おやじパンクス、恋をする。#011
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
ランドセルを背負ってなかったから、中学に上がってからの話だと思う。ああ、そうそう、慣れない詰襟に居心地の悪さを感じてた記憶があるから、中一になりたての頃だったのかな。
学校帰り、俺は一人で家までの道を歩いてた。俺の住んでた地域はたまたま中学校の数が少なくて、だからそれぞれ校区は結構広くて、いろんな小学校出身のやつが集まってた記憶がある。バスとかを使うほどではなかったけど、片道徒歩三四十分くらいはかかってた気がする。
通学路に沿ってドブ川みたいのが流れててさ、ヘドロが溜まってて臭かったな。俺はその横の道をトボトボと歩いてた。そうだ、確か夕方だった。空がピンク色でさ。
その時だった。
「ねえ」
後ろから誰かの声が聞こえたんだ。
……だが俺は無視した。いや、無視っつうか、それが俺にかけられた声だとは思わなかったんだな。何しろ、友達が少なくて、普段誰かから話しかけられることなんてほとんどねえからさ。
はは、笑える。
とにかく俺はそのまま、いやむしろスピードをあげて歩いていったんだけど、なぜかその声が追ってくるんだよ。
「ねえってば」
さすがの俺もなんかおかしいぞって思って、足を止めて恐る恐る振り返ったんだ。
そしたらそこに誰かがいた。だけど、夕暮れの太陽を背にしているせいで、眩しくてその顔がよく見えない。輪郭だけが黒く浮き上がってるような感じで、ほら、ドラマとかによくあるだろ、そういう場面。ただ、その子が他でもねえ俺に話しかけているんだってのは間違いなさそうだった。
「な、なに?」俺は戸惑いながら応えた。
「あんた、あたしのこと知ってるでしょ」
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