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芸は身を助ける

甲子園が中止になったそうだ。甲子園に出るために、高校三年間ずっと練習を頑張っていた高校球児の心情を考えると、辛い。学生時代に一生懸命取り組んだことは、その後の人生に影響する。
そんな私が高校三年間、青春を捧げたのはアナウンスだった。

高校時代、私は放送部員だった。放送部には、学校行事のアナウンスや音響といった校内向けの活動もあれば、アナウンス、朗読、テレビやラジオ番組等のコンテストに出場することもあった。私はテレビドラマの脚本を書き、監督を務めたこともあるが、何より力を入れていたのは読むほう、アナウンスであった。アナウンスは、学校や地域の興味深いネタ探しから始まり、それをニュース原稿にし、安定した発声と明瞭な活舌で聴衆に情報を伝える。入部したての頃、私は朗読をしたかったのだが、先輩の薦めでアナウンス組に入れられ、意外とそれが評価されてしまって、三年間どっぷりアナウンスに浸かってしまった。褒められるとやめられなくなる質なのもあるが、次第にその奥深さや面白さにはまっていき、勉強そっちのけでアナウンス技術の向上に精を出していた。
それだけやったなら将来はアナウンサーもしくは放送業界で働くのかと思いきや、私はアナウンスとは無縁のごく普通の会社員になった。非常にリアリストな私の人生の選択であった。アナウンサーのような華やかな仕事は私には向いていない、きっとやっていけない。それに褒められるのが心地よかっただけで、仕事にしたいと思うほど好きなことではなかった。そう思い、私は青春を捧げたアナウンスをあっさりと捨てた。

アナウンスとは全く無縁だった私であるが、先日、会社の電話のトーキーの音声を私の声が務めることになった。在宅勤務により電話に出られないことをお知らせするトーキーで、自宅でひっそりと収録した。上司からは「これは経験者の仕業・・・」とお褒めの言葉をいただいた。
高校時代、アナウンスやってて良かった。

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