるのは最後の「リアリティー」で腕を広げると同時に全員が180度まわり円の外へと歩き出すところだ。


 ここの間奏では教室を飛び出した今泉と鈴本が学校を飛び出し、橋を走り抜けている様子が撮られている。距離感と公式のブログの情報からドローンを使った空撮を行っていると考えられる。その次に出てくる理佐のソロカットは2番サビで出てきたカットの続きと考えられる。涙を拭っているのが印象的だ。


 次の歌詞は「君に逢った瞬間 何か取り戻したように 僕らの上空に虹が架かった」となっている。まず、「逢った」とこの字使っているということは、僕と君は男女である可能性が高いと読み取れる。そして、「虹が架かった」ということは4番目・5番目のポエトリーリーディング で降り出した夕立が止んだことを指すのではないだろうか。このことから、この曲は1日の天気の移り変わりを時系列で示しているのとともに、その天気の移り変わりに合わせて主人公「僕」の心情の変化も表しているのではないかと推測できる。MVでは「君に〜上空に」までは体育館でそれぞれが歩き身振り手振りを加えながら歌っているカットが続き、「虹が架かった」では夕焼けの中の草原と風車の絵が入る。


 ラスサビは1番サビと歌詞は変わらない。MV最初は制服衣装を着用した草原のシーンになる。足のステップはなく、腕を広げたり胸に手を当てたりして表現している。「今すぐ僕は君を探しに行こう」では体育館で学生服を着て、草原のシーンとは変わりステップも含めダンスをしている。それ以降は草原で広がり、制服衣装でダンスをしている。これもドローンを使って空撮している。


 この曲の締めくくり、6個目のポエトリーリーディング は、唯一2回ポエトリーリーディングをする平手が務める。MVでは「全力で走ったせいで、息がまだ弾んでた」体育館で学生服で平手のソロカット、「自分の気持ちに正直になるって清々しい。」からは草原で制服衣装を着ているカットに変わる。「自分に気持ち〜清々しい。」のところは平手だけ前に出ており、全員で前に歩いてくる中で後ろのメンバーは平手との距離を詰めている。「世界位は愛しかないんだ。」ではフォーメーションの基本体制である3列になり、平手も列に加わっている。そして、最後には、2回目のポエトリーリーディング で出てきた草原と風車が描かれているキャンパスが映し出される。2回目のポエトリーリーディング の段階で出てきた絵と最後の絵を比べると、2回目のポエトリーリーディング の段階では暗い部屋で書いている途中だったが、最後に出てきた時は明るく光が差し込んでおり、よく見ると絵には書き足された場所があって完成しているようにみえる。この絵の完成も僕の心情の変化を表す、本楽曲のMVでの大切なものの1つだと感じる。
歌詞を見ると、

「全力で走ったせいで、息がまだ弾んでた。自分の気持ちに正直になるって清々しい。僕は信じてる。世界には愛しかないんだ。」

とある。ラスサビ前の間奏前半までで今泉と鈴本が教室を抜け出し走っているシーンがあり、この曲で主人公「僕」を表現しているのはセンターの平手だけではないと考えられる。君がいるおかげで「僕」は自分に正直になれた。そのことによって、「僕」の世界には敵対関係である「大人」以外の「君」という存在が生まれ、愛という見えないものを信じるようになったのではないだろうか。


【フォーメーション一覧】
(1列目 5名、2列目 6名、3列目 10名 計21名)

せかあい


※長濱ねるは本楽曲リリース活動から、欅坂46(漢字欅)とけやき坂46(ひらがなけやき)の兼任が発表され、2グループでの活動をスタートさせる

【参考資料】
https://www.keyakizaka46.com/s/k46o/diary/detail/3839
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO07173510T10C16A9000000/
https://youtu.be/83vyrFFjiqQ