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おやじパンクス、恋をする。#118

「よくわかんねえけど……じゃあ、嵯峨野が会社を乗っ取る、ついでに姉貴も手に入れようとしてるって話は、雄大のガセなのか?」

「ガセっていうか、なんていうんだろう、あいつの中では真実なのよ」

「はあ?」

「私や嵯峨野から見れば、それは正しくないの。さっきから言ってる通り、私たちはもう争ってない。梶パパ派だった社員たちも、私がああやって明確に白旗を上げてみせたのを見て、しぶしぶながらも納得してくれたわ。でも――」

「でも?」

「でも、雄大の基準では、嵯峨野は会社を乗っ取ろうとしてる悪魔みたいな奴で、そのやり方に理解を示している私は、嵯峨野に洗脳されて操られてるんだって、そういうことになっちゃうの」

「なんでだよ」当然ツッコむ俺。

 彼女はまた溜息をつく。

「……あの子はちょっと、普通じゃないの。思い込みが激しくて、精神的にも不安定で、頼れる人がいないと壊れちゃう。だからパパが自分の会社に引き入れて面倒を見てたんだけど、病気のことで現場にはいられなくなって。もちろん病院まで来れば会えるんだけど、嵯峨野との打ち合わせにかなりの時間が割かれたからね。あの子からすれば、自分を放っておいて嵯峨野と何か秘密の話を進めてる、そんな風に見えたんだろうね」

「なんだよそれ、小学生かよ」涼介がカシャンとジッポーを閉じながら言う。

「まあでも、分からなくはねえなあ。俺も似たようなこと思ったことあるよ」とカズ。

 確かに、親父が忙しくて寂しい思いをしたって話は聞いたことがある。その結果としてなんでこんなノホホンとした野郎になるのかは知らねえけど。

「でも、だとして何なんだよ」ずっと黙って俺たちの話を聞いていたタカが口を開いた。

「あいつがそう思ってるとして、具体的に何が問題なんだ?」

 妙に真剣なその言い方に、俺はちょっと違和感を持った。いや、別に大した意味はないのかもしれねえけど、なんとなくタカの顔がいつもと違うような気がしたんだよ。

 だが、皆は特に気にならなかったんだろう。カズがゆったりと話を継いだ。

「確かにそうだな。結局のところ、倫ちゃんは何を心配してんだよ。それを言ってくれねえと、俺たちもどうしていいかわからねえよ」

 彼女はしばらく考えていた。やがて意を決したように顔を上げ、スッと息を吸った。

「今日医者と話したわ。梶パパ、もってあと二ヶ月だって。パパが死んだら、あの子はどうなっちゃうんだろう。何か怖いことが起きそうで心配なんだよ」

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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