【ブックレビュー】『最強英雄と無表情カワイイ暗殺者のラブラブ新婚生活 1』/アレセイア/motto
『最強英雄と無表情カワイイ暗殺者のラブラブ新婚生活 1』/アレセイア/motto
『キャッチコピー』
言葉が、キャラクターに纏い、物語となって躍る
【あらすじ】
英雄と暗殺者のイチャイチャスローライフ新婚生活!
魔王を討った最強の英雄、エルドは最後の任務を終え、相棒であり、恋人である裏世界最強の暗殺者、クロエと共に隠居した。
そして始まる新婚生活! しかし、戦いばかりだった二人はどうイチャイチャしていいか分からなくて――?
「えっちな暗殺者は嫌い、ですか?」「クロエのことは好きだぞ」
たまに暴走しつつも幸せな結婚生活を送る二人。そんな中、英雄の一人であるレオンが二人のもとを訪ねてきて……!?
これは魔王亡き平和な世の中の後日譚。二人だけの新婚物語開幕!
(「https://firecross.jp/hjbunko/series/509」より引用)
【感想】
面白かった。タイトルから察するにイチャイチャ生活を描いただけのものかと思えば違っていて、平和になってもなお訓練をする二人の様子や、村での日々、ひょんなことから巻き込まれる(巻き込まれにいったとも言える)戦いと幅広い。
それでいてメインのイチャイチャする様子ももちろん素晴らしかった。情事やそれに向かっていく様子などは、読んでいてドキドキさせられたし、妙に艶かしくリアリティがあった。それはそこに至るまでの二人のことをしっかりと書いているからだろう。戦いやイチャイチャシーンの筆圧や語彙力はわかりやすくもその激しさが伝わるものになっていた。
が、実は一番個人的にえっちだなと感じたのは二人の言葉のない関係性、コンタクトの方。戦闘でも生活でも通じ合っているそのシーンひとつひとつこそが尊く、読んでいて最も悶えた部分だった。また、逆にすれ違ってしまう部分もしっかりあって、いわゆる繰り返すだけになっていないのには作者の力量を感じた。
単なるご都合主義的なイチャイチャスローライフだとなめてかかっていると、二人のマジなイチャイチャ、作者の筆圧に飲み込まれてしまうのは間違いない。
現に僕自身がそうだった。スターバックスでその本を開いたものの、一滴も飲まずに読み切ってしまい、本を閉じて始めて喉の渇きに気づいたくらいだ。
【より個人的な感想、技術について】
この物語を読み始めて数十分は読みづらい印象があった。それは作者の力量不足などではない。僕自身の読む方に問題がある。それはライトノベルというジャンルにほとんど触れていなかったということだ。純文学や大衆文学(エンタメ)というものには触れてきたし、オーディブル(Amazonの耳で聴く読書サービス)で何作かは聴いたが、文章で読むのは両手で足りるほどの冊数。
だからこそ気づけたことが一つだけある。それは、この物語を誰の視点で読むかということだ。もちろん、主人公とその妻の物語なので、そのどちらかに寄るのは当然だろう。だがしかし、すぐには物語に入っていけなかった僕は、どこか他人事として受け取っていたところがあった。いわば隣の部屋の夫婦(会ったら会釈するくらいの関係)の距離感だろうか。
それが読み進めていくうちにのめり込んでいく。ときに主人公目線から愛しい妻を思う気持ちになったり、妻が夫に思いを寄せる気持ちにリンクしたり、かと思えば客観的に二人のイチャイチャを眺めていたり、主観と客観が絶妙なタイミングで入れ替わるのである。だからこそ読んでいる自分の心がいろんな方向に動かされ、それが最後のバトルシーンの凄まじさと合わさって、読後のカタルシスまで最短距離で連れて行ってくれる。
こういうふうに三人称って書くんだ! と目から鱗だった。
日常のイチャイチャ、情事、バトルシーン、その文体はリズムや言葉選びによって自由自在に強度や濃度、太さを変え、階段を一つならず二つ三つと飛ばして駆け上がっていくような読書体験をくれた。その文章力、構成力にも脱帽である。
もうひとつ面白い! と感じたのはキャラクターの会話から推測される、平和になる以前の物語。
それら一つだけで一冊の本、そこまででなくても一章くらい作れそうなほど面白そうなものを、ただの過去話として処理してしまっているのが面白い。あくまでメインは今の生活であるということを忘れず、過去回想は最小限にとどめ、それを思い出すことによって繰り広げられる今のキャラクターたちの反応こそしっかりと描くというのは、並大抵の物書きではできないだろう。
少なくとも僕には不可能だ。どうしても描きたくなってしまう。だってそれを書けば関係を描けるし、ストーリー性が格段に上がるのは間違いない。キャラクターの魅力も倍増するかもしれない。しかし、間延びしてしまったり、メインストーリーがおろそかになってしまうおそれがある。
かといって書くべきものをただ丁寧に書くだけでは面白味にかける。今作はその塩梅がちょうどいいを超えて、最高なのだ。読者が期待する展開から大きく逸脱はせず、ただ必ず意外性やドキッとする要素を入れてくる。
個人的に好きなのはゴリラのくだり。そこは詳しくは説明しないのでぜひ読んでみてほしいが、全速力で群れで向かってくるゴリラの図を想像したら公共の場にも関わらず声を出して笑ってしまった。
そのほかにも数多くの広げられそうな風呂敷、物語があるが、それらが読めるのは次巻以降になりそうである。
もちろん次巻も買わせていただきます!
【まとめ】
最後に余談。実は作者は同大学の先輩で、一年生の頃から数えきれないくらいお世話になった。創作の悩み相談でしてくれた回答が今作の要所要所に見つけられ、そのたびに当時仰っていただいたことの答え合わせをしていただいている気分になった。
僕はまだデビューまでは遠いですが、「いいんですかい旦那ぁ……こんな良い参考書を書いちゃってぇ……」と小悪党ヅラでこの文章を書くことで、成長した姿を見せられたら幸いです。
悪党です! と元気で可愛い忍が影からツッコミに出てきてくれないものかと思いながら……。
作品の詳細はこちら
「https://firecross.jp/hjbunko/series/509」
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