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『稲盛和夫一日一言』 6月3日

 こんにちは!『稲盛和夫一日一言』 6月3日(月)は、「大胆に構想する」です。

ポイント:前例のないことに挑戦する際には、自分の中に「できる」という確固とした思いがあり、すでに実現しているイメージが描けるならば、大胆に構想を広げていくべき。

 2001年発刊の『京セラフィロソフィを語るⅠ』(稲盛和夫著 京セラ経営研究課編/非売品)の中で、楽観的に大胆に構想することの大切さについて、DDI(現KDDI)が携帯電話事業に参入することを決めた際のエピソードを示して、稲盛名誉会長は次のように述べられています。

 「大企業には真に創造的なことはできない」とよく言われます。資金力もあり、優秀な技術者もたくさんいるわけですから、新しいことをやろうと思えば、大企業の方が断然有利なはずです。それなのに、ベンチャービジネスを生み出せないのは、そこに頭がいいだけの人間しかいないからです。

 そのような人間がいくら集まって議論をしたところで、それがどれほど難しいか、どれほど無謀なことかをまず考えてしまい、どうしたらそれができるのかという、障害を克服するための方法を考えるところまで議論が至らないないため、結局「できない」という結論になってしまうのです。
 つまり、大企業では、最初の構想を練るときに悲観的に考え、否定的な意見ばかりが先行するので、新しいことがなかなかできないというわけです。

 DDIの創業間もないころ、携帯電話の前身である自動車電話事業について新規参入を認める、という話が郵政省(当時)からあがってきました。
 当時の自動車電話は、大きな送受信機がトランクに積んであり、受話器が社内に設置してあるというものでした。また、通話料金も非常に高く、大企業の重役でもないかぎり、使うことのできないようなサービスでした。

 京セラはIC用パッケージを全世界に供給していましたから、私はICの進歩を目の当たりにして、次のように確信していました。
 「このままICが小型化していけば、大きな送受信機もやがて小さなICとなり、受話器に内蔵されるようになる。そうすれば普及が進み、何年か先には、必ず携帯電話の時代が来るはずだ」。

 そのため、自動車電話事業が解禁されたとき、いの一番に「DDIがやる」と名乗りをあげたのです。ところが、DDIの役員会では、森山社長以下、全員が私の意見に反対したのです。
 「会長、それは無謀です。あのNTTでさえ、またアメリカの通信会社もまだ赤字を出し続けている事業ですよ」と言う。まさにネガティブな意見ばかりが次々と出てきたのです。

 
 「DDIはまだスタートを切ったばかりです。長距離電話用の回線を敷くためのパラボラアンテナを設置する作業だって半分しか終わっていません。本当に開業できるかどうかも不安な状況です。
 まだ営業も始まっていないというのに、さらに新しい事業をやろうだなんて、無謀もいいところです」。

 ところが、皆が猛反対するなかで、一人だけ「いや、会長が言われる通り、それは面白いと思います」と言った者がいました。彼はいくぶん楽観的で、よく訳が分かっていないようではありましたが、皆から総スカンを食っているところに、一人でも援軍がいたわけですから、私もうれしくなって、「みんなが反対してもいい。俺とおまえの二人でやろう」と言いました。

 多数決で決めれば、私の案は否決されていたかもしれませんが、DDIの携帯電話事業は、こうしてたった二人で「やろう」と言ったことから始まったのです。しかし、着手してからは、最初に手をあげた楽観的な人間だけでは不安でしたので、反対した役員にも手伝ってもらい、一緒に事業を進めていきました。

 このように、新しいことを成し遂げるまでにはさまざまなプロセスがあり、それに見合った人材を配していかなければならないのです。(要約)

 2015年発刊の『稲盛和夫経営講演選集 第1巻 技術開発に賭ける』(稲盛和夫著 ダイヤモンド社)の中で、そこに携わる人のもつ人間性について、名誉会長は次のように説かれています。

 愚直に夢を描いて、一生懸命にやるのが研究開発の始まりであり、我が社にはそれを許す雰囲気があります。

 しかし、確固とした思いもなく、ただただ空想のような発想で「やる」と決断し、ネガティブなことを考え尽くさずに着手してしまい、その結果うまくいかないといったケースがあまりにも多いため、もともとポジティブであるべき発想の方にしわ寄せや制約が出てしまう。

 ですから、難しいけれどもやろうと決めて、それを成功させていくためには、まずは自由に空想し、大胆に夢を描いた後は、実行に移す前に徹底的に悲観論を並べ立て、それを前提にどのように乗り越えるかというポジティブな考え方を持った上で、緻密な試行錯誤を繰り返していく。
 最初の発想自体が夢をみるようなとてつもないものであればあるほど、そうしたステップを踏んでいかなければ、たいへんな状況に陥ってしまいます。


 そこで大事になるのが、そこに携わる人のもつ人間性です。能力以上に大切なのが人間性、つまり、考え方と熱意もしくは意志であり、これは研究開発に限らず、物事を成し遂げていく場合に一番効いてくるような気がしています。(要約)

 そもそも自由に空想できなければ、大胆に構想を広げることもできません。自分の中にある「イメージ」をどこまで「できる」ものとして具体化できるのか。
 得意不得意はあるかもしれませんが、少しでも「できる」という確信がもてる段階にまで高めた上で、アクションにつなげていきたいものです。

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