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#103 和紙の王道!コウゾ紙について解説!

『紙について楽しく学ぶラジオ/Rethink Paper Project』
このラジオは、「紙の歴史やニュースなどを楽しく学んで、これからの紙の価値を考えていこう」という番組です。
この番組は、清水紙工(株)の清水聡がお送りします。
よろしくお願いします。

和紙の三大原料と言えば、「雁皮(ガンピ)」、「三椏(ミツマタ)」、「楮(コウゾ)」です。
雁皮と三椏は、以前の放送で取り上げましたね。
今回は、和紙の三大原料のひとつ「楮」について解説していきたいと思います。
和紙と言えば「楮」です。王道中の王道。
春といえば桜、山と言えば富士山、スラムダンクと言えば桜木花道。これと同じように、楮なくして和紙は語れません。
日本において最も歴史の古い紙であり、メインストリートの紙でもあります。
今回は、楮とはそもそも何なのか?というところから、楮の歴史、そして楮の今に至るまでギュッと詰め込みます。
その特徴ゆえに、意外な歴史をたどっていたりします。
それでは、行きましょう。

和紙の王道!コウゾ紙!

楮の最大の特徴、それは、繊維がハンパなく長い。これです。
だいたい10~15mmと言われています。そんな言われてもピンとこないですよね。
耐久性抜群と解説させていただいた三椏の繊維が4~5mm程度ですから、だいたい2~3倍ということになります。
とにかく、エグい長さということが分かっていただけたらOKです。
だから、楮紙はめちゃくちゃ強いんです。
試しに楮紙を両手で引っ張ってみてください。その強さが分かると思います。

楮紙は、障子紙とか、襖紙版画用紙照明など、ありとあらゆるものに使われています。
特に、版画用紙は、印刷の時に何回もこするので、強度が求められます。
だから、今でも版画アーティストからは、楮紙が重宝されているんです。

楮ってどんな植物?

そんな、「繊維がハンパなく長い」でおなじみの楮ですが、そもそもどんな植物?ということについて解説していきたいと思います。

楮は、カジノキ属の植物です。
カジノキ属には、「カジノキ」、「ヒメコウゾ」、「ツルコウゾ」の3種類の植物があります。
紙漉きで使われる楮は、「カジノキ」と「ヒメコウゾ」の雑種という説が有力だそうです。
ちなみに、現在では、こうやって詳しく分類していますが、昔は、「カジノキ」も「コウゾ」も分類されていなかったようです。

紙と関係がない雑学ですが、楮の木には果実が成るんですが、これ、食べられるそうです。
どんな味か、興味がありますよね。
ちなみに、三椏にはきれいな花が咲きますが、毒があるので、絶対に食べないでくださいね。

紙が伝わる以前から使われていた

そんな楮は、三大原料の中で一番早くから使われています。
というより、紙が日本に伝わる以前から、使われていたみたいなんです。

何に使われていたのか?
紙が漉かれる以前は、布の材料として使われていたそうです。
なんと、あの『日本書紀』にも、楮の皮で布をつくる神様が記されています。
そんな昔から使われていたんですね。
この楮の皮を織って布にしたもの「太布(たふ)」と言います。
この「太布」は、めちゃくちゃロングセラーでして、江戸時代に木綿が普及するまで、全国的に織られていたそうです。
そして、現在でも、この楮の皮から布を織る「太布」の技法が残っているんです。
徳島県の「阿波の太布(たふ)製造技術」
こちらは、国の重要無形民俗文化財に指定されています。
こうやって技術がしっかり繋がっている。最高ですね。

このように、「太布」というのは、楮の皮をそのまま織るので紙とは言えないですが、一旦紙にしたものを布にするパターンもあります。
これは2種類あって、1つは「紙子(かみこ)」で、もう1つが「紙布(しふ)」です。
順に説明します。

まず、「紙子」
これは単純で、漉いた紙をそのまま布として利用します
漉いた紙をそのまま服にしていたそうですよ。
この「紙子」は、特に、江戸時代に文人や茶人に愛用されていたようです。

それから、「紙布」
これは、漉いた紙を細く切ってから糸(紙糸)にして、その糸を織って布にします
この「紙布」、実は今でも結構あります。
紙糸でできた服とか、靴下とか、割と多いので気になる方はチェックしてみてください。

いずれにしても、こうやって布として使えるのは、めちゃくちゃ強い楮ならではですね。

生産者減と輸入のはじまり

そんな昔から重宝されてきた「楮」ですが、現在でも国内に産地があります。
茨城県、高知県、新潟県、宮崎県、岐阜県などがそうです。
特に、茨城県の「那須楮」は、最高級原料として知られています。

しかし、昔と比べると、生産者・生産量ともに激減しているのが現状です。
昭和40年3,170トンあった生産量も、令和元年には、わずか36トンとなりました。
エグい減り方ですね。

生産量が減っていく中、昭和50年になると、タイ産の楮が輸入され始めます。
その後、ベトナムフィリピン中国などからも輸入が始まります。
ちなみに、中国産の楮は、日本の優良な苗を持ち込んで栽培しているため、国産の楮に引けを取らない品質だそうです。

そして、外国産の楮は、国産のものに比べて安い
一応補足しておきますが、僕は、外国産の材料を全く否定していないですし、むしろ、「ありがとう、外国産楮」と思っています。
なんなら、外国産楮がなかったら、今の和紙文化は確実にないと思っています。

じゃあ、国内の楮農家さんが潤っているかというと、全然そんなことないんです。
むしろ、逆なんです。
楮は、野生の鹿とか猪に荒らされる被害が多く、せっかく育てた楮がこれですべて台無しになる。
しかも、ちゃんとした値段で売れるかというと、そうでもない。
そうしてやめていく方が多いんですね。
これが、現状です。
皆さんにも、こういう現状があるということを知ってもらえたらうれしいです。
個人的には、文化としてちゃんと残っていってほしいと思いますし、何より、生産者さんたちがしっかりと続けていける環境が整うことが出来たら良いなぁと思っています。

はい、今回は以上となります。
本日も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

<参考文献>
『ものと人間の文化史181・和紙植物』/著者:有岡利幸/発行社:一般財団法人法政大学出版局

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